第5話 朝の騒動
突然、大声で呼び止められた。
バンッと大きな足音を立てて駆け寄ってきたのは、俺と同じ三十代後半くらいのおっさん冒険者、バードだった。
顔に大きな傷がある強面の戦士で、俺とは同じパーティーではないが、酒場でよく顔を合わせる割と仲が良い男だ。
バードのそのやけにでかい声を聞きつけ、周囲にいた他の冒険者たちも、わらわらと俺の方へ集まってきた。
「え……? ガルドさん、追放されたの?」
「マジかよ。ガルドさんがかい? 流石にあの若いリーダーのライズも、最近A級に上がってから調子に乗ってたしなー」
「ああ。あのガキども、自分たちの実力だけで強くなったって勘違いしてやがる。ガルドさんの支援魔法と野営の準備がなきゃ、まともにゴブリンの巣も潰せなかったくせによ」
集まってきた皆は、どうやら俺を責めるわけではなく、心底呆れたように同情してくれている様子だった。
まあ最近、パーティーの階級が上がるにつれて、ライズの横暴さは目に余るものがあった。
ギルドの職員に横柄な態度を取ったり、他の下級冒険者を見下したりと、周囲からの評判もあまり良くなかったのだろう。
俺が抜けた『輝きの剣』が今後どうなるか……想像するだけで頭が痛いが、今の俺にはもう関係のないことだ。
「まあ、そういうこった。俺はもうフリーだよ」
俺が苦笑いしながら答えると、冒険者たちがワッと騒ぎ始めた。
「だったら俺たちのパーティーに来てくれよ! ガルドさんの飯、いっぺん食ってみたかったんだ!」
「馬鹿野郎、うちが先だ! ガルドさんの支援魔法があれば、ワイバーンだって狩れるぜ!」
むさ苦しいおっさんたちが俺を囲んで言い争いを始め、メリアが「ひっ……」と身をすくませてしまった。
困ったな、どうやってこの場を抜け出そうか。
俺が困惑の表情を浮かべていると、人だかりを掻き分けるようにして、一人の女性がツカツカと歩み寄ってきた。
「ちょっと! 朝から入り口を塞がないでください!」
よく通る凛とした声。
俺に集まった人たちを退けるように現れたのは、俺が頼りにしていた馴染みの受付嬢、ミナだった。
艶やかな黒髪のボブカットに、理知的な漆黒の瞳。
タイトなギルドの制服をピシッと着こなした彼女は、騒ぎを鎮めようと眉を吊り上げている。
「ミナさん、助かりました……」
「ガルドさん!? 一体何をしているんですか、こんな朝早くから。追放されたって噂は私の耳にも入ってきて……って、えっ!?」
ミナは俺の顔を見た後、俺の胸元に視線を落とし、大きく目を見開いた。
俺の腕の中では、革のコートからちょこんと顔を出したメリアが、青い瞳をパチパチと瞬かせながらミナを見つめている。
「その子っ……誰ですか!? まさかガルドさんの……!?」
「いやぁ……ちょっと、色々とありましてね……」
俺が頬をかきながら曖昧に笑うと、ミナは瞬時にプロの顔つきになった。
周囲の冒険者たちが騒ぎ出しそうになる。
「はーい皆さーん! ガルドさんが困っていますので、離れてくださいー! 依頼を受けないなら外に出ますよ!」
ミナがパンパンと手を叩いて冒険者たちを散らすと、俺の腕をグイッと引っ張った。
「ガルドさん、詳しい話は裏で聞きます。こちらへ」
◇ ◇ ◇
案内されたのは、ギルドの奥にある防音対策が施された応接室だった。
ふかふかのソファに腰を下ろすと、ミナは温かいハーブティーを淹れてくれた。メリアには、少しぬるめにした甘いミルクと、小さなクッキーが添えられている。
「あまい! おいちい!」
メリアは両手でカップを持ち、ミルクの白いヒゲを作りながら嬉しそうに飲んでいる。
その姿を見て、ミナは目尻を限界まで下げてデレデレになっていた。
「はあぁ……なんて可愛いんでしょう。天使ですか? 天使ですね。……で、ガルドさん。一体どういう状況なんですか? まさか本当に、隠し子だったり……?」
「違う違う。この子は昨日、雨の路地裏で倒れていたところを俺が拾ったんだ。名前はメリアだそうだ」
俺はハーブティーを一口すすり、昨日の夜からの出来事を包み隠さず話した。
ライズたちから理不尽に戦力外通告を受け、パーティーを追放されたこと。
そして自暴自棄になって歩いていた裏路地で、雨に打たれて死にかけていたメリアを見つけたこと。
話し終える頃には、ミナはハンカチで目元を押さえていた。
「……なんて酷い両親でしょう。こんな小さな子を捨てるなんて。でも、ガルドさんに拾ってもらえて本当に良かったですね、メリアちゃん」
「えへへ……パパ、やしゃしいの。ごはんも、おいちかった」
メリアがクッキーをかじりながら俺にすり寄ってくる。
俺は自然とメリアの頭を撫でた。
「それで、ミナさん。俺が今日ここに来たのは、プロの助言が欲しかったからなんだ」
「プロの助言、ですか?」
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