第二十話 どらごんと漬物天国
鈴木ドラゴン京一郎にとって、蕎麦をはじめとした麺類は乗り越えるべき壁のひとつである。
『すすれないんです』
骨格上の問題として、ドラゴン種は喉奥を膨らませて吐息を溜める。頬を膨らませるのは苦手の極みであり、それは努力で解決できる問題ではないというのが専門家の見解だ。
『竜革を脱いで人型となればいいだろうに』
アルバイト先の上司でもある芹沢エリカ嬢が、青柳の貝柱をたっぷりと載せた汁蕎麦の器を手に息を吹きかけながら笑う。プライベートの場では人の姿をとることが多い彼女は、ドラゴン京一郎ほどではないが野菜や魚にも理解を示す。
『包茎でもあるまいに、脱げるのだろう』
『ほ、ほほほほ包茎とちゃうわ』
胡麻油でからりと揚げて塩を振った蕎麦をばりぼりとかじりながらドラゴン京一郎は反論し、隣の席にてざる蕎麦と格闘していた妹の花子をはじめとする女子高生三名が、がたんがたたんと勢いよく立ち上がる。
が。
『座れ、耳年増共』
という芹沢の一声にて消沈し、悔しそうにテーブルに拳を叩き付けながら着席する。
『人と共にあって十五もすぎれば立派な大人だ。発情しようがしまいが革を外して人型にもなれるだろうに』
『そういう訳では』
『まだるっこしい──そこの三人娘、この子を押さえてなさい』
芹沢エリカが面倒そうに言えば花子達は目を輝かせ慌てるドラゴン京一郎の両腕にしがみつく。
力を振るえば解くことなど造作もないが、狭い蕎麦屋の中で竜の巨体がそんなことをしてしまえば器物破損はもちろん彼女達が傷つくのは必至。
故にドラゴン京一郎は動けず、芹沢は両手をわきわきさせながら迫る。
『東洋の竜種とは違うから、首横の継ぎ目に沿って……よし、ファスナーが出てきたから一気に』
『や、やめっ』
京一郎の懇願もむなしく、背中のファスナーは一気に引き下ろされ。
「……」
「……」
「……」
『……すいません、天蕎麦やめてこの子にお子さまランチ大至急』
『だからいやだったのにい!』
贔屓目に見ても小学校高学年に届かない金茶髪の男の子と化した京一郎の姿に三人娘は悶絶し、芹沢エリカは京一郎を自宅に連れ込んで一緒に風呂に入ろうかと一瞬だけ血迷った。
様々な危機より脱し精神的に立ち直った鈴木ドラゴン京一郎が再び登校するのは、この十日後のことである。
【登場人物紹介】
・鈴木ドラゴン京一郎(脱皮)
身長110㎝くらい(頭のアホ毛ふくむ)
体重ひみつ(通りすがりの女子中学生が片手で抱えてラブホに駆け込める程度には軽い)
髪の色 金茶と自己主張してるがハニーブロンドのくりくり巻き毛
瞳の色 感情によって変わる
外見は一部を除いて10歳くらい。ドラゴン種ではあるが爬虫類に似た特徴を兼ね備えているためか「はわわわわっ、おにいさまのおにいさまがヤマタノオロチっ」「……すべてのハードポイントを駆使しても未だ足りない。やるわね京ちゃん!」「三人いれば何とか、いやでも物理的に長さが──うわぁ、すごい伸びるっすよ先輩。うわぁ、うわぁ、うわぁ」という評価を得ている。




