第9話 メリアのための最初の城
「俺がその家を買います。すぐに契約書を作ってください」
俺が食い気味に即答すると、トーマスは目を丸くしてフリーズした。
「が、ガルド様、私の話を聞いていらっしゃいましたか!? ゴブリンが出ぶんですよ!? スライムも出ますし、家はボロボロで――」
「ああ、ちゃんと聞いていたとも。つまり、最高の立地だということだろう?」
俺は心の中で、これ以上ないほどのガッツポーズを決めていた。
俺は昨日まで、パーティー『輝きの剣』で、ドラゴンや魔族を相手に最前線で支援魔法を張り続けていた男だ。
俺の基準からすれば、ゴブリンやスライムなど、その辺を飛んでいる羽虫以下の存在でしかない。
そもそも、俺が本気で丘全体に『防衛結界』と『魔物避けのルーン』を張り巡らせれば、ゴブリンどころか魔物ですら指一本触れることはできない。
この世界で結界を張るなんて、本来なら――聖女を呼ばなきゃ不可能に近い大魔法だ。
それこそ、国を挙げて儀式を行うレベルのな。
だが、俺の支援魔法で小範囲なら結界を張ることが出来る。
この世界で生き延びるために、泥水を啜りながら必死に学び、そして何度も磨き上げてきた支援魔法だからだ。
それに、長年放置されて家がボロボロ?
そんなもの、俺の『物質復元魔法』と『土木魔法』を組み合わせれば、半日もかからずに新築以上の豪邸にリフォームできる。
業者を呼ぶ必要すらない。
何より俺の心を撃ち抜いたのは、周囲に誰も住んでいないポツンと一軒家という点だ。
これならご近所トラブルはゼロ。
メリアが夜泣きしようが、魔法を暴走させて大声で遊ぼうが、誰にも気兼ねする必要がない。
俺とメリアのプライベートが完全に守られた、まさしく最強のパラダイスではないか!
「トーマスさん、その物件の値段はいくらですか?」
「え、ええと……長年買い手がつかず、土地代も込みで投げ売り状態ですので……銀貨三十枚です。ですが本当に――」
ドンッ!!
俺は腰のマジックポーチから、ずっしりと重い革袋を取り出し、テーブルの上に置いた。
中に入っているのは、正真正銘の銀貨だ。
「なっ……!?」
「ここに銀貨五十枚ある。三十枚は家の代金、残りの二十枚は、今すぐ今日中にすべての手続きを終わらせて鍵を渡してもらうための特急料金だ。即金で払う」
俺の長年の社畜生活の唯一の利点は、忙しすぎて金を使う暇が全くなかったことだ。
パーティーの雑用や武具のメンテナンスで徹夜ばかりしていた俺の口座には、パーティーの報酬である莫大な金額が、一切手付かずのまま眠っていたのである。
自分のために金を使ったことなど一度もなかったが、娘のためのマイホーム購入ならば、これ以上有意義な金の使い方はない。
「即金で……!? あ、あ、ありがとうございます! すぐに! すぐに書類を手配いたします!!」
圧倒的な現金の力を前に、トーマスはもはや魔物のことなどどうでもよくなったのか、目の色を変えて猛スピードで契約書を作成し始めた。
「ぱぱ、ここ、おうち、なるの?」
横で大人しくしていたメリアが、俺の服の袖を引っ張って聞いてきた。
「ああ、そうだ。お外には広いお庭があって、虫さんやお花がいっぱいあるぞ。メリアがおっきな声で歌っても、誰も怒らないお家だ」
「わぁっ! おにわ! おはな! メリア、おうち、いく!」
目をキラキラさせて喜ぶメリアを見て、俺の決断は間違っていなかったと確信する。
それから一時間後。
商業ギルドの魔力認証印が押された分厚い権利書と、少し錆びついた真鍮の鍵を握りしめ、俺とメリアは王都の門へと向かっていた。
目指すは、城壁の外、徒歩十五分の草原の丘。
ボロボロのワケあり物件? 魔物が出る危険地帯?
上等だ。俺のすべてを注ぎ込んで、あそこを世界で一番安全で、世界で一番温かい、俺とメリアの『城』にしてやる。
「いくぞメリア! パパがお家をピカピカにしてやるからな!」
「おー! ぴかぴかー!」
俺は新しいワンピースを着たメリアを左腕に抱き、右手で権利書を振り上げながら、見渡す限りの青空が広がる草原への一歩を踏み出したのだった。
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