義勇の波
コラール川での大勝は、凍てつく雪原を越え、瞬く間に世界中へと波及した。
大陸の中央に位置する国際的な平和維持機関「諸国連盟」は、宣戦布告なき侵略を行った帝国を激しく非難し、連盟からの追放を決定。これまで帝国の報復を恐れて沈黙していた周辺諸国も、王国が示した「帝国軍は無敵ではない」という事実を前に、次々と立ち上がった。
王国には中立国から最新の対戦車兵器や航空機、膨大な医療物資が秘密裏に送り込まれ始めた。さらに国境を越えて、数千人規模の「外国人義勇兵」が王国軍に参加するために押し寄せたのである。彼らは祖国を持たない傭兵や、帝国の覇権主義を憎む理想主義者たちだった。
世界中の新聞が、たった一国で巨獣のような帝国に立ち向かう王国を讃え、連日トップニュースで報じた。そして、その記事の主役は常に「コラール川の奇跡」を引き起こした若き天才狙撃手――『白い死神』だった。
「見ろよレオン! 異国の新聞にお前のことが載ってるぞ! 『雪原の悪魔』『帝国の心臓を撃ち抜く英雄』だってよ!」
塹壕の中で、興奮気味に新聞の切り抜きを見せてくる若い義勇兵たち。
しかし、ストーブの前で銃のメンテナンスをしていたレオンは、その見出しに一瞥をくれただけで、興味なさそうに視線を銃身に戻した。
「……紙切れで人は殺せません。それに、俺は英雄じゃない」
「おいおい、照れるなって!」
義勇兵たちは笑い合ったが、レオンの瞳はひどく冷たかった。
世界がどれほど彼を讃えようと、政治家たちがどれほど高尚な演説を打とうと、レオンにとってはどうでもいいことだった。彼が望むのは世界平和でも国家の存亡でもない。アリシアを奪い、両親を殺した帝国の人間を、一人残らずこの手で地獄へ送ること。そのどす黒い怨念だけが、彼を雪原に立たせているのだから。
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