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鋼の剣を買いたい戦士と毒針を極めたい魔法使い  作者: 大石次郎


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13/17

新米 前編

一夜明け、リィアーンはサポーター登録も兼ねて取り敢えず3日間、ギルドの訓練所の寮に入れて基礎訓練しつつステータスや適性を測ることになった。

昨夜、大きめの風呂屋やマミお勧めの牡蠣オムレツの店に行ったりはしたが、本格的な観光なんかは後だ、後っ!

場合によっちゃ「やっぱなんか違う」となってエルダーカンファーツリー郷にすぐ帰っちゃうかもしれないしな。

仕事の現実感はさっさと体験させた方が半端なことにならなくていいだろう。

アテにしていたアッチが南部のクエストからまだ戻ってなくてちょっと扱いに困った、ってのも正直あった。

とにかく訓練所にリィアーンを預けた俺とマミは、ギルドでヨイヨイさんにゴブリン退治のレポートを提出し(毎度だがマミが書かないので戦士職の俺が書いてる!)、装備品や持ち道具の補修と補充を最低限度行った。


「補充はこんなもんか・・マミ、そろそろ昼じゃないか?」


近くに機甲時計は見当たらなかったが、日の高さや腹の空き具合からしてそんな気がした。教会や寺院の時報はまだ無いから昼前くらい、かな?


「そうい言えば。というか、懐中機甲時計かいちゅうきこうどけい買いませんか?」


「頑丈なヤツは高いんだよなぁ」


諸々差し引いた今回の報酬の残金を個室で山分けもしなきゃならないが、馴染みの兎溜まりは今いる道具商店通りからちょっと遠い。

昼は混むし、予約も無し。さらに布の服に大荷物という格好もあって、ここから店探しに少し手間取ってしまった。

たぶん40分は経ったと思う! マミの機嫌が若干悪くなってしまったがどうにか魚介パエリアの店の個室に入れた。


「こちら、ランチパエリアでございます。デザートの桃のタルトはジンジャーティーと後程お持ちします・・」


店員はやや小柄だが骨太なドワーフ族だった。テキパキと料理を並べ、一礼して退室していった。

大きな円形鉄板一枚に淡水魚介類とハーブをふんだんに使ったパエリアが俺達の前にある! 芳香が凄いっ。熱気とジリジリと焼ける音もあって、祭り感有り!


「ほ~っ、この格好でも入れましたけど、思ったよりちゃんとした店でしたね」


パエリアが出来上がる前に出ていた海老の生ハムチーズ焼きとカットトマトとハーブ白ワインで既に機嫌が直っていたマミ。


「ちょい割高だがクエスト達成ボーナスってことで。・・改めて」


俺とマミは軽くグラスを合わせた。


「乾杯っ!!」


俺達は2人で鉄板のスパイシーなパエリアをスプーンで掬って食べながら御機嫌でワインを飲み速攻でサイドメニュー共々平らげ、桃のタルトもジンジャーティーでやっつけて大満足でティーカップをテーブルに置いた。

ティーポットにはまだお代わり分がたっぷり入ってる。


「じゃあ、山分け&新規購入会議を始めようか?」


俺は油断無く言った。


「こっから本番ですね! 今回はアッチがいないから手加減しないんよっ?」


長い前髪の奥で両目が光った気がするマミ!


「望むところだっ!」


山分けは割るだけだからすぐ済むが、購入に関しては俺達はそこから途中、ペパーミントアイスクリームを追加注文したりしながら2時間は激論を交わしたのだった・・



結果、俺は甲羅の兜を下取りに鉄の兜を購入っ! マミは亀の腕輪を+1に強化してオートガードの回数を2回から3回に増やし、強度も甲羅の盾並みから銅の盾並みに上げた。

2人とも山分けした報酬の残金は10万ゼム程度。俺達にしては揃って保守的な金の使い方だったが、当面リィアーンの後見をしなくちゃならないってのもあった。

装備刷新後、そろそろ夕方だったがマミの街の周りでの雑魚モンスター狩りに少し付き合うことにした。

ゴブリンから奪って調整した鉄の剣と合わせて鉄の兜の使用感を確認したかったからさ。


「・・悪くない」


どれくらい自我があるのかな? と思いつつ、透明の『原種スライム』を斬り伏せて呟いた。兜も剣も問題無かった。


「1! 2! 3!」


軽めに打っているようだが、加速魔法を掛けてファストビーを雑魚モンスター達に連発しているマミ。凄い手際だ。


「マミ。明日、リィアーンの様子を見に行くついでに俺達もギルドでステータス評価受け直そうぜ? 俺もお前もレベル上がってる気がする!」


「そうですね」


毒針を片手の掌で回転させつつこちらを見るマミ。


「やぶさかではないところですが、テツオよ」


「ん?」


「私のことを二人称で呼ぶ時は『君』『貴女』または『ボス』と呼んで下さい。『お前』は不採用なんよっ!」


結構ムッとしてんな・・


「わかったわかった。『君』でいこう。『ボス』は呼ばねーぞ?」


「まぁいいでしょう。ふふん」


マミの二人称は君になった。出世した感ある。

帰りは面倒がるマミを引っ張って教会に寄って、年2回ある討伐されたモンスターの供養祭に少し寄付した。夕陽の差す聖堂で、一応神像に2人でお祈りもする。


「モンスター供養以外で何を祈ります? 鋼の剣早く買いたい、ですか? ふふっ」


「それは祈らなくても実行する! そうだな・・お互い仕事でくたばらないように祈っとくか?」


「私は早く馬小屋スペース暮らしから脱出できることを祈りますよ?」


「つれないなぁ」


俺達はそれぞれ俗っぽい願望を祈っておいた。



翌日、訓練所で「ひぃーっ! 基礎訓練キツいですぅっ」と半泣きのリィアーンの愚痴を聞いてからギルドで俺達はステータス判定を受けた。

判定室のオーブに触れると、オーブから音声が響いた・・


「自分、戦士レベル14に上がってるやん? 生命力もB+に上げってるでしかし! 言うても自分、魔力は変わってへんのかいっ! D+ 精神」


「ちょっと待ったっ。誰だ音声、西部訛りにしたヤツ! やり直しやり直しっ!」


俺はオーブの設定を再調整して判定し直した。まったく頭に入って来ないっ。


「・・貴方の戦士レベルは14 生命力B+ 魔力D+ 精神力B 強さB+ 守りB 素早さC+ 器用さA- 知性C- 運D 性質ロウ 属性土 です・・」


うん、これでいい。連動してるギルドカードの表記も更新された。

ロビーでマミと合流すると、マミもレベル14に上がっていた。


「いや~、生命力C-に! 素早さB+に! 評価上がってましたよ~」


「B+って速っ」


もう遅い相手ならクィックの魔法必要無いくらいじゃないか? これで素直に魔法を極めれば魔法を使った決闘で無双できそうだが、そっちの方向には無関心なマミだった・・

ギルドのカフェで薄くて苦いコーヒーを飲んでから受付のヨイヨイさんの所で、難度レベル14で軽めのクエストと難度レベル13の中ではハード目なクエスト資料をいくつか見せてもらってから、一旦保留という形で引き上げることにした。



午後になって、手紙で帰る予定と報せのあったアッチを、兎溜まりで『ウィッチチェス(魔力を盤に込めて戦うチェス)』を2人でしながら待っていると、そこそこボロボロになって帰ってきた。


「はぁ~~~っっ、疲れた・・当分、ダンジョンに潜るクエスト受けないわ、あたし!」


大荷物を下ろした小柄なアッチは高めの椅子を用意してもらい、スープとハーブティだけ頼んで俺達のテーブル席でぐったりしていた。


「アッチ、エルダーカンファーツリー郷のゴブリン退治を済ませたらハーフエルフのお嬢さんが付いて来ちゃってさ」


「・・何? エロい話?」


「違うっ!」


「その子、サポーターになりたいみたいなんですよ」


「・・?? なりたいならなったらいいんじゃない?」


「だから、アッチにサポーターの先輩として指導してほしいんだよ」


「め・ん・ど・く・さぁ~~~っ!!!」


背もたれに仰け反るアッチ。


「アッチっ、頼むんよっ! 私達はちょっと色々アレなんよっ」


「自覚あんのかい・・あ~、わかったよ。サポーターも大概人手不足だしね。職種はあたしで合ってんの?」


お? 引き受けてくれた??


「魔法も使う子ですが、狩人の適性もあるようなので」


「ふーん。でもあたし、今日明日は休むよ? 死んじゃうから」


「やってくれるんですね? ありがとぉ~! アッチっ! ここは私達で奢りますっ」


「お茶とスープしか頼んでないけど?」


「じゃあこの後、ちょっと豪華な風呂屋に連れてってやるよ」


「・・セクハラ?」


「違うっ!!」


なんだかんだでアッチにリィアーンへの指導の約束を取り付けることができた。



で、日が変わって月が出る頃、武器屋巡りや木工工房巡りをしていた俺と、毒針専門店に入り浸ってからまた街の周囲でモンスター狩り(今日は加速無しで軽く流したらしい・・)をしていたマミと、1日殆んど寝てたというアッチはギルドのカフェで待ち合わせ、短期訓練期間を終えるはずのリィアーンを迎えに向かった。


「おーっ! 来た来たっ。ちょっと3人! この子、宿に連れて帰ってあげてっ」


廊下でヨイヨイさんが、大荷物を抱えて訓練着のままダウンしているリィアーンを引き摺っている所だった。


「あちゃ~・・何コースで訓練したの?」


「普通の基礎訓練だけど? この子、体力と気力がもう一つでね。適性のある職業が4つもあったから休みも取れてなかった、ってのもあったかもしれないけど」


器用貧乏タイプか。


「マミ、回復してやってくれ」


「うん? あ、そう言えばヒール覚えてましたね。・・ヒール!」


「っはぁ?!」


意識を取り戻したリィアーン。


「子供の頃亡くなったお母さんが川の向こうで『まだ来ちゃダメ』って!」


「いやそれヤバいヤツっ、一回医務室連れてこう!」


リィアーンは結局、一晩、ギルドの医務室でポーション点滴を受けることになり、翌朝改めて迎えにゆくことになった・・

因みにリィアーンの職業適性は狩人、薬師、魔法使い、人形使いだった。レベルはどれも4相当。

一般人よりマシ。くらいのレベルだが、どれも専門性の高い適性で、特に人形使いはレア(マミもおそらくこの適性持ち)だ。

地力が上げて仕事上の役割が整理されればサポーターとして有望だと言えるんじゃないかな?



それから4日後、俺、マミ、アッチ、リィアーンの4人はグランオニオンのだいぶ東にある『()みの湿原』の西の端の方に来ていた。

主に蛙人(ワーフロッグ)族達が暮らす『ヨヴ郷』のわりと近くだ。

気温が低いので思ったより虫の類いは少なく発酵臭もそれ程強くなかったが、やはり朽ちた植物や濡れた土、淀んだ水、地衣類の臭いはした。

魔除けの香を焚いて進む。


「いよいよわたくしのデビュー戦ですねっ!」


ロングボウ+1(軽量化や引き易さに強化を全振りした物)を手に勢い込むリィアーン! お嬢様だけに弓に限らず装備は全体的に良い物だ。

リィアーンはアッチと2人でマップ資料を手に先導役を担当していた。


「弓、魔法、練習しました! 各種薬品、召喚用のゴーレム、準備しておきましたっ! 完璧ですっ」


「いいから足元注意だよ?」


「え? あ~っ??」


アッチに注意された側から湿地の泥に片足を取られるリィアーン。


「ブーツに泥入る前に捻って角度付けて抜きな。ちゃんと目に魔力を込めて地面の様子を見て歩くんだよ? 訓練所で習ったろ?」


「すいません・・」


早くも落ち込むリィアーン。


「大丈夫ですかね?」


「まぁ、研修に付き合ってると思っとくさ」


後ろの俺とマミは密かにそんなことを話していた。

クエストの内容は『ヨヴ郷近くの湿地でのモンスター群退治とその原因調査』だった。推奨レベルは13。

群れを作ってるモンスターは『ビッグマウスニュート』という両生類型のモンスターでそこまで強くなく、数も10数体。足場の悪さを差し引いても退治だけなら推奨レベルは9程度だろう。

高めに設定されてるのは『発生原因』が不明であるからだ。

報酬がレベル13クエストにしては微妙で、グランオニオンから遠く、不確定で、ヨヴ郷の自警団や地元サポーター等からの協力も情報や宿や食事の提供以外は特に無かったので、不人気なクエストではあった。

それでもレベル13クラスでリィアーンが参加できそうなクエストで残っていたのはこれくらいだったから、贅沢は言ってられない。


「なんにしても、通常より撤退判断はシビアにしよう」


「わかったんよっ」


2人で確認し、アッチに小言を言われながらやたら肌寒い湿地を進むリィアーンの後ろから付いていった。

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