小鬼 後編
「わ、わたくしっ! リィアーン・エヴァーグリーンは、じじ、自警団団長としてっ、積極的にっ! この、える、エルダーカンファーツリー郷を脅かすぅっ、ごぶ、ごぶっ、ゴブリン族に! ・・う~っ、突撃しまーすっ!!」
エルダーカンファーツリー郷の自警団詰所の会議室で、俺とマミは唖然と郷長の娘、ピンクの長髪のリィアーン・エヴァーグリーンの演説を聞いていた。
人間なら13歳くらいに見えるが、実際は俺やマミより少し年上だろう。
「いいぞ! お嬢っ!」
「突撃だぁっ!!」
団員達は盛り上がっているが、俺達は『これはヤバいパターンだ』と焦っていた。
と、さっきまで郷長の娘の隣に立っていたクエスト資料では団長であるはずのハーフエルフの女、エミラ・バジャーホールが部屋の前の出入り口前に移動していて、俺達に手招きをし、そのまま部屋の廊下へと出て行ってしまった。
俺達は顔を見合せ、まだまだヤケクソ気味の演説が続く中、こっそり後ろのドアから廊下に出た。
「驚いたろ? あたしも最初は頭を抱えたよ」
エミラ・バジャーホールは肩を竦めてみせた。
「あたしはエミラ・バジャーホール。エミラでいいよ」
「クエスト資料ではあんたが団長のはずだったが?」
「それに関しちゃ悪かった。素人のお嬢が団長ってなると、クエストレベルが上がって、予算がね・・。急に影森から来たゴブリンどもの一団に農園や放牧場をいくつか潰されちまって、この郷は金欠なんだよ」
「なぜ郷長のお嬢さんが団長になってるんです? それもこんな非常時に」
「ちょっと込み入った話になるけど・・」
エミラは溜め息を吐いて、話しだした。
「リィアーン嬢は5年くらい前にグランオニオンの魔法使い学校に通われていたんだが、そこの女子寮で純血のエルフの名家の連中にボッコボコにイジメられたみたいでさ」
未だにあるんだ混血イジメ。
「結局1年で退学して、暫く引きこもってたけど、2年くらい前から1人で森で狩りをしたり薬草を摘んだり・・お嬢なりにリハビリしてたんだろうけど、今回の騒動が起きた時に急に自警団に入る! って言い出してさ。ヘタに一団員として入ると目が届かないから団長になってもらったんだよ。まぁお守り役を4人付けてる。実質の指揮はあたしが取るから心配しないでよ」
「うーん」
「難度はやはり上がってます・・」
俺達も頭を抱えたくなった。
それでも仕事は仕事だっ。エミラとしっかり打ち合わせをした、翌日!
俺達と自警団20数名はエルダーカンファーツリー郷近くの森にある洞穴の前の茂みに潜んでいた。
相手の戦力はレベル15相当(高い!)の『ゴブリンリーダー』1体。レベル11程度の『ゴブリンシャーマン』1体。レベル7相当の『ホブゴブリン』2体。あとは有象無象のゴブリンが50体余りだ。多いっ!
連中はこの洞穴を拠点としていて、内部で戦うのは不利となるのが必至! 洞穴の前には粗末な見張り台が組まれていた。見張り台のゴブリンは2体。ショートボウと毒矢で武装している。
この個体に限らず、弓や小剣で武装しているゴブリンは武器に毒を縫っているようだ。
ハーフエルフの自警団は 解毒できる浄化の魔法を使える者が多かったが、一応全員解毒薬の小瓶は携帯している。
俺達は物量の打破と簡易ながら事実上の砦の攻略を達成し、尚且つ、平均能力で言ったら個の力でも上回る個体を数体撃破しなくてはならなかった。
俺とマミは近くにいるエミラとリィアーンに目配せした。するとエミラとリィアーンは頷き合い、エミラは特徴的な鳥の鳴き真似をした。
見張り台のゴブリンは無関心にあくびをしたり、煎り豆らしき物を噛ったりしていたが、自警団の内、エミラとリィアーン以外で攻撃魔法が得意な者4名が魔力を練り、詠唱する。
「エアシェイバー!!」
「っ?!」
見張り台の2体のゴブリンは詠唱の声に驚いた顔のまま、風の刃に首を跳ねられて倒された!
初手は成功、こっからだっ!
俺達は一斉に茂みから出て洞穴の入口前に移動し、魔法の使い手チーム以外は入口前に臭い玉の主成分とほぼ同じ材料を山積みにした。
魔法の使い手チームはその手前に魔法陣描き召喚触媒を並べる。
準備ができると、再び全員茂みに戻り、
「『トーチ』っ!」
点火魔法をマミが唱え、山積みの材料に火を灯した。続けて、
「ウィンド!!」
自警団のエミラとリィアーン以外の魔法の使い手数名が風を操り、山積みの材料から上がる凄まじい臭気の煙を洞穴の中へと吹き込んだ。洞穴にはこの入口以外に出入りできる穴は無いはずだった。
暫くすると・・
「ギャフッ! ギャフッ?!」
咳き込みながら、ゴブリン達が大慌てで出てきた! さすがに敵襲とは気付いているらしく武装はしているっ。
ウィンドの魔法は解除された。
山積みにされた燃える材料に気付いて激昂して武器で殴り散らしたが、遅いぜっ。
「リィアーン!」
「はひぃっ、・・コール・ゴーレムっ!!」
エミラの声に応え、リィアーンは門番のウッドゴーレム2体の内、1体を洞穴手前の魔方陣に召喚した。
「やっ、や、やっておしまいなさぁいっ!!」
ウッドゴーレムを仰天しているゴブリン達にけし掛けるリィアーン! この役回りの魔力負担は大きいが、結果的に最後衛になるからと、リィアーン単独に任されていた。
ゴブリン達相手に大暴れしだすウッドゴーレム!
あっという間に10数体は叩き潰したっ。しかし、
「『マナボム』っ!」
まだ煙の充満する洞穴から爆破魔法を2発撃たれ、ウッドゴーレムの両肘関節が破壊されてゴーレムは両腕を失って仰け反ったっ。
この隙に洞穴の煙の中から古風な造りの革や布のガスマスクをした双剣装備のゴブリンリーダーが飛び出し、
「ダブルクレセントっ!!」
双剣スキルを発動させてウッドゴーレムの眉間と胸部を深々を叩き切り、打ち倒してしまった。
撃破の反動で気絶するリィアーン。ゴーレムに同調し過ぎたな。
同時に洞穴からこれもガスマスクをした大柄なホブゴブリンとゴブリンシャーマンが飛び出してきたっ。
「射てっ!!」
エミラの号令で茂みの自警団の弓兵達は一斉に矢を放ち、ゴブリン10数体を倒し、上位種4体を牽制した。ゴブリンシャーマンは事前に障壁系の防御魔法か道具を使ってるなっ!
「ギャウッギャッ!!!」
ゴブリンリーダーの号令で残存の下位ゴブリンの内、弓を装備していない20数体が茂みに向かって突進するっ。前衛は盾持ちのゴブリンだ。こうなると矢は通り難い!
「俺が行く! マミ準備なっ」
「合点、なんよっ」
「『プロテクト』!」
ハーフエルフの1人が防御魔法を掛けてくれた。この段ではクィックは敢えて掛けない。
「鉄は鋼に近くっっ!!」
言いながら俺は後方から射たれる毒矢を鉄の盾で弾きつつ20数体のゴブリン群の前衛盾持ち個体達に駆け込んでゆく! 別に特攻じゃないぜ?
「俺の鉄の盾はっ、ほぼ『鋼』だぁっ!!! スキルっ」
俺は突進しながら魔力を込めて鉄の盾を大きく構えた。
「アイアンシェルっ!!!!」
踏み込みで地面にヒビを入れっ、盾のガード技を最大発動し、前衛の盾持ち個体達諸ともゴブリン20数体を纏めて吹っ飛ばしてやったっ!!!
「ギャップゥッ??!!!」
盾持ち個体達は俺のアイアンシェルに盾を砕かれながら圧死した!
残りのひっくり返されたヤツらには自警団の攻撃魔法が降り注いでとどめを刺し、毒矢持ち7体は弓兵達と矢の射り合いになったが、ハーフエルフ達は森の木を盾にしている上に数も多く、優位だ。
問題は上位種4体! 4対1で俺を仕止めに掛かる構えを見せたが、
「クィック!!」
マミの声が響き、俺と、エミラとマミ本人にも掛けられたはずだ。
俺はゴブリンシャーマンのファイアボールの魔法を加速で回避し、エミラとマミも超高速で前衛に駆け込み、それぞれ2体のホブゴブリンに向かっていった。
残りの自警団の魔法の使い手達はゴブリンシャーマンに魔法を連打して反撃させずに圧倒する手筈だ!
残る俺の仕事はっ、
「ギャウギャギャッ」
マスクを投げ棄て、不敵な笑みを浮かべた双剣のゴブリンリーダーと対峙する! 技量は向こうが上っ。装備の力も向こうがやや上だが、俺にはクィックとプロテクトが掛かってるっ。やれる!
互いに接近し、猛烈な斬り合いになったっ。
こっちは大技のダブルクレセントを打たせないよう細かく打ち込み、ゴブリンリーダーはアイアンシェルを警戒し盾を持つ俺の左側や正面に立つのを嫌う。
攻防は激しいが、噛み合わない戦いだ。それでも技量差はやはりあった! 少しずつ、俺の右半身にヤツの双剣が掠めだすっ。プロテクトの魔法がなかったらあちこち流血してたろう。
ヒットは段々正確に、深くなってゆくっ。とうとう俺の右頬と右腕のハードレザーの鎧の隙間を浅く斬られて出血した。加速の負荷もあって身体が重くなってきた・・ジリ貧だな。
俺が打開の為にリスキーな行動に出ようとしたその時、
「ファストビーっ!!」
マミがホブゴブリンの脇腹の鎧の継ぎ目に毒針を打ち込み仕止めた! 距離はちょっと遠く、スタミナ切れしているようだったが、
「っっヒールっ!」
回復魔法を掛けてくれた! 頬と右腕の傷が癒え、疲労も抜け、身体が軽くなったっ。俺は迷わず鉄の盾を捨て、さらに身を軽くする!
「っ?」
ゴブリンリーダーの一瞬の動揺を逃さないっ。
「エッジラッシュっ!」
最速で連打技を打ち込むっ! ヤツは癖だろうが左手に持った方の剣でより多く受け、これによって左の剣にヒビが入った。
こっちの鉄の剣-1にもヒビが入っていたが、俺はこれもあっさり捨て、ゴブリンリーダーの左手側に素早く周り込む!
連打の衝撃と、クィックを加算した俺の速さについて来れないゴブリンリーダー! 俺は反撃させずに追い打ちを掛けるっ。鋼のロンデルは既に抜いていた!
「パワースラッシュ」
ゴブリンリーダーの左手側から打ち掛かり、受けようとしたヒビの入った左の剣を断ち、鎧ごと深々と袈裟懸けに斬り裂いた!!
「ギャ、ウ・・・」
力を失い、倒れてゆくゴブリンリーダー。ここで加速が解除された。
エミラもレイピアでホブゴブリンを仕止め、ゴブリンシャーマンも魔法の連打に競り負けて倒され、毒矢のゴブリン達も全て射殺されていた。
「ふぅ~、しんど」
「お嬢はっ?!」
俺が一息つき、エミラが大声で問うと、守り役の4人が気絶したままのリィアーンを茂みから抱え上げてみせた。カカシかマネキンみたいになってるけど・・
「無事でーすっ」
「そうか・・」
安堵するエミラ。と、マミが自分にヒールをしつつヨロヨロと歩いてきた。
「マミ、助かった。ありがと」
「ああ、まぁ。剣、ダメっぽいから。ゴブリンリーダーの折れてない方、拝借しときましょう。役得なんよ」
確かに1本は無事だ。歪だが-の付かない「鉄の剣」だな。
「おお・・、だがこれも修理したら売れ」
俺はヒビの入った自分の鉄の剣-1を拾ってみたが、拾った側からパキンッと折れてしまった。
「・・・」
最後のとどめに使わなくてよかった。あっぶね~。
無事ゴブリンは退治され、俺達は少し色を付けたギャラをもらった。郷長やエミラの話では郷や農園等の守りをこれを機会に強化し、資金獲得の為の森での素材集めも環境を荒らさない程度に増やすそうだ。うん、いいんじゃないかな。
そして・・俺達は郷長が奮発して、微妙な位置からではあったが途中の魔除けの野営地併設の駅の乗り合い馬車チケットをくれたので、帰りは途中から乗り合い馬車でグランオニオンに帰れることになった。
のだがっ、
「ふぁーっ! 乗り合い馬車なんて4年ぶりくらいですっ。森の外は景色が開けてますねぇっ。・・やっぱり! グランオニオンは今でも都会なんでしょーねっ?」
「ああ、わりと都会だとは思う」
リィアーン・エヴァーグリーンが付いてきている!
「ほんとにギルドにサポーター登録するつもりですか? 魔法学校に復学するなり、なんなら魔法道具屋とかでバイトでも」
「学校はもうたくさんですっ。私はっ、確かな実力がほしいんです! 冒険したいんですっ。お飾りの人生はたくさんなんだよぉっ!!」
急に泣くリィアーンに車両内の他の客も困惑している。
「そんないいもんかはわからないが、俺達もボディガードってワケじゃないから、自分のことは自分でしてくれよ?」
言いつつハンカチを渡したら「ブビーッ」と鼻をかまれてしまったっ。
「はぁ、洗って返します」
「いや、あげよう。うん・・」
「冒険者は弱肉強食なんですよぉっ?」
「が、頑張りますっ!」
まぁサポーターならアッチもいるし、なんとかなる、かな?
俺達は馬車に揺られ、夕方には結構都会なグランオニオンに到着したのだった。




