小鬼 前編
麓の郷でのマミの入院費や、装備の補修や持ち道具の補充等で目減りし、前回の報酬の残りは約28万ゼムになった。
これに回収できたモンスターの素材やトロテ山まで遠かったから途中ちまちまと掘った木彫りの売却益を足すと約40万ゼム。
山分けにすると役20万ゼムずつ。結構ある! だが今回はさすがに疲れたのでまず3日休みを取って、それから使い道を相談することにした。
疲れている時は判断力が鈍るからさ。ただでさえ、金の使い道に不安があると自覚してる2人でもあったし・・
ともかく自主的休暇1日目。
「ふぁ~・・超寝たっ!」
昼過ぎに起き、それから定宿の高枕の馬小屋スペースで飲んでいたら居合わせた連中がいつの間にか入ってきて飲み会になり、騒ぎ過ぎるヤツらがいて宿の従業員から怒られたりしてる内に1日終わってたぜ!
2日目は午前中から出禁になってない武器屋や防具屋、その他鋼製品取扱い店や木彫りの店や個展を見て回ったりした。熱心に鑑賞し至福だったが、展示のガラスケースにへばり付いて逮捕されたりはしないよう気を付けた・・
3日目はトロテ山のエイサムさんとネリから手紙がギルド宛てに着ていたが、マミが対応をめんどくさがったので(薄情!)俺が返事を書いといた。
ネリは問題無く東面の管理小屋を継ぎ、エイサムさんは麓の郷でギルドに協力店登録した喫茶店の準備を始め、合わせて郷の孤児院の世話役のボランティアも始めるそうだ。
2人とも落ち着いたら山で取れる珍しい素材や、珈琲豆を送ってくれるそうで楽しみだな。俺もグランオニオン饅頭とか煎餅でも贈ろうかな?
3日目の午後からは暇になったので訓練場2000ゼム払って前衛職のビジターコースで軽く基礎訓練したりして身体をシャキっとさせといた。
俺の休みはそんなとこ。
マミは1日目は夕方まで(!)寝ていて、寝過ぎてややむくんだ顔で、
「おはよう、です・・」
と夕闇の中からのそりと長い前髪で現れて、馬小屋スペースの他の宿泊客をギョッとさせていた。
2日目はギルドの訓練場で朝からクィックの魔法を掛けた状態でファストビーを安定して打つトレーニングを敢行!
午後には宿に戻ってポーションを飲んでも中々治らない筋肉痛にうんうん唸っていたようだが・・
3日目は午前中毒針専門店に入り浸り、昼はヨイヨイさんと待ち合わせてこの間連れてった肉挟みパンの店にゆき、それから1人で街の外でスライム等を刺して回り、日が暮れるとアッチと待ち合わせて牡蠣オムレツの店に行ってツヤツヤした顔で宿に帰って来ていた。
ナチュラルにスライムを狩りにゆく以外はわりと真っ当な休暇を過ごしたようだ。
で、今日。俺とマミと、なんとなく来たアッチはすっかり常連になった兎溜まりで個室を借りて金の使い道を相談することにした。
「どうする? 俺は下取りした上、一気に中古の鋼の剣を買うこともやぶさかではない!」
「私は20万で下取りはできないから・・毒針+0,5を+1に強化できます!」
「0,5と1ってそんな違わなくない? パフェ頼もっか? 私、チョコ!」
「・・じゃあ、私はフルーツパフェで」
「よしっ! シェアするからねっ。テツオもなんか頼みなよっ」
「お? じゃあ、グリーンティ小豆フラッペで」
「わかった! 頼んでくるよっ」
小柄なアッチは素早く個室から出ていった。
「え~と・・+1に強化できます! +1になると毒も強化されますが鉄製の武器と同等の強度になるのでより効く相手が増えますし、持久戦にも強くなります!」
「俺も中古の鋼の剣が手に入ったら、攻撃力だけなら下位の巨人族や竜族とも渡り合えそうだな! 攻撃力、だけなら・・」
「それはまぁ、私もですね・・」
そう、俺達は近接火力特化だが防具は総じてショボいのだっ!
「私、回復魔法使えないから余計アンバランスかもしれません」
「俺も、やっぱ防具揃えた方がいいかぁ」
「頼んできた! 話決まった?」
アッチが戻ってきた。
「いやぁ・・」
「微妙なとこなんよ・・」
2人だけならまた何時間か不毛に話し合う所だが、アッチがパフェを食べつつ「早く決めなよ?」「長く話しても結論変わらなくない?」「ミックスサンドウィッチ頼もうか?」「ハーブティ、大ポットで頼んだら安いよ?」「あたし、午後からまた南部に行くんだよ!」等々忙しないので、わりとすぐに話が纏まってしまった。結果、
「ふーむ、鋼程じゃないがいい感じだ!」
俺は銅の盾を下取りに中古の鉄の盾を買った!
高枕の馬小屋スペースで改めて見ると、やはりいいっ。
「はぁ~・・性格的に合わないから魔法の行使契約にめちゃくちゃ手間取ったんよ。担当の教官、後半めちゃくちゃキレまくったんよっ」
マミはギルドの訓練場でヒールの魔法を習得してきた。ボロい長椅子でげっそりしているが・・
ともかくこれで攻守のバランス大幅改善だ!
「買うもん買ったし、そろそろ仕事しないとな」
「私はヒールを覚えただけなので、多少余裕はありますが」
「なんか買うか?」
「いえ、今回は貯めます。というか私達、毎回目一杯使い過ぎな気がしてきました」
「それな・・」
ソロ時代はその日暮らしだから気にならなかったが、安定してくるとそれまでの薄氷ムーヴが気になってくるもんだ。
ともかく仕事は必要なので、俺とマミはグランオニオン冒険者ギルド本部に向かった。
以前は本部に行くこと自体にちょっとビビっていたが、もうなんてことないぜ!
2日後、位置が微妙なのと乗り合い馬車の費用が出なかったので、俺達は地味に徒歩で移動し、途中の野原にある魔除けの野営地で1泊し、以前キラーナス・強を狩った辺りに近い森に来ていた。
強いモンスターがうようよいる影森の外周部に面したエリアだ。
「茄子狩り思い出しますね」
「行楽で農園に行ったみたいに言うなよ」
「へへっ」
俺達はそこから下位魔法を使う『マージリーフウォーカー』や毒胞子を撒く『ヘルマッシュルーム』、あとは木属性の『グリーンスライム』等と軽く交戦したり、撃退したり、避けたり逃げたりしつつ、クエスト資料のマップ通りに森の中を進み、いくつかの魔除けを越えて・・
「お~、これが」
「古風ですね」
ハーフエルフの郷『エルダーカンファーツリー』の入口前にたどり着いた。
郷は魔除けを施した木の城壁に囲われていていて、入口の左右には2本の楠の古木が生えていた。
脇の通用口は開いていたが、城門は閉ざされ、だいぶ年季の入ったウッドゴーレムが門番として2体配置されていた。
矢倉には弓を持った尖った耳のハーフエルフが1人いた。
「グランオニオンの冒険者ギルドから来たテツオ・ブラックウッドだ!」
「同じくマミ・シューティングスター!」
「おおっ、待ってたよ! 通用口の前の判定の石柱に触れて入ってくれ。あまりゴーレム達に近付かないようにな。古いから指示しても大味な反応するから」
大味て。
「大丈夫かよ?」
「テツオ、ゴーレム側歩いて下さい」
「いや歩くけどさ」
通用口が向かって右手にあったので俺はマミの左手に位置取ってヒヤヒヤしながら沈黙しているかと思えば不意に首だけこちらに向けてきたりするウッドゴーレム達の脇をすり抜け、通用口前の判定の石柱に2人で触れた。
魔物かどうか判定する魔法道具だ。一瞬、ピリッとしたがなんともない。
「マミ、『バカなぁーっ?!』とか言って消し飛ばなくてよかったな」
「テツオ、テツオよ。行く先々で判定の石柱に触れる時になんか言ってきますけど私のことなんだと思ってるんですか?」
「え?『毒針怪人』だろ? イテテっ」
脇腹のハードレザーの継ぎ目になっている所にパンチを連打してくるマミ! 攻撃速度が速いっ。
「じゃれてないで早くしてくれよ」
矢倉から降りてきたハーフエルフに急かされてしまったぜ。
俺達は門のハーフエルフに教わった通り、郷長の家に向かった。
エルダーカンファーツリー郷の家屋は門同様古風だった。郷の人々までわりと古風な装束。
「ほとんど機甲製品がないですね」
「影森由来の魔法素材がタダで使えるのと、この環境で育った人達は魔力も強いんじゃないか?」
「どうですかね~? 魔力強いですかぁ?」
昔は存在が秘匿されていたらしいこの郷の人々は、農業や狩猟や工芸品や魔法道具造りに素材加工なんかで生計を立てているようだった。
俺達は物珍しくあちこち見回しながら郷長の家に着いた。
「やぁお二人さん、はるばると! 田舎で驚いたろう?」
郷長はエルフの血が入っているから年齢がわかり難かったが、人間族で言ったら30代後半、といったところか?
「はぁ」
「童話みたいなお家に住んでらっしゃいますね」
「マミ」
「いや、そう思うよね? まぁ住んでる家はファンシーでも、自警団の皆はきっちり自分の役目は果たしてくれるよ!」
そう、俺達が引き受けたクエストは『ハーフエルフの自警団と連携してのゴブリン族退治』。仕事内容はシンプルだ。
『ゴブリン族退治』。初級冒険者なら定番の相手のように思われがちだが、相手は徒党を組み、知性があり、武装もするので内容によってはそこそこ難易度が高いターゲットでもあった。
2人ともやや緊張していた。
「私は戦闘はからきしなので、後は自警団の方で段取りをしっかり組んでね」
「ええ」
「組ませて頂きます」
話はこれで終わり風だったからホント挨拶しただけだな、と思いつつ、もう一言挨拶して2人で退室しようと思ったら、
「それから、自警団団長の『私の娘』のこともよろしくね!」
「ん?」
「なんですと?」
急にポロっと、クエスト資料に無かったことを言う郷長だった。




