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鋼の剣を買いたい戦士と毒針を極めたい魔法使い  作者: 大石次郎


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10/17

下山

エイサムさんは元冒険者で、完治に失敗するような酷い怪我を右足に受けるまでは主にトロテ山近辺の山岳地帯でそこそこ名の知れた前衛職だったらしい。

怪我後は引退し、暫くはギルドの訓練所の教官をしていたそうだが縁があって東面の管理人になっていた。

至って真面目に勤めを果たしていたエイサムさんだったが、10年前の土砂崩れで現役時代の後輩を亡くしてしまっていた。

後輩さんは遺体ごと流されてしまった上、土砂崩れの結果麓近くにモンスターの巣窟ができてしまい、長年捜索もままならなかった。

エイサムさんは俺達がその巣窟に一番近い安全地帯の調査をするのに同行し、そのままモンスターの巣窟に後輩さんの遺体捜索に向かうつもりでいたようだ。


「いや、ムチャでしょ?」


結局、夕飯を食べながらの話し合いになった。圧力鍋で作った干し肉シチュー、魚のオイル漬け、野菜の酢漬け、チーズの燻製、円盤型のパンにジャムを塗った物、安いワインと、微妙な温度で(気圧のせいで普通のヤカンや鍋では上がりきらない)淹れたハーブティといったメニューだった。

さっきのジンジャーティー同様、こういう料理は好きだ。


「だがこれはケジメなんだ。あの事故が起きた時、私も現場にいた。酷い雨で、とても山肌を移動できる状態じゃなかった」


「なぜそんな時に後輩さんは?」


食欲は戻っていないのでマミはシチューと自前のレーズンだけで夕食を取っていた。


「学者だよっ」


エイサムさんは吐き棄てるように言った。


「貴族子弟だ。趣味だけでやっているならまだいいが、別の貴族子弟の学者とムキになって競い合っていてね。ちょうど前日にその競合相手が論文で手柄を立てていたから、手が付けられなかった。珍しい高山性の薬草、星見草(ほしみそう)を見掛けたという話を聞きつけて小屋を飛び出してしまってね。あいつは、ザリィ・オールドチャペルはその学者の護衛をしていたから、そのバカ学者を土砂崩れから庇って・・あんな死に方をするような男じゃなかった!」


エイサムさんはワインの器にヒビが入る程強く握り締めていた。


「・・モンスター巣窟でのオールドチャペル氏の遺体確認は僕がします。エイサムさんは管理小屋で待っていて下さい」


ネリはハッキリと言った。


「そんなワケにはっ」


「貴方が行くなら僕も行きますが、その場合は僕がエイサムさんを庇って身動きできなくなります」


「なっ」


絶句するエイサムさん。


「エイサムさん、貴方も元冒険者でこの山の管理人ならわかるでしょう? 気持ちと無謀は、間違えるべきじゃないですよ」


「・・若造が。ああ、自分でケジメもつけられないとはな」


項垂れるエイサムさん。長い前髪で目を隠しシチューをモソモソ食べつつテーブルの下で俺の脛を軽く蹴ってくるマミ。心得てはいる。


「あの、安全地帯の点検が済んだ後でよければ、有料で、護衛しますよ?」


値段は特に決めてなかったが、恐縮してしまったエイサムさんとネリが思いの外高額を出すと言ってきたので逆に値を下げてもらうのに苦労しちまった。

俺達は火事場泥棒コンビじゃないからさっ!



翌日、東の空が白染む夜明け前、俺とマミとネリはエイサムさんに見送られ、管理小屋を出発し、ルートの内側の安全地帯を辿る形で下山を始めた。

途中、登山道のような整備はあまり無く、モンスターも多いが下り坂で強烈な日射しもまだ無い。手槍と山刀を使うネリもレベル9相当の技量が有り結構強かった。

俺達は快調に安全地帯を辿り続け、応急補修が必要な所にはバシバシ魔除けの杭を打ち込み、目立つモンスターの群れもガンガン倒していった。行きが嘘のような進行速度!

途中、気圧や空気の濃度の変化に慣れる為に休憩したり、昇ってきたトロテ山の東面全面を照らす朝陽に見とれたりしたが、俺達は問題無く、13番目のほぼ麓の安全地帯のチェックを終えた。


「テツオ、マミ。土砂崩れでできた麓のモンスターの巣窟、『喰らい谷』はこの先の、麓の森の中だ」


森が土で抉れたような箇所があった。石た砂が多いのと鉱石の質が合わないのか? 植物の侵食は少なそうだった。


「結構、麓の郷に近いな」


「これまでに何度も討伐隊が組まれて発生当時程の脅威は無くなってる。発生の原因も土砂崩れでモンスターの群れの死骸が1箇所に集まり過ぎたせいだったようだしね。10年後じゃもう餌になる物は無いよ・・」


「探し当てて掘り起こすアテは?」


「2つ。まず、この『ボーンコンパス』」


ネリはポーチから骨の装飾の怪しいコンパスを取り出した。


「遺品を使って条件付けした遺体を探す効果があるんだ。ほら!」


ボーンコンパスは喰らい谷の方を差し示していた。


「よく遺品が手に入ったな」


「うん・・」


ネリはハッキリとは答えずボーンコンパスをしまい、変わりにリュックに括り付けていた。布でくるんだシャベルの布を解いた。そこにはっ!


「これは」


「『鋼のシャベル』だとぉーっ?!!」


紛れもないっ、シャベルの『掘る部分』が『完全に鋼』だった!!


「なんてイカした土木道具ぅ~っ!!!」


俺は思わず鋼のシャベルに飛び付いて鋼のひんやり感を愉しんでしまった。


「え~と・・掘り易いかと思って、頑張って、買ってみたんだけど??」


「テツオは鋼フェチなんです。その点以外はワリとまともたがらギャップを感じるかもしれませんが、『振り幅』なんで、慣れて下さい」


淡々と解説するマミ。


「あ~、わかった。人間って、色々だよな・・」


暫く止められぬ鋼の衝動に惑い、ちょっと出発遅らせてしまったが、俺達は何事も無かった(てい)で喰らい谷へと降りていった。



喰らい谷は確かに素早く攻撃性の高い『スカルフェイスドッグ』や魔法を使う『マージケムシーノ』や電撃特性の『スタンリーフ』等、それなりに手強いモンスターは出たが、数はそれ程でもなく、トロテ山麓近くまで降りてくるとやたら多かった山のモンスター群との相対的な脅威度は似たような物だった。

やはり繰り返しの討伐と、巣窟の発生理由がとうに無効になっているが利いているようだった。

俺達はやや拍子抜けしてボーンコンパスに従って進んでゆくと・・


「これはっ!」


目の前の土山一面に野草の花園となっていた。星形の、美しい花!


「星見草だっ! こんな低地に・・流されて、適応して亜種化したんだな。例の学者にも一泡吹かせられそうだ」


まぁ学者本人は状況に関係無く、素で薬草を探しに行っただけなのかもしれないが。


「ああっ」


「いい気味なんよっ。さ、オールドチャペルさんを掘るんよ!」


「鋼のシャベルは俺に使わせてくれ!」


「いや、いいけど」


等と言いつつ、俺がはしゃいでボーンコンパスの示す土山を近付くと、土の下に気配!


「っ!!」


俺が飛び退くとの、土の下から岩の肌を持つ大型のケムシーノ。『ラージロックケムシーノ』が3体飛び出してきた! モヒカン毛で見た目ぬいぐるみ風だが、回転体当たり1発で大岩を粉砕する凶悪モンスターだっ。


「寝起きが悪いみたいだっ。ネリは援護に回ってくれ!」


「わかったっ」


「サンダーアロー!」


マミが魔法で威嚇してくれている俺は置いていた荷物の方に走り、名残惜しいが鋼のシャベルの代わりに鉄の剣と銅の盾に持ち変えた!

ネリは臭い玉を投げ付けて威嚇していた。


「マミ! 俺が2体引き付けるっ、1体減らしてくれ!」


「任せるんよっ、クィック!」


マミは全員に加速魔法を掛けた。ラージロックケムシーノ3体は致死的な回転体当たりを俺達に仕掛けてきたが、3人とも、加速で避ける!

ネリは山刀を1体に投げ付け注意を引き、俺は残り2体に、


「エッジラッシュっ!」


加速を乗せた連打を浴びせて釘付けにした。


「ファストビーっ!」


ネリが注意を引いた1体に加速を乗せた超加速で突進し、身体の節の隙間に毒針+0,5を打ち込み絶命させるマミ! よしっ。


「パワースラッシュっ!」


岩の身体が半壊していた1体を両断して仕止め、


「アイアンシェルっ!」


盾ガード技で強引にマミの方に最後の1体を吹っ飛ばした。


「サンダーアローっ!」


マミは意外と毒針ではなく攻撃魔法で半壊したラージロックケムシーノにトドメを刺していた。

加速を解除するマミ。


「勝てた・・」


「あれ? 針は?」


「下山の消耗と加速状態で加速技を使ったせいで足がガクガクなんよっ」


見れば産まれたての仔山羊みたいに震えているマミだった。

この後、俺は愛する鋼のシャベルで鬼神のごとく土山を掘り起こし、無事残っていたオールドチャペルさんの骨を発見した・・



俺達は安全を考慮して喰らい谷の来た道は戻らず、まだマシだろうと森を経由して麓の郷に通じる魔除けの利いた林道まで移動し、そこで小休憩してから林道を通ってトロテ山の麓の郷に入った。

さすがに疲れ果て、特にマミはポーションを飲んでも回復しない状態になってしまい、郷の魔法医に預けるしかなかったくらいだった。

俺とネリは遺体回収の届けを衛兵の番所にして(仰天された)、郷の役所に星見草亜種の件も伝え(これも仰天!)、それから郷の水晶通信で管理小屋のエイサムさんに伝えた。

管理小屋の水晶が通話のみの仕様だったから音声だけのやり取りだ。


「そうか・・やってくれたか。ううっ」


音声だけだが泣いているのは伝わった。


「あのエイサムさん」


「なんだ? 引き継ぎのことならもう」


「そうではなくて! 母が、再婚しているのですが」


「・・ん?」


「僕の旧姓はオールドチャペルなんです。ザリィ・オールドチャペルは、僕の父です!」


「なんと・・」


遺品が手に入ったのはそういうワケか。


「先に言ってくれれば山小屋の引き継ぎでもなんでも協力したのにっ」


「最初はそのつもりだったのですが、親の名前を出して全部譲って協力してもらうのはなんか違う気がして」


「・・強情なところは父親そっくりだ」


「すいません。でも、長い間、父を気に掛けてくれて、父のせいで悩ませてしまって」


「そんなことはっ」


そこからは2人とも泣いたり笑ったりの通話だった。



その4日後、俺、マミ、ヨイヨイさん、アッチは例によって楽な格好で兎溜まりに集まって飲んでいた。


「いやーいい話だったけと、なんかオチ無いの? 最後にトロテ山噴火っ! とか」


「サイテー」


ヨイヨイさんに殻付きピーナツを顔に投げ付けられるアッチ。


「オチって程じゃないけど、亜種化した星見草は薬効が薄くて珍しいけどあんま金銭的価値無かったんですよ。花に関する追加報酬、薬草学会から8万ゼムでしたぁ」


「あら~、残念! よしっ、飲もうっ!」


俺達をダシに呑みたいだけ疑惑なヨイヨイさん。


「でもそのネリ君? 若いんだよね? いいの管理小屋勤務なんて、普通、山関係でドロップアウトした中年の人がやるんじゃないの」


ぶつけられたピーナツの殻を剥いてポリポリ食べつつぶっちゃけてくるアッチ。


「ずっとかどうかはともかく、当分は勤めるみたいだぜ? 弔いもあるんだろ」


「へぇ~、真面目ー。そうだ、この間、南のダンジョンでね。足の臭いがファンシーなサイクロプスが」


「アッチ! この話題、興味失うの速過ぎだろっ? 大変だったんだぞ山登ったり降りたりっ」


「というか、1つ戦利品がありますっ!」


マミが急に言い出してテーブルに押し花の栞を置いた。


「ん?」


「これが星見草亜種なの?」


「ああ、そうだなコレ。いつの間に」


「拾ったつもりなかったんだけど、マントのフードに入ってたんよ。押し花にしてみました! 亜種じゃないけど星見草の香水を探して振ってある」


「マジ?」


「ちょっとお姉さんに嗅がせてみなさいっ」


アッチとヨイヨイさんが取ろうとしたが、俺が先にヒョイと詰まんでブーイングされた。


「ま、花1つでも残って良かったかもな」


うっすら香りの漂う花の栞は、1つの物語の終わりの項に差し込まれているようだった。

なんてね、

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