第十二話 どらごんと魔王の息子と嫁と小姑
超★不定期連載
北欧から家出してきたという金髪碧眼の少女は、至極あっさりと、駆けつけてきた大使館員に引き渡された。
『ものごっついボーイズラブの薄い本、どないしよか』
顔見知りらしい大使館職員に何度も頭を下げてから、魔王の息子が嘆息する。どうやら家出娘は秋葉原で女性向けのごっつい同人誌を買い込んでいたらしく、コインロッカーに預けていた分を含めると業務用冷蔵庫二台程度の分量になっていた。
「ではソウルフレンドの秘宝管理は私が責任もちまして」
『花子ちゃんの部屋に入り切らないよ多分』
それ以前に余所様の私物だし、お父さん達これ読んだら卒倒するねと鈴木ドラゴン京一郎が同人誌の一冊を手にとった。
『家出してきた子といい花子ちゃんといい、女の子はみんなこういうのが好きなのかなあ』
『……姉さん達の部屋にも、こういう本あった』
『うーん』
BL本の山を前に唸り肩を落とす、魔王の息子とドラゴン京一郎。
たとえ秋葉原と言う街の特性があったとしても、まずお目にかかる事の出来ない構図である。
あまりに凄まじいため遠巻きに人垣ができているが写真を撮る者さえいない。うっかり撮影したら世界中のドラゴンが殴り込みをかけてくるのではないかと皆が思っていた。
『花子ちゃんは、とりあえず後で家族会議にかけるとして』
「お、横暴ですわお兄様!」
『……あいつも、こう言う本とか好きなんかなあ』
「そんな訳ないやろ、こーちゃんの阿呆!」
眉間に皺を寄せてうなる、魔王の息子とドラゴン京一郎。このまま池袋の乙女なロードを急降下爆撃しそうな空気さえ漂わせていたのだが。
それを窘める声が、人垣の向う側から。
すんません、すんませんと言いながら魔王の息子の前に現れたのは、先刻補導された金髪少女に良く似た女子高生だった。違いがあるとすれば、こちらの少女は周りにいたメイドさん達ですら「せ、戦闘力98Hだと!? ええい天然だというのか! このままでは乳バンドが保たんところまできているのだぞ、なぜそれがわからんのだ!」と戦慄するほどの巨乳という点である。
『あ、あーちゃん!』
反応するのは、魔王の息子。
初めて訪れたであろう秋葉原の人込みで疲労困憊らしき金髪少女に駆け寄って、大丈夫なんかと肩を支える。顔はキリっとしているが背中の羽が柴犬の尻尾よろしくぶんぶん振り切れている姿は微笑ましくさえある。
『あーちゃんは土地勘ないから、俺が行くいうてたやないか! なんで大阪から出て来たんや!』
魔王の息子は、少女が怪我もなく軽く衰弱しているだけなのを知り、ひとまずの安堵を得た。もしも途中の電車などで痴漢に遭ったりナンパされていたら、おそらく都内23区+特別行政2区は地図上から消滅していただろう。NTRれた日には最終戦争発動も必至。本気を出した魔王の眷族の前に、竜は拮抗することさえ難しいのだ。
「こ、こーちゃんが心配やったからに決まってるやろ。こーちゃんが東京行くて姿消した途端に、お姉ちゃんたち血相変えて関空占拠するし、半魚人の御爺さんとかライオン頭のおっちゃんとか『若殿はどこじゃあ!』って突然現れて大変やったんやで!」
『姉さん達もか!?』
「せやで!」
その直後。
羽田空港近辺に巨大な光の柱が二つ、突然生まれて消えた。
上空にあった雲を吹き飛ばし、光の吸い込まれた先では昼間だというのに星空が垣間見える。
『……あれ、かな』
『あれや』
茫然としたドラゴン京一郎の呟きに、魔王の息子は重苦しく頷いた。
その間、ドラゴン京一郎の背中に抱き着いた花子が「くんかくんかすーはーすーはー、きゅおんきゅおんきゅーん☆」と美少女にあるまじき恍惚の表情で兄の体臭を満喫している姿が撮影されて動画サイトにて全世界公開されたのだが、鈴木家では割といつもの光景と言うことで指摘する者は特にいなかった。
【登場人物紹介】
・あーちゃん
鈴木ドラゴン京一郎とは無関係のため、幼馴染属性でありながらゴールインすることを許された奇跡の少女。両親は北欧出身だが自身は日本で生まれた。日本語しか喋れない。英語も苦手。魔王の息子とは幼馴染の関係で「え、羽が生えてる? うちはおっぱい大きいで?」と素で返す性格。そのため周囲も二人の仲を温かく見守っている。
・ライオン頭
魔王の息子を若殿と慕うおっさん。地元では任侠っぽいけど評判の良い人材派遣業を営む。ヒーローショーや特撮番組に部下を派遣しており自身も日本の特撮黎明期には全身タイツ姿で正義の味方をやっていたこともあるらしい。
・亀爺さん
魔王の息子を若殿と(以下略)。地元経済界の重鎮で主に観光業を牛耳っているらしい。ライオン頭とは旧知の仲。若殿が血筋的に室町幕府を再興してくれないかなーと余計な真似をしては発覚して魔王の息子に怒られるのが楽しいらしい。




