悲願
俺は中古専門の武器屋の前で戦慄していた。
「ふぅふぅ・・マミ、これは現実か?」
「いいからちゃっちゃと買って下さい。何分入り口の前にいるつもりですか? また衛兵呼ばれるんよっ」
「・・俺だけ願いを叶えていいのか? 俺達の長い、苦難の共闘の日々」
「いや、まだパーティー組んでそんな経ってないですから。それにテツオの願いは『鋼の剣を買うこと』でしょう? 私の『毒針を極めたい』という主旨とは似て非なる願望ですよ」
「そうか・・」
ヨヴ郷のクエストは素材の割り当て金が利いて、装備の補修や持ち道具の補充、その他雑費を引いても4人で山分けしても約23万ゼムになった!
基礎訓練後の初実戦だったリィアーンは薬師以外の職業適性の推定レベルが即『レベル5』になり、残る薬師の推定レベルも5に上げる為に10日間の、ギルド計の魔法医院研修を始めた。
戦闘職じゃないから敵倒したりパンチで岩とか割れるようになっても別にレベル評価上がらないからな・・
現在、狩人と盗賊の職で推定レベル9のアッチも「スキルを増やしたりしつつ、レベル10まで上げとく」とやはり10日間、ギルドの訓練場に通うことになった。
基本、真面目でお金もあるリィアーンが黙々と鍛えようとするから『指導役』としてプレッシャー感じてるのかな?
マミは無難に亀の腕輪を+1,5に強化し、3回のオートガードの強度を銅の盾級から鉄の盾級に上げていた。
速いし守備も強いし、段々『ミスリルスライム』みたいになってきてるマミ!
そして、俺は「テツオ、もう十分硬いですし、なんか鋼製品に反応して魔力を底上げしたり集約したりする謎能力あるから、いっそ鋼の剣買っちゃったらいいんじゃないですか? 毎回買う買わないで議論する件、完全に飽き飽きなんよ」とマミになげやりに言われ、武器屋の前に来ていた!
「ふぅ~~・・マミ、1回、近くの喫茶店にでも行かないか? 俺的に展開が速過ぎて、気持ちの整理をしたい」
「・・奢ってくれるならまぁいいですよ?」
俺達は中の店員が困惑しだしていた武器屋から一旦離れ、近くに茶店に入ることにした。
そこはドウホア(豆の花とも言われる)の専門店だった。
俺はマンゴー盛り紅茶シロップ。マミはココナッツパイン盛りコーヒーシロップをオーダーした。
甘い豆腐プディングのようなドウホアはすぐに運ばれてきた。
ホール担当は種族は様々だが全員女性か女性的な人で、全員カンフードレスをベースにした制服を着ている。
「ここのドウホアはもっちり系ですね」
ココナッツまみれのパインとコーヒーシロップまみれのドウホアをスプーンで掬ってまくまくと食べてだすマミ。
「・・俺と鋼の剣の出逢いは10歳の時だった」
「急に始まりましたね」
「父は長く自警団で活動していたんだ。なんなら今も活動している。父方の祖母は元冒険者で素手でジャイアントの眉間を叩き割る剛の者だったそうだ。まだ健在だけど」
「父方バイタリティー高そうですね・・」
「父の仕事は材木の運搬業だった。ブラックウッド郷から材木を竜車で運び出し、帰りは生活物資を竜車に積んで帰ってきて郷の業者に卸す。そういう仕事をする商団の団員だ」
「・・長くなります?」
「それなりに危険な仕事だから竜車付きの団員は武装するんだが、運搬長は『鋼の剣』を装備する習わしがあったんだ」
「なるほど、お父さんが運搬長で鋼の剣を」
「父さんは副運搬長補佐だったから『鉄の槍+1』を装備してた」
「運搬長じゃないんかい! 槍装備してるしっ、なんですか?!」
俺はマンゴー盛り紅茶シロップ掛けのドウホアをスプーンで掬って口に入れた。香りからして甘く、柔らかく、しかし苦味もほんのり利いていた。あの日のようだ・・
「あれは忘れもしない、夏だった。いや、暑くなかったな? 春か? だが紅葉が・・マフラーもしてたから、冬か??」
「忘れてるじゃん?」
「とにかく、兄貴がその年から自警団に入って、姉貴が彼氏の道具屋のボフミンとキャンプに行く行かないでちょっと家で揉めて、早番だった機織り工房の仕事から帰ってきた母さんが、『1回落ち着いて木の実入りのクラムチャウダーでも作ろう』と言って、俺はチョコと郷内の雑木林に木の実を拾いに行って」
「チョコ?」
「ああ、幼馴染みだ。チョルメ・ラードゥ・ユコムム。略して、チョコ」
「難度の高い略し方をしましたねっ」
「うん。雑木林で3人で木の実を拾」
「3人? 増えました?」
「そうそう、雑木林に行ったら別の幼馴染みのタカノフがいてさ、タカノフの略し方は」
「もういいです! いつになったら『鋼の剣の話』になるんですかっ?! こう・・ガッと略して進めて下さいっ! 長いんよっ」
「わかったよ・・」
せっかちだなぁ。
「え~と・・そこで、剣が語り掛けてきたんだ。『我は汝、汝は我」
「ちょ待てぇいっ!! 何いきなり『必殺技的なの』を覚えようとしてるんですか?! させませんよっ」
「んだよ、もぅ~っ。全然話進まないぜ!」
「取り留め無さ過ぎるんよっ!」
前髪の向こうで目を剥くマミっ。
「ったく。俺の鋼の剣への思いは口頭じゃ言い尽くせねーか。よし、1時間くれ。レポートに書いて提出する!」
「誰にですかっ? 私ですよね? 恐怖しかないんよっ」
「愛だ!」
「狂気っ!!」
しばらくドウホア屋で小競り合いになったが、どうにか整理が付き、俺達は再び武器屋へと向かった。
店主に選りすぐりの13本の中古の鋼の剣を出してもらった。抜き身を見る。
「ふぅおお・・」
貧乏人が何かの間違いで初めて高級クラブに来てしまったようだ! 行ったことないけどっ。
目眩がして、マミのローブを掴もうとしたらスルっと回避された。
「お?」
「テツオよ、感動し過ぎた時に掴まってくるのはやめて下さい。どんだけ握力あるか自分でわかってますか? ゴリラと同じ檻にいる状態ですからねっ(酷い)。それからもう擬人化して妄想を語る件はいいですよ? ロンデルの時でお腹一杯なんよっ」
「わかったよ・・つれないなぁ」
俺はドウホア屋で一通り語り尽くしたから多少は落ち着いていたし、『鋼の彫刻刀』『鋼のロンデル』を経て、多少は『鋼製品全般』に対して耐性も付いていた。
呼吸を整え、平静を取り戻し、冷たく輝く鋼の剣達を確かめた。
まず実用だ。強度、鋭さ、剣全体のバランス、幅やリーチ、鞘や束の仕様、中古品なので製品として劣化具合を見る。
選りすぐり品だけにどれも悪くないどころか全部良いが、その『良い品』の中で比べると優劣は出る!
俺は13本を一気に5本に減らした。
「あんた、変態って噂だけど目利きだね」
初老の 猫人族の店主は感心していた。
「まぁな、俺は目利きである共に変態だっ!!」
俺は言い切り、店主は若干仰け反っていた。
「これは装飾が華美で合わない。これは軽装の対人戦を想定し過ぎていて剣呑過ぎる」
俺はやたら薔薇の紋様が目立つ剣と、硬く細く鍛える一方や血抜き溝が露骨な剣を退けた。俺の剣じゃない。
「・・・」
仮に1とする剣は刃は鈍めだが頑強そうだ。2とする剣は非常に鋭いが1より脆そうに見えた。3とする剣は仕上がりは粗めだが非常に良い鋼を使っていた。
俺は勿論、
「コイツに決めた!」
3とする、粗いが見た限りこの店で最高の鋼を使った剣を手に取った!
俺はマミと共にウキウキと鞘に入った鋼の剣を抱えて店を出た。背負いベルトも付けてもらったが、後だ!
「それでよかったんですか? まぁ確かに材質は良さそうですが、凡庸な造りに見えましたが??」
「わかってないなぁっ、マミ! 見てみろよ」
俺は抜く音も素晴らしい俺の鋼の剣を抜いてみせた。
確かに、簡素な造りではあった。なんというか、仕上げる一手前で辞めてしまったような?
「確かに甘い造りだ。だが、この剣は強化して成長するっ! マミの亀の腕輪だって今や+1,5でもう別物だ。すっかり亀の腕輪使いのマミ・タートルネックさんだろ? 痛ぇっ?!」
ハードレザーの脇腹の継目に強烈な裏肘打ちを食らったっ。ステータス前より上がってるかんな!
「私は針使いなんよっ! 改名も許さんよっ。私はマミ・シューティングスターっ!!」
「わかったわかったっ。この剣は伸び代があるし、何より鋼がいいから! 俺と相性バッチリだぜ? ほら」
俺は愛しい鋼の剣に魔力を込めて軽く、ちょんっと、路面を打った。すると、
パシィイインンンッッッ!!!!
斬撃の波が10数メートルは路面を斬り裂きながら走って、周囲が大騒ぎになってしまった!
「あれぇ?」
「何やってるんよっ?!」
「いやっ、ギリ誰にも当ててないっっ」
「そういう問題じゃないんよっ?!」
「鋼の剣の攻撃力って、こんな高かったっけ??」
俺とマミがあたふたして、武器屋の店主も外に様子を見に出てきだしていると、
「コラァっ! 何の騒ぎだっ?! あっ?! またお前らかっ?!!」
いつかの牢屋の番兵だっ! 配置替えかっ??
「やっべっ! マミっ」
「最悪なんよっ、クイックっ!!」
「待てぇっ!!」
俺とマミは加速魔法で番兵(今は巡回か?)から走って逃げ出した!
「うぉおおっ、つーか鋼の剣! やっぱ強過ぎじゃないかぁ! だっはははっ!!! もう引退してもいい気分だぁーっ!!」
「どんな人生設計ですかっ?! 私が毒針を極めるまで付き合ってもらうんよっ!!」
「タートルネックを極めるだろ?」
「違いますっ! ミニマリストのお洒落みたいに言わないでもらえます? 防具使いですらなくなってるしっ」
「まぁ付き合ってやるさっ! 君と組んだからあっという間に俺の剣を買えた! ありがとうマミ・シューティングスターっ!!! 俺の相棒っ!!!」
「大きい声でやめて下さいっ!! 全体的にテンションに付いていけないんよっっ、おバカ!」
俺は住人に怖がられるから鞘に納めた鋼の剣を抱え、笑って、怒られて、マミといつの間にか増え出してる衛兵隊から遁走していった。




