第十三話 どらごんと小市民の集い
不定期★連載(ストックが尽きたら)
魔王という種族は、厳密には存在しない。
魔王とは、魔物の王様であり、魔人を束ねるものであり、領地もしくは領民の存在があって初めて魔王と呼ばれる。
とはいえ魔王を親に持つ者は、素性がどうであれ只ならぬ力を持つ血筋としてみなされやすい。そして魔王の力を求めるものにとって、生産性の点で魔王の息子に対する潜在的な需要と期待は高い。
まして「彼」は肩書きでこそ魔王の息子だが、魔王すら超越した「人間」を父に持ち、力に対して高い自制ができていると評判だった。いずれ故郷の世界に戻る日が来れば、勇猛にして武門の誉れ高き四氏族を眷属に従え、神と人と魔を結ぶ三界の王として君臨することさえ期待されていた。
その彼が中学三年生の時に、家族の前で宣言した。
『市役所の職員、目指します』
朝食時の一家団欒の場は、ものの見事に凍りついた。魔王の息子を学校に誘うついでに朝食に呼ばれていた幼馴染の少女あーちゃんだけが、彼の隣でもぎゅっと口を動かしている。
『市役所に勤めて、あーちゃんをお嫁さんにして、30年ローンで家を買って、子供二人くらい作って、商店街の振興に力を注ぎたいです』
「ん。ええよ」
口の中の飯を呑み込んで数秒、北欧人を両親に持ちながらも大阪生まれで大阪育ちの金髪碧眼少女あーちゃんは「なにを今更のことを言ってるんやこいつは」とでも言いたげな、しかしまんざらでもない顔で答えた。
最初に反応したのは姉である長女だった。
『父上、母上! 弟が乱心した!』
無事に市内の私立高校に合格し、入学三カ月で生徒会長の座を掴んだ長女が周囲にプラズマを撒き散らしながら絶叫する。同級生達に「えー、半分しか血がつながってないならOKでしょ」だの「近親相姦いうんは人間とか動物の理屈やん。魔王とか神様の類ならその辺とか問題にならんとちゃうの?」などなどさんざん焚きつけられ、程良く脳内がピンク色に染まり始めていただけに、弟のこの宣言に相当のショックを受けていた。
『ひょっとして、これが噂の中二病ですか兄さん?』
同様に、妹である次女もまた適度に錯乱していた。
念願かなって魔王の息子と同じ中学に通い始めたものの「えー、中一なのにまだ処女なの?」とか「大抵の子は親戚のお兄さんとか弟相手で済ませちゃってるよ」とか、なぜか成年マークが見つからない少女向けコミック誌で得られた知識を基にした女子中学生トークに適度に汚染され、兄である魔王の息子を異性として意識し始め得ていた頃である。姉ほどの動揺はなかったが、それでも幼馴染である少女に身内が奪われたという感覚は否定しない。
これが第一次「魔王の息子が大阪から出奔むしろ駆け落ちですよカレー屋の店長ぉ!」事件の発端であった。
▽▽▽
さて、現在。
秋葉原の、とある喫茶店にて。
『今回こっちに来たのも、大阪離れてあーちゃんと静かに暮らせんやろかと思ってなんや』
『うん、無理』
窓の外を見ながら鈴木ドラゴン京一郎はきっぱり答えた。
喫茶店を囲むように硬化プラスチックの盾を構えた機動隊員が並んでいる。
「こーちゃん、やっぱ東京はせわしないなあ」
『せやねえ。スーさんみたいな気持ちのええヒトもおるけど、茶の一杯もゆっくり飲めへんのは大変や』
『言いたいことはなんとなくわかるけど、君らに言われるのはかなり心外らしいて都知事さんがバリケードの向う側で叫んでるね』
後半年で任期満了、再び国政にとか言ってたけど多分無理だなあ。
一刻も早く魔王の息子達を羽田空港に向かわせるべく罵声を浴びせ続ける都知事の醜態を横目で見つつ、ドラゴン京一郎は妹である鈴木花子の頬についた抹茶アイスを紙ナプキンで丁寧に拭き取った。
【登場人物紹介】
・姉
魔王の息子の異母姉。というか母親同士が姉妹。「腹違いだからおっけー」理論は最初から通用しないが思春期の程よい脳内ピンク光線に負けた。そこらの種付けおじさんや薄い本の竿役程度では妊娠させるどころか乙女バリアーを貫通する事さえ出来ずに海綿体崩壊してしまうので、それこそドラゴン種クラスの雄じゃないと子孫繁栄できない。綺麗なプラチナブロンド。胸は薄い。セーラー服姿かつ格安航空で羽田空港に降り立ち、ドラゴン達と対峙中。
・妹
魔王の息子の異母妹。基本スペックは大きく変わらないが乳には恵まれた。異性の比較対象基準が異母兄という不幸を背負っている。
・都知事
たぶん国政には復帰できない程度にスキャンダルを抱えている。




