第四話 まだ見ぬ道へ、フロンティア開業に向けて
フロンティアの名前が正式に発表されてから、数日。
舞洲鉄道では、新線開業に向けた準備が少しずつ本格化していた。
運転司令室の大型モニターには、これまでの三路線に加えて、建設中のフロンティアの路線図も表示されるようになっていた。
まだ営業列車は一本も走っていない。
しかし、そこには確かに新しい一本の線が描かれている。
司令長は、その線をじっと見つめていた。
『……なんだか不思議ですね。』
隣にいた司令員が振り返る。
『何がです?』
『今まで何もなかったところに、こうして新しい路線ができていくんですから。』
『確かに。』
司令長はモニターに表示されたフロンティアを見る。
『でも、ここに列車が走るようになるんですよね。』
『はい。』
『そう考えると、まだ実感が湧きませんね。』
二人はしばらく路線図を眺めていた。
その時。
『司令長、会議の時間です。』
別の司令員から声がかかった。
『分かりました。』
司令長は資料をまとめ、席を立った。
今日から始まるのは、フロンティア開業に向けた本格的な運行計画の検討だった。
会議室には、運転司令だけではなく、運転士、車掌、駅員、車両担当、設備担当など、さまざまな部署の関係者が集まっていた。
前方のスクリーンには、大きな路線図が映し出されている。
舞洲本線。
舞洲東線。
空港線。
そして――フロンティア。
『それでは、フロンティア開業に向けた運行計画の検討を始めます。』
会議が始まった。
まず、フロンティアの基本的な運転本数について話し合う。
『開業当初は、朝の時間帯に一時間あたり六本を予定しています。』
担当者が説明する。
『昼間は四本。夕方は六本を基本とします。』
司令長は資料に目を通す。
『この本数だと、舞洲本線との接続はどうなりますか?』
『現在のところ、接続を考慮してダイヤを組む予定です。』
『直通列車は?』
その質問に、会議室が少し静かになった。
担当者が資料をめくる。
『一部の列車について、舞洲本線からフロンティアへの直通運転を検討しています。』
『一部というのは?』
『朝夕を中心に設定する予定です。』
司令長は頷いた。
直通運転。
それが実現すれば、利用者にとっては乗り換えなしで目的地へ向かえる。
しかし、運行する側にとっては簡単な話ではない。
『直通列車を設定すると、舞洲本線のダイヤにも影響が出ますよね。』
『はい。』
『フロンティア側で遅れが発生した場合、本線側にも影響する可能性があります。』
『その点は運転整理で対応します。』
司令長は少し考えた。
『運転整理だけでなく、そもそも遅れを広げないダイヤにする必要があります。』
会議室が静かになる。
司令長は路線図を指差した。
『フロンティアと舞洲本線が接続するこの区間。ここが重要になります。』
『はい。』
『ここで列車が集中すると、一本の遅れが後続列車に影響する可能性があります。』
『確かに……。』
担当者が路線図に印をつける。
『じゃあ、列車間隔を少し広げますか?』
『それだと本数が減ります。』
別の担当者が答える。
『利用者が多い時間帯ですから、それは避けたいですね。』
『では、どうするか。』
司令長は腕を組んだ。
一つの問題を解決すると、別の問題が出てくる。
新線を作れば便利になる。
しかし、その便利さを実現するためには、複雑な運行計画が必要になる。
会議は続いた。
次に話題になったのは、車両だった。
『フロンティアの開業によって、必要な車両数が増えます。』
車両担当が説明する。
『現在の車両だけでは、通常ダイヤと開業後の増発を同時に行うのは厳しい可能性があります。』
『車両を増やす必要があるんですか?』
『はい。』
司令長は資料を見る。
『新型車両の導入予定は?』
『現在、検討中です。』
『まだ決まっていない?』
『はい。』
司令長は少し驚いた。
フロンティアの開業まで、それほど時間は残されていない。
それなのに、車両についてもまだ決まっていないことがある。
『これは急いだ方がよさそうですね。』
『そうですね。』
続いて、乗務員の話になった。
『運転士と車掌も増やす必要があります。』
『訓練は?』
『開業前に実施します。』
『フロンティアの線路を実際に走る訓練も必要ですね。』
『はい。』
司令長は次々とメモを書いていった。
運行本数。
直通運転。
車両。
乗務員。
駅。
信号設備。
考えなければならないことは、まだまだある。
会議開始から、すでに二時間近くが経っていた。
時計を見る。
『もうこんな時間ですか。』
『かなり長くなりましたね。』
司令員が苦笑する。
『でも、まだ終わっていません。』
『そうですね……。』
会議はさらに続いた。
そして最後に、大規模イベントについての話が出た。
『フロンティアの開業日は、大規模イベントの開催日と重なっています。』
スクリーンにイベント会場の位置が表示される。
『当日は、通常の利用者に加えて、大量の来場者が舞洲へ訪れると予想されています。』
『どのくらいですか?』
『現在の予測では、通常時の数倍になる可能性があります。』
会議室がざわつく。
数倍。
それは、舞洲鉄道にとってかなりの負担になる。
『臨時列車を設定する必要がありますね。』
『はい。』
『駅の入場規制は?』
『必要になる可能性があります。』
『車両は足りますか?』
『そこも現在検討中です。』
司令長は黙って路線図を見つめた。
新線を開業する日。
そして、大規模イベントが開催される日。
普通なら、それぞれ別々に準備すればいい。
しかし今回は違う。
二つが同じ日に重なっている。
『……かなり大変な一日になりますね。』
司令長が呟く。
誰も否定しなかった。
会議が終わったのは、それからさらに一時間後だった。
司令長は司令室へ戻る。
大型モニターを見る。
そこには、いつもの三路線と、まだ列車の走っていないフロンティアが表示されている。
『これが完成したら、舞洲鉄道の景色も変わるんでしょうね。』
司令員が言う。
『そうですね。』
『新しい駅に人が集まって、新しい列車が走って……。』
『そして、私たちの仕事も増える。』
『それは言わないでくださいよ。』
二人は笑った。
しかし、司令長は再びフロンティアの路線図を見る。
まだ誰も乗っていない。
まだ列車も走っていない。
まだ駅も完成していない。
それでも、確実にその日は近づいている。
フロンティア開業の日。
舞洲鉄道にとって、新しい時代が始まる日。
司令長は机の上の資料を手に取った。
その表紙には、大きくこう書かれている。
「フロンティア開業運行計画」
司令長は資料を開いた。
『さて……。』
『はい?』
『ここからが本番ですね。』
新しい路線。
新しい列車。
新しいダイヤ。
まだ見ぬ道へ向かって、舞洲鉄道は少しずつ動き始めていた。
そしてその先には――。
誰も経験したことのない、フロンティア開業の日が待っている。
第4話を読んでいただき、ありがとうございました!
今回は、フロンティア開業に向けて本格的な運行計画の検討が始まりました。
列車の運転本数や直通運転、車両、乗務員など、決めなければならないことがたくさんあります。
新線を一本作るだけでも、こんなに色々な準備が必要なんですね……。
そして何より問題なのが、フロンティアの開業日と大規模イベントの開催日が重なっていること。
通常の開業だけでも大変なのに、そこへ大量の利用者が加わるとなると、司令長たちはかなり忙しくなりそうです。
Season 2はまだまだ始まったばかり。
フロンティアは無事に開業できるのか。
そして、開業記念列車とは一体どんな列車なのか……?
次回もぜひお楽しみに!
それでは、第5話でお会いしましょう!




