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社畜おっさん、異世界で子育てはじめました~拾った娘が可愛すぎるので、世界一のパパを目指します~  作者: 空月そらら


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第16話 魔力の暴走

メリアの体は、抱き抱えているこの瞬間も、異様なほど熱かった。

 

 革のコートと毛布越しでさえ、その異常な熱量が俺の胸に伝わってくる。


「はぁっ、はぁっ……」


 こんなに心配する感覚は、今まで生きてきて一度も味わったことがない。

 

 前世の社畜時代から家族を持った経験がないからなのか、我が子に命の危機が迫っているという感情に、俺自身も酷く焦ってしまう。

 

 凶悪なドラゴンと対峙した時でさえ、俺の心は氷のように冷静だった。


 仲間の盾が砕かれようが、絶体絶命の窮地に立たされようが、俺は淡々と支援魔法を構築し、最善の手を打ち続けてきた。


 だが今は違う。心臓が早鐘のように鳴り響き、喉がカラカラに乾いている。

 

 俺の腕の中で、メリアを見ると、その美しい青い瞳にはいつものキラキラとした活気が完全に消えてきていた。


 半開きになった瞳は虚ろで、息を吸うたびにヒュー、ヒューと苦しそうな音が鳴る。


「ぱぱぁ……くるちいよ……」

 

「大丈夫だ、もうすぐ着くからな。もう少しの辛抱だ」


 俺はメリアにそう伝えて、力一杯地面を蹴る。

 

 ドンッ、と爆発的な踏み込みで加速するが、上半身には一切の衝撃を伝えない。


 風の抵抗すらも魔力障壁で切り裂きながら、俺は朝の草原を矢のような速度で駆け抜けた。


 走るにつれて、視界を覆っていた霧がだんだんと晴れてきて、視界が見やすくなってきた。

 

 そうしてしばらく信じられないスピードで走っていると、前方に巨大な王都の城壁が見えてくる。


 普段なら十五分はかかる道のりを、俺はわずか数分で踏破していた。


 俺は何とか間に合えという祈るような気持ちで地面を強く蹴り、巨大な城門に到着した。

 

 門には、早朝の冷え込みに震えながら立つ二人の門兵がいた。


 彼らは、霧の中から突如として現れた大男の姿にギョッと槍を構えかけたが、俺は立ち止まることなく彼らの前に滑り込んだ。


「開けてくれ! 娘が急病なんだ!」


 そして門兵に冒険者ギルドの身分証を叩きつけるように見せつけ、事情を手短に説明して、強引に中に入った。


 彼らも俺の腕の中でぐったりとしている幼子の姿を見て、すぐさま道を開けてくれた。


 王都の中に入ると、整備された石畳の道が続いている。


 俺が石畳を蹴っていくたびに、ブーツが硬い音を立てる。


 タァン、タァンというその足音だけが、静寂の街に響き渡った。

 

 やはり早朝のせいか、大通りにはほとんど屋台も出ておらず、あまり人々は歩いていない。


 すれ違う数少ない街の人間が、俺の凄まじい形相とスピードに驚いて道を譲る。


 目指すは、城壁のすぐそばにある小さな診療所。

 

 旅人や門兵がよく使用している、庶民向けの町医者だ。

 

 王都の中心には、神殿が運営する大きな治癒院や、高位の回復魔法使いがいる巨大な病院があるが、残念ながらこの状態のメリアを抱えて、そこまで遠回りして行く時間は今の俺にはない。


 まずは一番近くの医者に診せ、熱を下げる応急処置をしてもらうのが最優先だ。


「くそっ、頼むから無事でいてくれ……!」


 そんなことを考えながら、歯を食いしばり、無我夢中で走っていると、ようやく俺の目的地――古びた木製の看板に薬草のマークが描かれた小さな診療所に辿り着いた。


「開いててくれよ……!」


 俺は減速することなく建物の前に躍り出ると、メリアを抱えたまま、診療所の扉を強く叩いた。


「先生! 娘が熱を――!」


 早朝の静寂に包まれた診療所の扉を、ぶち破らんばかりの勢いで開け放ち、俺は腹の底から声を絞り出した。

 

 木製の扉が壁に激突して大きな音を立てると、薬草の匂いが漂う薄暗い室内で、受付台の向こうに座っていた年配の医師が、弾かれたように顔を上げた。


「緊急か! 今すぐ診よう! こっちのベッドへ!」


 白衣を羽織った医師は、俺のただならぬ気迫と、腕の中でぐったりとしている幼い少女の姿を見るなり、すぐさま奥の診察台を指差した。

 

 俺は荒い息を切らしながら診察室へ飛び込み、清潔な白いシーツが敷かれたベッドの上に、メリアをそっと寝かせる。


「はぁっ、ふぅっ……ぱぱぁ……」


 白いシーツの上で、メリアは異常なほど頬を赤く染め、ひどく魘された様子で浅い呼吸を繰り返していた。


 小さな胸が小刻みに上下し、苦し気な声が漏れるたびに、俺の心臓が鷲掴みにされたように痛む。


 医師はすぐにメリアの枕元に立ち、シワの刻まれた手で彼女の熱い額に触れた。


 そして、そっと瞼を開いて焦点の定まらない青い瞳を確かめると、首筋や喉の様子を真剣な眼差しで確認していく。

 

 その間、俺は祈るように両手を握りしめ、ただ見守ることしかできなかった。


「これは……熱がかなり高いな……」


 ひと通りの診察を終えた医師が、険しい顔つきで眉を顰め、重々しい口調で呟いた。


「な、治るんですよね……っ?」


 思わず、俺の口からすがるような、情けない声が出た。

 

 気持ちが全く安定しない。


 大事な娘が病気でこんなに苦しんでいるというのに、俺が直接してやれることは何一つない。


 己の無力さが歯痒くてたまらなかった。


 俺がギリッと唇を噛み締めてそんなふうに思っていると、医師は一度だけ同情するように俺の顔を見て、静かに頷いた。


「……恐らく、ただの風邪や流行り病の類ではない。この症状は『魔力の暴走』でしょう」

 

「ま、魔力の暴走? 一体どういうことです?」

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