第十一話 どらごんと魔王の息子と息子の姉と妹と幼馴染
とりあえず不定期更新なのです。
羽田空港の滑走路に四騎のドラゴンがいた。
翼幅が百メートルを超える竜は、道交法の規定で空港の滑走路を用いて離着陸が求められる。竜と言う生き物はある程度その身の丈を変えることができるので、よほどの事情がなければ滑走路を使う事はない。
言い換えれば、竜をしてよほどの事情と判断することが空港に起きている。
『うむ。出迎え御苦労である』
『緊急の御出動、ご迷惑をおかけします』
四騎の竜。そして関東守護を自任する超常の戦闘集団およそ百余名。
激安航空便で到着した民間機を囲むように彼らは並び、牙と武器を向けている。事情を知らぬ他の旅客が慌てる中より現れたのは白銀の髪が美しい二人の姉妹であった。
殺気のこもった視線が突き刺さることなど意に介さず、姉は胸を張る。
張ったところで微動だにしない胸、というよりも童女と呼んでも差支えないほどの幼児体型である。乳が育たないのは母親瓜二つだと言う評価を、姉は今のところ受け入れてはいない。
『慣習より致し方ないとはいえ、大魔王の眷族が国内旅行した程度でここまで身構えずともよかろうに』
『慣習なものか、破壊の姉妹よ』
傍目には黒を基調とした半袖セーラー服姿の姉妹だが、超常の力を有する百余名と四騎の竜にとっては爆発寸前の核弾頭にも見える。
狂神の方舟落し。
数年前、竜や幻想種の台頭を危惧した旧教過激派が一部天使と結託して実行した大規模破壊活動があった。本来であれば大災害時に数多の生命を乗せるべき神話の方舟を、よりによって発掘現場より衛星軌道上に転移させて地上に叩き落とそうとした。
全長15キロメートルに及ぶ、材質不明の巨大構造体。
異界からの移民船とも超古代の遺跡とも呼ばれ、発見以来数多の竜が常に攻撃目標としていた物体である。天使たちは衛星軌道上より方舟と共に落下して地上──日本列島の殲滅を目論んだ。巻き上げる土砂その他諸々により地球全体に深刻なダメージが及ぶことは分かり切っていたが、一握りの熱心な信者さえいれば後は全て処分という方針を決めた彼らは躊躇なく実行し、
地上からの忍法サテライトキャノン(物理)を三方向より喰らって跡形もなく消滅した。
現存する竜の七割が集結してなお破壊できなかった構造体が、である。
持ち回りで商店街青年部の広報係くらいしか表だった活動をしていなかった大魔王の子らは、この一件をもって非現実の住人達に存在を認知されることになった。
『主な破壊は姉さんが実行しました』
姉の後ろで控えている妹が、しれっとした顔で返す。姉より頭一つ分背が高く、乳は比べるまでもなく大きい。母親違いとは言うが、父親の因子は身体発育にはさほど影響しなかったようである。
『あの後は静かに暮らしているやろ、うちら』
『だからこそ、三人まとめての上京に関係各所が大騒ぎなのだ! 大魔王と魔王の間に生れし娘よ!』
姉のぼやきに、竜の一騎が声を上げる。
『なんや、愚弟が来てるの知っとったんかいな』
『貴様ら姉妹を止められるのが彼しかいないのだから真っ先に連絡付けるのは当然だろうが! 事情聞いて心底彼に同情したわ!』
別の一騎の竜が吠える。
『ブラコンをこじらせて弟の恋路を邪魔すべく関東まで押し掛ける貴様らの性根を叩き直す! 我らはそのために集結した!』
『良い度胸です。たとえ世界の守護者を自任しようとも兄を思う妹のパワーは宇宙開闢よりも強いことを思い知らせて差し上げましょう』
かくして羽田空港滑走路は封鎖され、一触即発の事態となった。
その頃、秋葉原では。
「紹介します。魂の親友、ミーちゃんです」
「サークル『おねだり☆聖ニコラウス』代表のHNミーちゃんです」
ジロー麺とゴーゴゴーカレーをはしごして来たにもかかわらず腹部が一切膨らんでいない金髪碧眼の美少女が深々と頭を下げる。スパイス臭もニンニク臭も漂わせず、むしろ香しい花弁の匂いに包まれている美少女に鈴木ドラゴン京一郎と魔王の息子は戦慄を覚えた。
うちの花子ちゃんは三日に一度はロッテリアのポテトの匂いをつけて帰宅するのに。
これが女子力の違いなのかと内心舌を巻き、ドラゴン京一郎は改めてミーちゃんと名乗る少女を見た。北欧系と思しき彼女の装いは花子とそれほど大差ないのだが、やはり出ている部分と引っ込んでいる部分のメリハリというのは大事なのだなとドラゴン京一郎は納得した。
そんな兄の心配を知らずか花子はやや興奮気味である。
「お兄様! 先ほどミーちゃんとお店にて意気投合して、これはもう一緒に本を作るしかないよねと盛り上がってしまいましたの!」
『参考までに聞くけど花子ちゃん、どんな本を作るの?』
「真実の愛ですわ、HNウッディのお兄様!」
『へー』
流暢な日本語を駆使するミーちゃんが抱える紙袋には、本がぎっしりと詰まっていた。そういえば幼馴染である渡辺夏子の部屋にも似たような本を見かけた記憶がある。もっとも「京ちゃんにはカレー粉以上に刺激が強すぎるからだめよ」と言われたため中身を読んだことはないのだが。
『それで、ミーちゃんさんがコーちゃんの探してた家出の人なのかな』
『あーうん多分まちがいないと思う』
氷点下の視線をミーちゃんに向けつつ、コーちゃんと呼ばれた魔王の息子が疲れたように答えた。愛ゆえに人はここまで苦しまねばならないのかとドラゴン京一郎は戦慄した。
【登場人物紹介】
・ミーちゃん
北欧っぽい国から来た金髪碧眼の美少女。本名不明。八年も経てば作者も忘れる。料理に関してはイギリスと並んで残念な国の出身で、トナカイのステーキとサーモン以外には特筆すべきものがないとか硫安臭い飴をどうにかしろよ的な言われ方をする国の出身。好きなジャンルは幕末物。海援隊は「海の漢と援助交際し隊」の略じゃね?とか本気で考えている。




