主戦線の軋み
世界が王国の健闘に熱狂する一方で、軍の上層部と、ガルド大尉のような前線の戦術家たちは、誰一人として楽観視していなかった。
「……クソったれ。義勇兵が何千人来ようが、焼け石に水だ」
作戦司令部。広大な大陸の地図を見下ろしながら、ガルドは葉巻を噛みちぎるように言った。
レオンたちが守り抜いた「コラール川」は、あくまで戦線全体の右翼、北方の局地戦に過ぎない。王国の命運を握る真の主戦場は、首都への最短ルートである南方の平原地帯に築かれた巨大な防衛線――通称『絶対盾線』であった。
そこでは今この瞬間も、王国軍の主力と帝国軍の大部隊が、血みどろの消耗戦を繰り広げている。
地の利と強固なトーチカ(コンクリート陣地)を活かして善戦してはいるものの、王国側の損害は日に日に増大していた。兵力、物資、そして何より「人間の数」。十倍以上の国力差がある帝国を相手に、消耗戦に持ち込まれれば、最終的にすり潰されるのは小国である王国の方なのだ。
奇跡は二度起きない。コラール川での敗北は、帝国にとって「油断」と「慢心」が生んだ結果に過ぎなかった。
「目を覚まさせちまったんだよ、俺たちは」
ガルドは地図上の帝国領に、赤鉛筆で巨大なバツ印を書き込んだ。
「手負いの熊は、痛みを覚えたら逃げるんじゃない。……本気で怒り狂うんだ」
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