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いもうと×どらごん  作者: は
14/22

第十四話 どらごんとブラコン




 結論から言えば、羽田空港の滑走路は無事だった。

 滑走路面どころか航空機、関係車両の窓ガラス一つにさえ傷がついた様子はない。


 ぺしぺし。

 ぺしぺし。


 滑走路に響くのは、尻を叩く二種類の音である。


『は、は、はは、母上。わ、わわわ私は次の誕生日で十八に』

『どやかましい。長子として弟妹の規範となるようにと普段から口を酸っぱくしているのに、あなたという子は! あなたという子は! 余に似て慎ましいのは乳の大きさだけか!』

『わ、私は母上とは違ってまだ成長する望みが』

『──それが遺言か』


 魔王の子、姉と呼ばれた少女が悲鳴を上げる。制服のプリーツスカート越しに尻叩きをしているのは、少女に似た雰囲気の麗しき女性である。絶望的なまでに乳房が小さいことから二人が親子であることを周囲の竜たちは即座に理解した。


 理解したが、その思考を決して外に漏らさぬように最大限の努力を払った。

 気付かれれば関東平野が海の底に沈むからだ。


 あそこにいるのは、つまり、大魔王とよばれた人間の正妻である。

 異界において神の血脈に連なり、なおかつ肉体を喪失せずに生き延びてきた一族の末裔。

 この世界に来訪する際に履歴書を少し書きかえれば太陽神として君臨することも出来たであろうに「そんな益体もない称号よりも団地妻と呼ばれたい」と言ってのけ、最初の五年間を公営団地で過ごした御仁である。


『お母さんの前で胸と献立の話をするとは、どこまでも学習能力のない』

『自分も叩かれているというのに随分と余裕ですね』


 その一方で。


 こちらもまた胸の部分が良く似た美人が妹の尻を叩いていた。姉の母が女王の風格を放っているとすれば、こちらの女性は宰相のそれである。実の娘を折檻しているはずなのに、どこか機械的かつ事務的で容赦がない。にもかかわらず、妹はむしろ恍惚の笑みを浮かべて尻への掌打を受けていた。


『心頭滅却すれば、兄さんからのスパンキングに脳内置換して驚異の新感覚に目覚めることも容易なのです』

『こーちゃんは、先ほどあーちゃんと一緒にフィンランド大使館に出頭して婚姻届を提出したそうです』

『痛い痛い痛いッ、尻よりも胸が痛い心が痛いですママン! そんな事実耳にしたくないっ!』

『つまり入り婿になったこーちゃんは、ミドルネームにパーヤネンが追加された、あっぱらぱー兄さんに』

『いやああああああっ』


 混沌であった。

 世界を何度も塩の柱に還元できてしまう力を保有する存在が繰り広げる茶番劇に、竜も、人も唖然とした。

 時折勘違いした学生剣士が「無双東月流秘奥義!」などと叫んで虹色に輝く日本刀を振りかざして突進するが、秘奥義だから表に出しちゃ意味がないでしょー、の言葉と共に周囲に取り押さえられている。



 ちなみに。


「えーと、うちの馬鹿娘どものせいで飛行機止まってすいまへん。機体ごと目的地に空間転移させますんで、申し訳ないですけど先方の空港管制との連絡をお願いしてええですか?」


 菓子折り片手に頭を下げてきた似非関西弁の青年──各国より【大魔王】という暗号で警戒されている──の人道的補償により、運休を覚悟していた数多の航空旅客が空間転移により輸送された。

 最高記録は東京発ロンドン・ヒースロー空港着の便に搭乗した旅客340名で、所要時間12時間10分のところを12時間ほど短縮したフライトで目的地に到着したと現地のTV局が大々的に報道した。





『すごいね、こーちゃんの御家族』

『そろそろ縁を切っても許される頃やないかと思ってる』


 東京湾方面から水面すれすれを飛んで到着し、その混沌を目撃した鈴木ドラゴン京一郎は素直に感心し。

 ドラゴン京一郎の背中で幼馴染のアーちゃんが振り落とされないように支えていた魔王の息子こと風見小太郎青年は、実にしょっぱい顔でアーちゃんの家への婿入りを決意していた。




【登場人物紹介】

・魔王

 異世界では太陽神に連なる存在だったが一神教の侵攻により魔落ちした眷属たちを守るために自ら魔王を名乗っていた。ヤリチン勇者が来る前に謎のカラテとニンポー使いの青年がやってきて救われた結果、押しかけ女房ックスの果てに一児を得た。現在は主婦をやりつつこの世界での生き方を模索している。知的な美女だが絶望的なまでにスレンダー体型。


・魔王の腹心

 異世界では太陽神の従属的な亜神だったが以下略。実質姉妹みたいなもの。異世界からの来訪者なのでという理屈で重婚を認めさせた。


・大魔王

 かつて風見光太郎と呼ばれていた存在。元は人間だったが命を落とした際に神々のうっかりにより自分ではない別人が風見光太郎というパーソナリティーを確立させてしまったため、修行の後に数多の異世界で便利屋稼業の真似事をするようになった。得意技は忍法サテライトキャノン。

 息子一人娘二人嫁三人という生活を送っている。

 カレー屋の部下でもある。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] そうか、光太郎さん、苦労したんだね。
[気になる点] ……パーヤネン? もしかして、その二人の子供が例の三姉妹(ピックアップトラック、不思議な青くなるオクスリ、家事全般の使い手達)だったり……?
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