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社畜おっさん、異世界で子育てはじめました~拾った娘が可愛すぎるので、世界一のパパを目指します~  作者: 空月そらら


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第21話 新しい家族

俺の魔力を解放した余波で、襲い掛かってきた二匹のブラックウルフが、まるで巨大な城壁に激突したかのように全身の骨を砕かれ、遥か後方の岩壁まで吹き飛んで即死した。

 

「遅すぎる。止まって見えるぞ」

 

 残る三匹が驚愕に見開いた赤い瞳すら、今の俺の極限まで強化された動体視力の前ではスローモーションに等しい。

 

 俺は地面を軽く蹴り、音すらも置き去りにする神速の瞬動で、最も巨大なリーダー格のウルフの懐に潜り込んだ。

 

「グァ――!?」

 

「消えな」

 

 悲鳴を上げる暇すら与えない。

 

 俺の右ストレートが、リーダー格のウルフの腹部に深々と突き刺さる。


 強化された拳の破壊力は、分厚い筋肉と毛皮をいとも容易く貫通し、奴の巨体をくの字にへし折った。

 

 ドンッ!!


 という大砲を撃ったかのような爆音とともに、リーダー格のウルフは原型を留めないほどに粉砕され、霧散した。

 

「あと二匹」

 

 俺は振り返ることもなく、背後から噛みつこうとしていたウルフの顔面を裏拳で粉砕。


 そして、逃げようと背を向けた最後の一匹に追いつき、その背中を上段からのかかと落としで容赦なく叩き割った。

 

 ズドォォォォォンッ!!

 

 地面がクレーターのように陥没し、もうもうと土埃が舞い上がる。

 

 戦闘開始から、わずか三秒。

 

 Aランク相当の凶悪な群れは、俺の拳と足技という純粋な物理の前に、一瞬にして完全なる殲滅を迎え、崖の底には再び静寂が戻った。

 

「ふぅ……」

 

 俺は拳に付着した汚れを魔力で弾き落とすと、自身から放たれていた威圧感と殺気を綺麗に引っ込めた。

 

 こんな恐ろしいオーラを出したまま近づけば、ただでさえ怯えている仔犬をさらに怖がらせてしまうからだ。

 

 俺はゆっくりと、足音を立てないようにして、岩壁の隅で丸くなっている白い仔犬の元へ歩み寄った。

 

 そして、警戒されないように大きな体を屈め、極力優しい、穏やかな声をかける。

 

「……もう大丈夫だ。ひどい怪我だな、痛かったろう」

 

 俺がそっと手を伸ばすと、仔犬はビクッ!と体を震わせ、小さな前足で顔を覆うようにしてさらに丸く縮こまってしまった。

 

 無理もない。


 自分を襲っていた凶悪な魔物を、瞬きする間に肉片に変えてしまった謎の大男なのだ。


 警戒して当然だ。

 

 俺は手を途中で止め、周囲をぐるりと見渡した。

 

 周囲をみても、この付近にこの仔犬の親らしき強大な魔物や動物の気配は一切ない。

 

「……親はいないのか。もしかして、お前もどこかから捨てられたのか?」

 

 独り言のように呟く。

 

 いくらなんでも、こんな無力な仔犬が単独で魔境を生き抜けるわけがない。


 おそらく、空を飛ぶ魔物に攫われてここで落とされたか、あるいは本当に親に見捨てられたのか。

 

 どちらにせよ、過酷な運命に翻弄された小さな命であることに変わりはない。

 

「……だが、俺は急がなきゃならないんだ。家で、俺の帰りを死ぬ気で待ってる娘がいるんでな」

 

 俺は立ち上がり、崖の上を見上げた。

 

 可哀想だが、野生の獣を拾って帰る余裕は今の俺にはない。


 安全な場所まで連れて行ってやりたいが、メリアの特効薬を一刻も早く届けることが最優先だ。

 

 俺が心の中で苦渋の決断を下そうとした、その時だった。

 

「……きゅぅん……」

 

 足元から、微かな鳴き声がした。

 

 視線を落とすと、先ほどまで恐怖でガタガタと震え、岩壁の隅で丸まっていたはずの白い仔犬が、ふらつく足で立ち上がっていた。

 

 そして、ヨチヨチと、本当に覚束ない足取りで一歩、また一歩と俺の方へ近づいてくるのだ。

 

「おい、無理して動くな。傷が開くぞ」

 

 俺が止めようと手を伸ばすより早く、仔犬は俺の巨大なブーツのつま先までたどり着いた。

 

 仔犬は、俺の顔をじっと見上げると――コテン、と、自分の血で汚れた小さな頭を、俺の足首に擦り付けてきたのだ。

 

「……くぅん、くぅん……」

 

 その温かい体温と柔らかな感触。

 

 ――ズキン、と。

 

 俺の胸の奥で、強烈な既視感が弾けた。

 

『おねがいでしゅ……たしゅけて……』

 

 冷たい雨の中、俺のズボンの裾を小さな手で必死に、震えながら掴んできた、あの日のメリア。

 

 この仔犬が今、俺の足首に体を擦りつけて助けを求めている姿は、俺を父親にしてくれたあの日のメリアと、狂おしいほどに一緒だった。

 

「……ッ、反則だろ、それは」

 

 俺は深く、長く、天を仰いでため息をついた。

 

 こんな顔を見せられて、こんな風にすがりつかれて。


 前世も今世も不遇だった、涙腺の緩い三十八歳の俺が、この小さな命を見捨てていけるはずがないだろうが。

 

 俺は再び身を屈めると、今度はためらうことなく、仔犬の小さな体を両手でそっと包み込むように抱き上げた。

 

 血と泥で汚れた毛並みなど一切気にせず、俺は仔犬の瞳を真っ直ぐに見つめて口を開く。

 

「……お前、俺と一緒に来るか?」

 

 俺の問いかけに、仔犬は少しだけ不思議そうに首を傾げた後、まるで言葉を理解しているかのように、コクリと小さく頷いた。

 

 そして、「きゅんッ!」と、怪我をしているとは思えないほど元気で、愛らしい声を上げたのだ。

 

「ははっ、いい返事だ」

 

 俺は自然と顔を綻ばせ、即座に簡素な治癒魔法を仔犬の体に流し込む。

 

 淡い光が仔犬の体を包み込み、刻まれていた痛々しい裂傷が多少塞がって、本来の純白で極上の毛並みが姿を現した。

 

「よし、傷は塞がったな。だが急ぐぞ、お前のお姉ちゃんになる子が家で待ってるんだ」

 

 俺はすっかり元気になったもふもふの仔犬を、絶対に落とさないように、かつ窮屈にならないように革のコートの小脇にしっかりと抱え込んだ。


 仔犬は俺の腕の中で安心したように丸くなり、目を細めている。

 

「しっかり掴まってろよ!」

 

 俺は再び体内に爆発的な魔力を循環させると、そびえ立つ百メートル近い崖の壁面を、たった一度の跳躍で空高く飛び上がった。

 

 光草という希望と、新しい小さな家族をその腕に抱き、俺は愛する娘が待つ王都へ向けて、再び音速の彼方へと駆け出していくのだった。

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