第3話 小さな寝息と、新しい日常
「ふぁぁ......」
朝の日差しが俺の瞼を刺激する。
ゆっくりと重い瞼を開くと、横には可愛らしくスヤスヤ眠っているメリアがいた。
規則正しく上下する胸を見て、ホッと息を吐く。
昨日は冷たい雨に打たれてドタバタしていたが、体の疲労は大丈夫だろうか。
そっと額に手を当ててみたが、熱などは出していないようで安心する。
俺は頭をポリポリ掻きながら、メリアを起こさないよう、軋むベッドから音を立てずにそっと出る。
窓を開けると、昨夜の土砂降りのような雨は嘘のように晴れ渡り、王都の朝の喧騒が遠くから聞こえてくる。
「さて、メリアが起きる前に、朝食の準備をするか」
昨夜の夜は、魔法で無理やり黒パンと干し肉を柔らかくしたが、育ち盛りの三歳児に、毎日あんな塩辛い冒険者用の保存食を食べさせるわけにはいかない。
「とはいえ、ここは安宿の狭い一室だ」
俺は部屋を見渡して、ため息をつく。
あるのはガタつく小さなテーブルと椅子、そして水差し一つだけ。
当然、火を使うような調理器具もなければ、新鮮な食材もない。
普通なら、外の屋台で何か買ってくるか、宿の食堂で済ませるしかないだろう。
しかし、安宿で出される食事というのは、胃もたれしそうな脂っこい豆スープくらいしかない。
三歳の子供が朝から食べるには、ハードルが高いしな。
「何か、栄養があって、胃に優しく、温かいもの......」
俺は腕を組み、マジックポーチの中身を探り始めた。
パーティー時代、いつ野営になってもいいように、大量の食材や調味料をこのポーチにストックしているのが俺の雑用の一つだった。
「よーし、これならいけるか」
俺がポーチの奥深くから取り出したのは、以下の三つ。
一つめは、昨日市場で買っていた、少し硬くなりかけの白い丸パン。
それと、特製の牛骨ブイヨン。あとは回復ポーションの素材によく使われている、栄養価の高い薬草『ポポロ草』の新鮮な葉。
食材は揃ったが、問題は調理だな。
だが、俺には長年パーティーで磨き上げた生活魔法と支援魔法がある。
俺はまず、テーブルの上に小さな結界を張った。これで、これから発生する熱や匂いが部屋に充満するのを防げる。
次に、鍋を出して、俺はその中に牛骨ブイヨンと、細かくちぎった丸パンを入れた。
「温度を調整......《ヒート・コントロール》」
俺は鍋に手をかざし、ミリ単位で温度を調整しながら熱を加えていく。
ブイヨンがコトコトと音を立てて、沸騰し始めた。硬かった丸パンがたっぷりとスープを吸って、トロトロに崩れていく。
頃合いをみて、細かく刻んだポポロ草を散らし、風味付けに少量の岩塩を振りかけた。
完成したのは、見るからに胃に優しそうな『パン粥』だ。
立ち上る牛骨の深い香りと、ポポロ草の爽やかな香りが混ざり合い、俺自身の腹までグゥと鳴ってしまった。
「うーん......」
ふと、背後のベッドから可愛らしい寝返りの音が聞こえた。
振り返ると、メリアが小さな両手で目を擦りながら、むくりと起き上がっていた。
俺のダボダボのシャツが肩からズレ落ち、華奢で小さな肩が見えている。
「おはよう、メリア」
「ぱぱぁ......おはよぉ」
まだ半分寝ているのか、舌足らずな挨拶を返しながら、メリアはフラフラと覚束ない足取りで俺の方へ歩いてきた。
おお、なんて可愛らしいんだろう。まるで地上に舞い降りた天使だな。
俺は思わず顔を綻ばせながら、彼女をヒョイッと軽々と抱き上げて、洗面所に向かう。
魔法で少しだけ温めた水で優しく顔を洗い、寝癖で少し崩れていた青い髪も、指先で丁寧に梳かして直してやった。
そして身だしなみを整えたあと、俺は食卓へメリアを連れて向かう。
「くんくん......あ、いいにおいでしゅ」
「だろう? メリアの為に、特製のパン粥を作ったんだ」
俺は作ったパン粥を木の器に入れて、テーブルに置く。
メリアは小さな体で一生懸命よじ登るようにしてなんとか椅子に座り、俺も対面するように腰を下ろした。
「わぁ! ほかほかで、いい匂いでしゅ!」
メリアは湯気を立てるパン粥を見つめ、嬉しそうにポッと頬を赤らめる。
どうやら掴みは上手くいったみたいだな。
「それじゃあ、冷めないうちに頂くか」
「うん!」
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