鉄の暴風雨の予兆
その頃、雪雲の彼方にある帝国の首都では、冷酷な粛清と再編が行われていた。
「コラール川の失態は、我が帝国の歴史に残る汚点である。そうは思わないか?」
豪奢な宮殿の執務室。帝国の絶対的な指導者である最高司令官ヨーゼフは、分厚い葉巻を燻らせながら静かに言い放った。一切の感情を排したその氷のような声に、居並ぶ将官たちは恐怖で震え上がった。
ヨーゼフは、緒戦で大敗を喫した無能な前線の将軍たちを次々と「反逆罪」で粛清し、代わって一人の男に全軍の指揮権を委ねた。
新たに総司令官に任命されたのは、極寒の凍土よりも冷たい目をした男、ティモセン将軍であった。
平民出身でありながら、徹底した合理主義と冷酷なまでの実力でのし上がってきたティモセンは、これまでの将軍たちが陥っていた「兵士の突撃と戦車への過信」という傲慢な戦術を根底から破棄した。
「敵の陣地が堅牢ならば、陣地ごと地形を変えればいい。敵の狙撃手が森に潜むならば、森そのものを灰にしろ」
ティモセンの命令の下、帝国の巨大な軍事機構が再び冷酷に動き始める。
数週間後。
王国軍の監視哨は、国境線の向こう側に広がる絶望的な光景を目の当たりにすることになる。
地平線を埋め尽くすほどの、見渡す限りの野砲、重砲、多連装ロケット砲。
ティモセンは、国内にあるありとあらゆる砲兵戦力を、主戦線とコラール川の正面に掻き集めていた。その数は、王国軍が保有する大砲の数十倍。もはや戦術や個人の技量をあざ笑うかのような、純粋で暴力的な「質量」の壁だった。
「……聞こえるか、レオン」
前線の塹壕で、ガルド大尉は双眼鏡を下ろし、低く唸った。
地鳴りのようなキャタピラ音と、何十万という帝国兵の行進の足音が、遠くから不気味な重低音となって雪原を震わせている。
「世界一くだらねぇ、鋼鉄の嵐が来るぞ」
レオンは無言のまま、愛銃のボルトを引いた。
どれほどの絶望が押し寄せようと、やることは変わらない。照星の先に敵の頭を捉え、引き金を引く。ただそれだけだ。
凍てつく風の中、世界を飲み込む真の冬の戦争が、今まさに始まろうとしていた。
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