2.
連れてこられたのは、森からほど近いレオンの私邸だった。
天蓋付きの大きなベッドがある部屋に降ろされ、ミウはマントから這い出る。てっきり手枷でも嵌められるのかと思いきや、ミウを下ろすとレオンはそのまま部屋を出て行った。外側から鍵をかけられた様子はない。
(鍵をかけなくてもよかったのかしら?逃げろってこと?)
少し待ってはみたものの、彼が戻ってくる様子はない。仕方なく部屋を観察してみることにする。
しかし、捕虜なのか何なのか捕らわれたことは分かるがその割には随分と良い部屋に通されたようだとミウは思った。
初めに目に入ったベッドはもちろんのこと、壁にかけられた絵や絨毯とカーテンに至るまでセンスよく全て一級品で揃えられていることがわかる。
もしや、先程の「番の紋章」のおかげでそれなりの部屋へと通してもらえたのだろうか?
などと、考えているうちにガチャリと扉の開く音がする。レオンが戻ってきたのだ。
その手には、大きな銀のトレイが握られている。トレイの上には、湯気を立てる焼きたてのパイ包みと、甘い香りのするハーブティーが乗っていた。
何事かとミウが呆けている間にレオンは無言のままトレイを机に置くと、ミウをじっと見つめた。
「……食え」
「私、一応捕虜?じゃないのかしら。毒でも入ってる?」
「入っていない」
促されるまま、ミウはフォークを手にとってパイをひかついた。サクサクの生地から溢れる肉汁が口いっぱいに広がる。どうやら子羊のパイ包みだったようだ。
「……美味しい。すごく美味しいわ」
ミウはぱあっと顔を輝かせて笑った。そういえば、ハーブを摘むのに夢中でお昼を食べるのを忘れていたわ。などとぼんやり考えながら食べすすめる。
レオンは相変わらず腕を組んで、恐ろしいほど険しい顔でミウを睨みつけている。
しかし、彼の後ろでは隠しきれていない長い尻尾が、床の上をバタバタバタバタとものすごい勢いで激しく左右に揺れ動いていた。絨毯が擦れる音は部屋中に響き他の部屋まで届いてしまいそうなほどだ。
ミウはそれを見て、吹き出しそうになるのを必死に堪えた。これはどうやら自分は捕虜ではなさそうだと感じたミウは悪戯ごころが湧いてくる。そしてついてでた言葉が
「ごちそうさま。これからよろしくね、旦那様」
ミウがお茶を啜りながら微笑むと、レオンはフイッと顔を背けた。その黒い耳の裏が、うっすらと赤く染まって見えたのは、ミウの勘違いではないはずだ。




