第8話 草原の丘のワケあり物件
王都の中心部、巨大な石造りの建物が並ぶ一角に、その場所はあった。
冒険者ギルドよりもさらに立派で、大理石の柱が立ち並ぶ荘厳な建物――『商業ギルド』の本部だ。
俺はメリアと手を繋いだまま、商業ギルドの扉を抜け、広いエントランスに入った。
冒険者ギルドのような酒臭さや怒号は一切なく、身なりの良い商人たちが小声で交渉を行い、計算機がカチャカチャと鳴る音が響いている。
「すみません、不動産部門の窓口はどこでしょうか?」
案内の女性に声をかけ、ミナさんから預かった『紹介状』を見せると、俺たちはすぐに二階の個別ブースへと案内された。
ブースで待っていたのは、細い眼鏡をかけた神経質そうな中年の商人だった。
「お待たせいたしました。私が不動産部門の担当、トーマスと申します。冒険者ギルドのミナ君からのご紹介とのことで……ガルド様ですね」
「ああ、よろしく頼む」
トーマスは俺の顔の傷や屈強な体つき、そして俺の横の椅子で大人しく座っているメリアを見て、少しだけ不思議そうな顔をした。
「ご息女と、お二人で住む家をお探しとのことですが……ご予算やご希望の条件をお伺いしても?」
「俺は、この子と二人で静かに暮らすつもりだ。だから、治安が悪かったり、夜中まで馬車が通ってうるさかったりする場所は避けたい。それと、メリアがのびのびと遊べる庭がある、一軒家を希望する」
俺が条件を伝えると、トーマスは顎に手を当てて考え込んだ。
「なるほど……王都の中心部で庭付きの一軒家となると、貴族街に近いエリアになりまして、価格は金貨数十枚と、とんでもない額になってしまいます。少し外れでもよろしいでしょうか?」
「構わない。多少外れていても、静かで安全なら文句はない」
トーマスは分厚いファイルを取り出し、パラパラとページをめくり始めた。
いくつか物件の図面を見せられたが、隣の家との距離が近すぎたり、日当たりが悪かったりと、俺の求める環境とは少しズレていた。
「うーん……なかなか、条件にピッタリと合うものが……」
トーマスが眉間に皺を寄せた時、ふと、ファイルの一番後ろの方に挟まっていた古い羊皮紙が目に入った。
「その一番後ろのやつはなんですか?」
「え? ああ、これですか」
トーマスはその羊皮紙を引き抜き、苦笑いしながらテーブルの上に置いた。
そこには、王都の地図から少し外れた場所に丸印がつけられ、ぽつんと建つ一軒家の絵が描かれている。
「これはですね、条件の『静かで庭が広い』という点では、これ以上ないほど最高の物件です。なにせ、王都の城壁のすぐ外側、歩いて十五分ほどの少し小高い『草原の丘』の上にあるポツンとした一軒家ですからね。見晴らしは最高で、丘全体が庭のようなものです」
「ほう、いいじゃないか。俺はそういう自然豊かな場所を探していたんだ。メリアを大声で笑わせても、誰の迷惑にもならないだろう。なぜ最初に見せてくれなかったんだ?」
俺が身を乗り出すと、トーマスは慌てて首を横に振った。
「とんでもない! これは一般の親御さんには絶対にお勧めできない、いわゆる『ワケありの超格安物件』なんですよ!」
「ワ、ワケあり?」
「はい。先ほども申し上げた通り、この家は城壁の『外』にあるんです。王都の強力な結界の範囲外ですから、定期的にスライムやゴブリンといった魔物が出没します。それに、夜になれば腹を空かせた野犬もウロウロしています」
トーマスは眼鏡を押し上げ、深刻な顔で言葉を続ける。
「以前住んでいた木こりの夫婦も、魔物の恐怖に耐えきれずにすぐに逃げ出してしまいました。一般人にとっては危険すぎて到底住めません。長年放置されているせいで、屋根には穴が空き、床は腐りかけ、建物自体もボロボロの廃屋同然です。修繕するだけでも莫大な費用がかかるでしょう。……ですから、いくら格安とはいえ、小さなお嬢ちゃんを育てる環境としては、あまりにも――」
「買います」
「……はい?」
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