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鋼の剣を買いたい戦士と毒針を極めたい魔法使い  作者: 大石次郎


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新米 後編

冷たい(もや)がしばしば掛かる湿地を暫く進むと、


「待った、この少し先の沼地にターゲットがいるはずだよ。あたしとリィアーンが様子を見てくるから。あんた、大丈夫だね?」


「は、はひぃっ」


不安な様子だったが、アッチとリィアーンは香の火を消し、代わりに消臭剤を頭から被って枯れてるのか生きてるのか判然としない低木の林の向こうに消えていった。


「・・スモールゴーレム、先に出しておきましょうか。コール・ゴーレム!」


マミは戦闘用の小型ゴーレムを1体召喚した。


「人数多いし、予算オーバーかもな?」


「私達のレベルに合わせて連れて来ちゃいましたしね。まぁ付き合わせたアッチの取り分は配慮しましょう」


「ん~、それもそっか」


安全第一。サポーターへの支払いを渋るとこの業界長く無い、って言うしな!

程無くアッチとリィアーンが戻ってきた。リィアーンはテンパり過ぎて転げるように林から出てきた。


「沼地に全個体13体。ウロウロせずに行儀良くいた。ただ位置が悪いね。浅い沼地の真ん中辺りにいる。アイツら飲んだ水や泥で『ブレス』を打てるし、陸の有利な場所に誘導する必用があるよ?」


「なんか方法あるか?」


「魔物の餌袋(えさぶくろ)の臭いで釣るなんてどう? 本来そんなに敏感なモンスターじゃないけど、ヤツらの個体数に大してあの沼地は狭過ぎるし、この辺りの環境は餌が足りてない。健康な個体より痩せてて、共喰いを警戒して個体同士が距離を置いてた。腹ペコなんだよ。近くにちょうどいい坂になった場所もあった。そこに誘い込めそうだよ」


「坂はわたくしが見付けました!」


「高評価ですよ、リィアーン。後でテツオに『賢いリィアーン像』を彫らせましょう」


「ありがとうございますっ!」


「勝手に謎褒賞システムを作んなよ?」


余計な手仕事が発生しつつ、ビッグマウスニュートの即席討伐作戦が始まった。



香を消し消臭剤を被り、沼地から見て坂になった先の茂みからマミと望遠鏡で様子を伺うと、確かにビッグマウスニュートが13体沼地の中央辺りに互いに緊張感のある距離感でいた。

牛より一回り大きいくらいのサイズの両生類だ! 沼が浅いので体の上部だけ水面から出してる。目は4つもあるが、休止状態だからか薄目で虚ろな様子だった。

ヨヴ郷の自警団が協力してくれたらここから一斉に矢を撃ち込むだけでほぼ詰めそうだったが、郷のワーフロッグ達は商売好きだがあまり好戦的ではないので致し方無い。


「アイツら、天敵なんかに追われた来たのかな? 地震とかも無かったし」


「大繁殖するタイプのモンスターでもないですし、それが一番ありそうですね」


「推奨レベル9のモンスターの群れを不利な環境まで追い払うモンスターって、推奨レベル13前後で、めちゃくちゃ攻撃性高い感じじゃないか?」


「ギャラは減るでしょうが、調査は程々にしておきますか? この環境で離脱するのは大変なんよ」


「だな。ビッグマウスニュートからも素材は取れそうだし、赤字にはならなきゃよし、だ」


俺とマミは早々にバックレる算段をつけた。現地に来てみると、危険度に対して発注が大雑把過ぎたぜ?

と、俺達より高所の坂の一番高い位置の茂みからフクロウの鳴き声がした。アッチだ。準備が整ったらしい。

すぐに実行された! リィアーンがウィンドの魔法で起こしたはずの突風に乗って、魔物の餌袋の強烈な臭いが坂を降りてくるっ。


「くっさっ?!」


「アッチのヤツ、なんか混ぜてるなっ」


俺達が茂みで悶絶する中、沼地のモンスター達は過敏に反応した!


「ボォオオッ!!!」


野太く吠え、結構な勢いで全個体っ、沼地から這い上がって坂に殺到してくる! マミは魔力を溜めだしたっ。


「まだだぞマミっ」


群れは坂の、中程まで・・達した!


「今だっ!」


「ファイアボールっ!!」


茂みから立ち上がって4発の火球を放ち、最後列の4体に直撃させて倒すマミ! 死体は沼地の岸辺まで転がり落ちてゆくっ。モンスター達は驚愕したが、もう遅いっ!


「よっしっ!」


俺は久し振りにクロスボウ手に立ち上がって先頭の1体の眉間に撃ち込んで仕止めたっ。

アッチも軽量クロスボウ、リィアーンもロングボウ+1、リィアーンに付けたマミのゴーレムは口から針を射ち始めた! マミは魔法石の欠片を使って魔力を回復させる。


「ボォオオーッ!!」


激怒して突進するビッグマウスニュート達だったが、矢を射たれまくるので腹に貯めた泥や水のブレスを吐けず、俺とマミのいる茂みに接近するまでに残5体まで減っていた!


「『ライト』!」


照明魔法をぶつけて近付いたモンスター達を怯ませ、合図にもするマミ! アッチ達は矢や針を射つのを止めた。俺とマミは茂みから飛び出したっ。


「クィック無しですよテツオっ!」


「坂で十分っ!」


俺達は坂を駆け下りながらまだ怯んでいるビッグマウスニュートに突進する!


「エッジラッシュっ!!」


「ファストビーっ!!」


鉄の剣の連打で2体仕止める俺! マミも1体の首に毒針+1をブッ刺して仕止めた! あと2体っ。だがっ!


「っ?!」


生き残りの2体はいきなり自ら横転しながら坂を高速で転げ落ち、岸辺まで落ちると跳ね上がって沼地の中央辺りに飛び込んでいった!


「え~~っ? そんなダイナミックに逃げるもんか??」


「向こうもブレスを撃ってくるでしょうが、ここはチマチマ遠距離合戦を」


マミが言い終わらぬ内に、俺達から見て沼地の対岸に見える低木の林からいきなり猛烈な殺気を感じ、俺達も、沼のビッグマウスニュート達も衝撃を受け、次の瞬間!

林から超高速で飛び出した外骨格を持つ巨大な蛇のモンスターが沼地のビッグマウスニュート2体に襲い掛かり、抵抗もさせずに上半身を纏めて喰い千切って一呑みにした!!


「スワンプテイルっ! 推奨 レベル14かっ!!」


倒せるはずだがっ、なんの段取りも組めてないっ!


「サァアアァッッッ!!!!」


叫ぶスワンプテイルっ!


「クィックっ!!」


マミは自分と、俺達全員に加速魔法を掛けた!

スワンプテイルはそれに即応するように、『ストーンニードルブレス』を放ってきた! 石片の豪雨が俺達全員に放たれるっ。


「アイアンシェルっ!」


魔力を付与した盾のガード技で手近なマミだけでも守る! 位置的に大きく受ければ後ろの2人の被弾も減らせるはずっ。

障壁を拡大し過ぎたツケでいくらか破られて石片が頭や肩に当たったが、頭部は鉄の兜で守られ肩はハードレザーの肩当てが裂けて少し切られたがどうってことない! ブレスを受けきってスキルを解除すると、すぐに魔法石の欠片を使った。ポーションは後回しだっ。

マミも疲労の濃い顔で魔法石の欠片を使いまた魔力を回復させ、すぐに坂を駆け下りていったっ。いや危険過ぎるだろ?!

俺は一度だけアッチ達の方を振り返った。スモールゴーレムは2人を庇って砕け散っていて、アッチもおそらくリィアーンを庇って負傷していた。

リィアーンは無傷だ。呆然としている。だが、ここでスワンプテイルを倒さないと逃げても確実に追い付かれる。ヨヴ郷もタダでは済まないっ。俺達は一般人じゃない!


「リィアーン! 自分のゴーレムだっ、戦え!!」


俺はそれだけ叫んで、マミの後に続いた。マミは加速を利かせ、亀の腕輪で直撃を回避し、ヒールで加速負荷をリセットしながらっ、高速&高火力な巨体のスワンプテイルの噛み付きと鋭い外骨格の身体その物を武器とした挙動に耐えて引き付けていたっ!

カッと頭に血が昇って単純に突進しそうになるが、そうじゃないぞっ、俺! 今、一番ヤバいのはさっきのブレス! もう1発撃たれたら致命的だっ。


「マミ!」


「・・マナボムっ!」


察したマナの放った3発の炸裂魔法で怯むスワンプテイル! 喉元、沼の水面近く、その2点中間辺り、の3ヵ所の外骨格にヒビも入った!


「うぉおおーっっ!!!」


俺は加速の勢いで水面をどうにか4歩駆けてヤツの外骨格の身体に取り付き、駆け上がって喉元のヒビに迫った!


「パワースラッシュっ!!」


ロンデルじゃリーチが足りなかったが鉄の剣は届いたっ、スワンプテイルの喉を深々を斬り裂きブレスを封じてやった! 喉から漏れるガスは石片を生成しつつ沼地に落としてゆくっ。


「よし!!」


会心の攻撃だったが、俺は宙に投げ出されていた。激昂したスワンプテイルが巨大な口で噛み砕きに掛かってきている! マミは、さっきのマナボムでスタミナ切れだったらしく膝をついていた。

もう一手、足りなかったか?! アイアンシェルで受け切れるか??

その時、


「わぁあぁーーーーっっっ!!!!」


大泣きして叫びながら足裏から風の魔力を噴出させて飛ぶ自分のゴーレムの背に乗ったリィアーンが飛び込んできた!

ゴーレムの右の拳でスワンプテイルを殴り付けるリィアーン! 右の拳は砕け散ったが相手を大きく仰け反らせたっ。

ぐぉおっ、せめて剣を投げ付けてリィアーンを支援するっ! そう思った矢先、


「ファストビーっ!!」


水面から出た胴の中間位置辺りのヒビに深々と毒針を打ち込むマミ! 剣を投げ付けるタイミングを逸して微妙な体勢で岸辺に着地する俺っ。


「サァバァフゥッ・・・」


スワンプテイルは激しく痙攣しながら絶命していった。

巨体が倒れたことで辺り一面に生臭い沼の水が降り注いだ。

ここでクィックが解除された。


「はぁはぁはぁ・・心臓あるっぽいとこにヒビ入れときましたからね! ふふふふっ」


外骨格の上でズブ濡れのマミはさすがに毒針をクルクル回す元気は無いようだった。


「魔物餌袋で寄せちゃったか・・あたしのミスかもね」


空いたポーションの瓶を片手にアッチが坂をヨロヨロと下りてきた。


「アッチさん!」


ゴーレムを操ってアッチの側に降りてゆくリィアーン。


「はいよ~。・・リィアーン、教訓としては、アイデアよりリスクを見た方がいい場合もあるってのと、後輩いるからって調子乗らないってとこかな?」


「そんなことは・・ヒールしますっ」


「あっ待って、取り敢えずポーション飲んだけど、応急措置ちゃんとしてないんだわ」


薬師適性もあるリィアーンはすぐに手当てを始めた。


「向こうは大丈夫そうだな。さてと」


俺はスワンプテイルの死骸の上で今度こそヘタってるマミの方を助けに向かった。



それから5時間後くらいかな? 俺とリィアーンは自警団を中心としたヨブ郷のワーフロッグ達と、解体したビッグマウスニュートとスワンプテイルの素材を郷に戻ってきた。

ワーフロッグ達が御機嫌で歌うので俺とリィアーンも一応付き合う。


ゲーコゲッコゲコゲコ 丸儲けっ! 丸呑み 丸尻(まるしり) 丸御月(まるおつき)っ! まるっと儲けて月見酒~っ!! 丸尻振って呑め歌えっ!


ゲーコゲッコゲコゲコ ゲーコゲッコゲコゲコ お金があるって平和だねっ!! ゲッコ~~っっ!!!!


「呑気にも程があるんよ・・」


「お帰り~」


郷の湿地側の城門には郷の待機組に混ざって、魔法医に診てもらっていたマミとアッチも出迎えに来てくれていた。

俺達はスワンプテイル撃破後、一旦、郷に戻って報告し、その後すぐに俺とリィアーンは郷の連中と素材回収に向かっていた。


「アッチさん! マミさん!」


「リィアーン大丈夫だった?」


「ちょっと死骸に寄ってたモンスターと交戦もありましたが、へっちゃらです!」


「体力無いのにムチャしますねぇ」


「頑張りました! デビュー戦なのでっ」


「まぁ、死骸には消臭剤と魔除けの香を使っておいたし、すぐ戻ったからそう酷いこたにはなってなかったよ。それより取り分結構ありそうだぜ~?」


「そのまま宴会にもなりそうだね」


大騒ぎしているワーフロッグ達に呆れているアッチ。


「まだ夕方にもなってないですけどね」


討伐には朝一向かったからな。


「なんにしても、賢いリィアーン像は後で作ってやるぞ?」


「やったーっ!」


すっかり泥んこだったが、とびきりの笑顔を見せたリィアーンだった。

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