第15話 高熱の朝
「ぱぱ……くるちぃ……」
朝、俺はメリアの微かで小さな声を聞いて、ハッと弾かれたように目が覚めた。
早朝。窓の隙間から入り込む空気は痛いほど冷たく、まだ外は寒く深い霧が出ている時間だ。
いつもならメリアは規則正しい寝息を立てて、俺の腕の中で丸まっているはずなのに、今朝は様子がおかしい。
「ど、どうしたメリア!?」
俺は飛び起き、隣で丸くなっているメリアの蒼い顔を見て、すぐ額に手を置く。
すると、今までの温かく心地よい体温と違い、メリアの額からはまるで熱を帯びた鉄の塊を触っているかのように感じた。
手のひらを焼くような、異常な熱。
これは、かなりの高熱だ。
ただの風邪なんかじゃない。
「メリア、大丈夫か!? 熱があるみたいだぞ!」
「くるちぃ……ぱぱ、暑いよ……」
荒い息を吐きながら、メリアが苦しそうにシーツを掴む。
小さな体が小刻みに震え、汗で青い髪が額に張り付いていた。
やっぱり、これはまずい状態だ。
三歳児の小さな体にとって、この高熱は命に関わる危険なサインだ。
俺の背筋に、氷のような冷たい汗が流れ落ちる。
俺はすぐさまベッドから離れて、部屋の隅に置いてあったマジックポーチを取り出す。
そして、焦る手つきで口を開き、中に薬が入っていないか探すが、残念ながら見つかりそうにない。
底の方まで腕を突っ込み、収納されているアイテムの感覚を探るが、あるのは予備の武器や素材ばかりだ。
「くそっ、こういう時に限ってないのかよ……!」
パーティーと行動していた時は、ダンジョンでの何かの事態に備えて、熱冷ましの薬など、最高級のポーションを常に持っていたんだが、今は手元にない。
メリアの服や食材を買うことばかりに気を取られ、まさかこんな急に病気になるなんて想定が抜け落ちていた。
俺の完全な落ち度だ。
こういう場合は、専門家である診療所に行くしかないな。
ただ、ここからメリアを連れて行けるのか?
丘の上の一軒家から王都の街までは、大人の足で歩いて十五分の距離がある。
この早朝の冷え切った空気に、高熱のメリアを晒すのは危険すぎるのではないか。
いや、行くしかない。
俺が今すぐ動いてやらないと、メリアが苦しんでしまう。
そう決心した俺は、すぐに俺の服に着替えて、外に出られる準備を開始した。
「メリア、大丈夫だ。パパが今から病院に連れて行ってやるからな」
「びょういん……?」
「ああ、そこでお薬をもらって、その悪い熱を直してもらおう」
「わかった……」
メリアは熱で朦朧として苦しみながらも、俺を安心させようとしてくれたのか、弱々しく微笑んでくれる。
その健気な笑顔が、俺の胸をギリギリと締め付けた。
代われるものなら、今すぐ俺が代わってやりたい。
俺はメリアを極力冷やさないように、柔らかく温かい毛布でくるみ、さらにその上から俺の分厚い革のコートを着せかけて抱き抱えた。
そして、扉を開け放ち、外に出る。
乳白色の深い霧が丘全体を覆い隠し、肌を刺すような冷気が立ち込めていた。
だが、この時間帯は夜行性の魔物も寝静まり、昼の魔物がまだ活発な時間じゃないから、道中の安全面は安心だろう。
「よし」
俺は短く息を吐き、自分に支援魔法をかける。身体の強化。
『超・身体強化』
全身の筋肉と魔力回路が爆発的に活性化し、視界が恐ろしくクリアになる。
極力メリアを揺らさないように、振動を完全に殺した負担をかけない走りをしないといけないが、あまりゆっくり歩いていると、高熱のメリアの体力が持ちそうにないしな。
足回りのバネを最高限度まで柔らかくし、上半身は絶対にブレさせない。
俺の長年の冒険者生活で培った、完璧な魔力と体幹のコントロールが試される時だ。
「メリア、絶対にパパが助けてやるからな。少しだけ我慢してろよ」
俺はそう言って、メリアを大事に抱き抱えて、城壁の近くにある小さな診療所に向かうのだった。
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