↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/7

4.


 領地境の街にある中立地帯の公会堂は、かつてない奇妙な熱気に包まれていた。

 長テーブルを挟んで向かい合うのは、ミウの父である族長を筆頭とする白狐族と、レオンの父で騎士隊総隊長と黒豹族の若き騎士たちだ。本来なら領地のブドウの作高や川の漁獲量でちくちくと嫌味を言い合う間柄だが、今日ばかりは議題が違った。



「――というわけで。紋章も証明されましたし、私、レオンの家にお嫁に行こうと思うのだけど」



 上座に座ったミウが、お気に入りのクッキーをサクサクと齧りながらお茶の間に爆弾を落とす。

 隣に座るレオンは、ぴっちりとした黒の騎士礼服に身を包み、いつも通りの冷徹な鉄仮面で腕を組んでいた。しかし、ミウが「お嫁に」と言った瞬間、彼の長い黒尾がドゴォンと激しく床を叩いた。顔にでないがよほど嬉しいようだ。



「ちょっと若。尻尾で公会堂の床板を割らないでください」


レオンの部下が至極面倒そうに苦言を呈する。しかし、尻尾の威力が収まることはなさそうだ。



「おのれ、嬉しさを隠す気ゼロかあの野郎……」



 白狐族の術士たちがキーキーと騒ぎ立てる中、白狐の族長であるミウの父が、悔しそうにテーブルを叩いた。



「認めん。認めんぞ。番の宿命は天の定めだが、獣人の礼儀というものがある。二歳も年下の、しかも愛想の無い男にうちの大事な娘を嫁がせられるか」


「そうだそうだ。もっとこう、優しくて、スマートにエスコートしてくれる男じゃないと」



 狐の身内たちが一斉にヤジを飛ばす。元来、魔術に秀でている白狐族からすれば筋肉隆々の騎士などというのは野蛮に見える。その中でも一際体格のよいレオンなど論外と言えよう。

 すると、沈黙を守っていた黒豹族の当主が、ふんと鼻で笑いながら言い放つ。




「ふん、何を言うかと思えば。うちのレオンは口数こそ少ないが、若くして分隊長を務めるエリートだ。たしかに、そちらの娘御を拉致したと聞いた時は冷や冷やしたが……昨晩のディナーは、レオン自らが厨房に立っていたそうじゃないか」


「ええっ、レオン様が手料理を」


「あの、包丁より大剣握ってる方が似合う若が」



 今度は黒豹族の部下たちが大騒ぎし始める。レオンの父は勝ち誇ったように胸を張った。


「うちの息子は不器用だが、行動で示す男なのだ。言葉だけの軟派な狐共とは格が違う。おいレオン、ミウ殿に何か気の利いたことの一つでも言ってみせろ。黒豹の男の甲斐性を見せてやれ」



 父親からの無茶振りに、両家の視線が一斉にレオンへと集まった。

 ミウも「あら、がんばれ」と、他人事のようにワクワクしながら隣の年下の旦那様(仮)を見つめる。

レオンは、全員の視線を浴びながら、さらに眉間のシワを深くした。あまりの凄まじい眼光に、白狐族の若い術士が怯えるほどの強面だ。

 レオンはゆっくりと口を開いた。



「……毎日、肉を、焼く」



 沈黙。



「……それだけか」


「猟師の求婚かよ…」



 白狐族が一斉にツッコミを入れる。先程まで、レオンに怯えていたがあまりの脱力する発言にツッコミと言うよりはもはや呆れて言葉が零れたのだった。

 しかし、ミウには見えていた。レオンの黒い耳の先が真っ赤になり、彼の手が緊張なのか小刻みに震えているのが。何より、彼の長い尻尾が、ミウの椅子の脚にそおっと、すがるように巻き付いてきているのを。


(ふふ。一生懸命考えて、それなのね。可愛いわぁ)


「いいわよ、レオン。私、あなたのお肉料理大好きだから。毎日焼いてね」



 ミウがレオンの大きな手を握り、にこりと微笑む。

 その瞬間、レオンの手が熱くなり、同時にレオンの背後の尻尾が、喜びのあまり扇風機のように激しくブンブンと回転し始める。



「あーーー。ミウ様がもう完全に手懐けていらっしゃる…いや、無意識か?無意識なのか?」


「うちの若の威厳が、あの白い女狐に吸い取られていく……」




 両家が頭を抱えて大騒ぎする中、ミウとレオンの周りだけは、まるで春の陽気のような甘い空気が漂っているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。