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食堂娘の神様革命  作者: 春樹
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髪型

 


 あれから大きなことが起こることなく、早数日。

 噂で聖女様が国からの依頼を受けて、派遣隊と共にどこかに行った等とは聞いたりしたが詳細は不明。教師勢にも多くは隠されているらしい。

 例の花がどこからやってきて、何を目的に広がっているのか分からないからだろう。唯一の明確な対抗策として存在している人間だ、過保護になるのも当然のこと。


 以前、池から回収できた花の首飾りの持ち主は、無事に当日中に手渡してあげることが出来て、号泣されながら大喜びされた。

 年季の入った様子の鎖と本体は、くすみこそあれど汚れはなく。

 暑くなってきたとはいえ冷たい池の中、何時間も探し続けて見つけることも出来ずに絶望していたそうだ。


「本当にありがとう。私にできることがあったら言ってね」

「たまたま見つけられただけだから、困った時はお互い様」


 この世界の、私の生きる場所では一つのものがとても大事に扱われる。

 勿論、壊れたり消耗したりするものもある。けれど、長持ちさせるためにもらったものほど手入れをマメにして家族間で引き継ぐことが多い。

 どの家庭にも手入れ用の道具は多く置いてあってそれも引き継がれている。


「うちの家でいつも娘に代々嫁入りの時に渡されてきたものなの。お母さんが亡くなってしまったから一人娘の私が結婚前に貰ったんだけれど、いつかこれを着けて式を挙げてねって約束しててね」


 慣れた手つきで首に掛けながら、接続部を取り付けて大事そうに指先で触れるの彼女の優しい顔。


「ユラにはないの、そういうの」

「うちは色気ないものだよ。小型の刃物、手のひら位の大きさの」

「そういうのもすごくいいじゃない」


 無論物すらない家庭もある。でもそれぞれ何かしら繋がっていて、それは知恵だったり、力だったり、工夫だったり、目に見えないものだってある。

 ルオンなんかは「人脈」が我が家の遺産だという。それが誇れるならそれに勝るものはないだろう。


「あげられるようなものないんだけれど、貴女が困っている姿ってのもあんまり想像つかないんだよね」

「普通にあるよ」

「本当?じゃあ、遠慮なく言ってね」


 この機会に仲良くなれたら嬉しいな、と言われて素直に喜ばない方ではない。

 こちらこそ、と返しながら笑いあえたのでちょっとは交流関係もマシになった気がする。うんうんと自分で納得して頷いていたらルオンが呆れた顔をしてみてきている気がした。きっと気のせいだ。


 だがこの行動は正解だったらしく、あれ以降、気付いたら彼女の友達関係からちょこちょこと話しかけられることが増えた。泣き崩れる彼女のことを心配していた友人たちは口々に私のことを褒めてくれる。

 ちょっとずるい裏技を使ったなんて言えるわけもなく、ちょっと褒められすぎている気もして冷や汗も流れた。

 下手なところでバレないように気を付けなければ。


「やっぱりユラってすごいね」


 そんなことが増えたから、その話を聞いたらしいアルヴィエからもこういわれることになった。

 アルヴィエと今日も一緒に来た図書室で、他の生徒が何人かいるも机で向き合っているのは私たちだけだったので多少話してもこちらに注意は入らない。

 ぽつりとつぶやいた彼女の言葉に、顔を上げて目が合う。


「さっき通りかかった生徒、こないだまでユラのこと怖いって言ってたのよ。ユラがいままでは壁を作っていたけれど、それをなくしたら友だちもあっという間につくちゃって」

「そんなことは……」

「すごいよユラは」


 言葉に棘がある、と流石に気付いた。

 私に向かった棘ではなかったから、不快感はない。ただ自嘲しているそれに近くて、わからないなりにここのところの彼女のを見ていて、少しわかったことがあった。

 自己肯定があまりに低い。


「アルヴィエは体力があるよね。私女だから無理ってあきらめること多かったのに、あんな軽々木に登るアルヴィエを見てびっくりした」

「男みたいなところ褒められても……」

「体力っていうか、腕力?それも強いよね」

「体力仕事多かったから」


 人によっては褒められても嫌な点かもしれないが、割と嫌そうな顔もしていない。

 本人が否定するなら、こっちが肯定すればいいだけだ。相手のことを、それこそ精神的に自分より年下の女に声を掛けてやれないほど余裕がないつもりもない。

 彼女が私のことを殺そうとしているか否か、そのへんはどう動いてそうなったのか分からないが、今のところわからない。

 何か危ない目に合いそうなときには懐に忍ばせたクリアがバイブ機能のように震えて教えてくれる予定になっている。

 そしていまのところそれが震えたこともない。

 しかも、クリアにああいったのはどういことだと問い詰めても、漠然と「殺したいと思われているとしか分からない」と返してきた。


 そうなると対応策なんて打てないわけで。


「家は孤児院って言ってたよね。どんな生活だったの?」


 そういえばあまりアルヴィエの話を聞いたことがなかった。

 私の話は意外と彼女が質問してくることが多かったので、いろいろ答えていたがまぁ大した内容ではなかった。


「そんな楽しい生活じゃないよ」

「嫌なら聞かないけれど、いつも私の話聞いてもらってばっかりだったなって」


 閉じられた本の音が響く。


「二十人近くの子供が集められてね、小さい子は家の手伝い。私ぐらいの歳の人は外に仕事に出ててね、色んなことしてきたんだけれど、私がそのなかで唯一楽しかったのは人の家を作る仕事だったの」

「家?」

「そう、ひとつひとつ、組み上げて、重ねて、繋げて出来上がっていって。私なんかが住めるような家じゃないんだけれど、手伝いしか出来てないんだけれどそれでも自分もこれに関わったんだって思うと嬉しくて」

「かっこいい」

「え」


 そんなのめちゃくちゃカッコいいじゃないか。

 女でドカタ。最高だ。やっぱり体力があると思っていたら、そういう生活に身を置いていたのか。

 この世界だと男尊女卑が酷くて、そういう仕事は逆に女は嫌煙されるものだと思っていた。


「私作ってる人を見たことがあるけれど、男の人ぐらいしか見たことなかった」

「私ぐらいだと思う……。体力もあるし、同い年の男の子より腕がいいって褒めてもらったことあるの……」


 予想外の特技だ。ちょっと頬を染めながらそういう彼女は、年頃の女の子らしい。

 現場の人間に認められるほどだ、この世界は人情ばかりで仕事は成り立つものじゃないからよほどいいのだろう。


「家族を持っている人が羨ましかったのかもしれない。家族と一緒に過ごせる場所ってのが羨ましくて、だから作る側にせめて回りたかったのかも」

「他の人に簡単に真似できないことだよ」

「そうかな」

「そうだよ」


 彼女の長い髪を見ながら、仕事するときは邪魔じゃなかった?と聞くと一つ棒を取り出してするすると簡単にまとめてお団子に括って見せた。いつもやっていたことなんだろう、綺麗にまとまってこれなら作業の邪魔にもならなさそうだ。

 それを抜きにしても、髪をあげただけで印象が変わった。

 ふんわりしていた印象が一気にカッコいい系のお姉さんだ。


「その髪型似合う。なんでいつもその髪型にしないの」

「孤児院からこの学校に来たのは私だけで、他の子たちはみんな別のところに行ったの。だから顔見知りがいなくて……少しでも女の子らしくしないとダメかなって」

「その髪型でも女の子らしくない?」

「みんな女の子ってふわふわさせてるでしょ、合わせないとと思って」


 流行りじゃないけれど、言いたいことは分かった。

 確かに私みたいに一つ高いところに括っている人も少ない。女は髪を下ろすものだという雰囲気が確かに多いので、私も当初は悩んだ。

 悩んで、邪魔になって結局括ったんだけれど。


「似合うよ」


 髪型に規定はない。髪色なんてこの世界に縛りもない。

 人より肌の色が濃いのは、きっとこれまで外で作業仕事をしてきた証拠だ。

 私は邪魔なだけだけれど、せっかく似合う髪型なのにそれを好んでいるのなら周りに合わせてしないっていうのはちょっともったいない気がした。

 強制も出来ないのだけれど。


 ぽかん、とした顔をしながらさらに顔を赤くしながら嬉しそうに笑った。


「昔、同じこと言ってくれた人がいたわ」


 あれ、と気付いたことがあった。髪を上げて笑った彼女が誰かに似ていたのだ。







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