第十話 どらごんと夢と現と魔王の息子
ある時、鈴木ドラゴン京一郎が秋葉原を訪ねると駅前の広間で魔王の息子が客引きとカメラ小僧に捕まって難儀していた。
『すいまへん、おれ今ちょっと人を探してるんですわ。そのコスプレとか仮装違いますねん、羽とか自前ですから』
「ポーズお願いしまーす」
『いや、だからおれは人を探しに』
「視線こっちに向けて下さーい」
なにしろ天然物の銀髪に黄金の角、背中より生える翼は三対で光り輝いている。
魔王印の暗黒鎧でさえ、その透き通った肌と髪を引き立てる上品な美しさである。男と分かってはいるのだが、それでも写真を撮らずにはいられないほどの神々しさがあった。
そんな魔王の息子が、秋葉の住人に囲まれていた。
普段はチラシを配っているメイドさんもちゃっかり参入しての撮影会である。
魔王の息子であるからして筋力や魔法の力も尋常ではない筈だが、彼は胡散臭い関西弁を口にしつつ誰も傷つけないように逃れられないものか苦心していた。
『あのー』
数分ほど眺めてから、ドラゴン京一郎は声をかけた。
『僕の友達なんで、勘弁してくれませんかね』
どよめきが起こる。
銀髪の魔王と、金鉄色のドラゴンの構図である。近場のゲームショップにいたTRPGゲーマーや古参のSF愛好家たちが駆けつけて拝み始め、路上音楽をやっていた軽音バンドが懐かしいゲーム音楽を即興で奏で始める。
それほどのインパクトがあった。
数分後。
とりあえず解放された魔王の息子は『おおきに』と、屋台のケバブ数個をドラゴン京一郎に渡した。ドラゴン京一郎が肉が苦手だと聞いたので『肉ぬきのケバブ、キャベツマシマシのヨーグルトソースで』と冗談まじりに頼みこんで購入した特別製だ。
『おおきに。ほんま助かりましたわ、出発する時はそれほど騒がれんかったんやが名古屋過ぎたあたりから妙に騒がれて難儀してたんや』
『そりゃあ魔王級が関東に来たら大騒ぎですよ。関八州の守護鬼とか、関東極炎聖覇とか自称帝都の守護者とか諸々来ませんでしたか?』
『あー、なんか空港が閉鎖されたニュースがラジオで流れてた。おれ飛行機酔いするから陸路ばっかなんや』
万世橋のカツサンドを頬張りながら魔王の息子は笑う。関東のカツはホンマに豚なんやなあと妙に感動している。
『それで知り合いを探しに来たって言ってましたけど』
『……あ、うん。おれの幼馴染のな、遠縁の子が家出してこっち来てるて連絡が入ってな。手分けして探してるんや』
幼馴染、という言葉を口にする魔王の息子の顔が赤くなる。
『自分でもセコイのはわかってるんやけどなあ、こういうので少しでもポイント稼ぎたいんや』
ドラゴン京一郎の視線に気づいたのか魔王の息子は苦笑いし、食べ終えたカツサンドの紙箱を畳んで鞄に突っ込む。所作の一つ一つが優雅というか華麗で、育ちの良さが伝わってくる。
『おれの幼馴染はガイジンさんでな、魔王の息子いうてもひるまずに驚かずに接してくれた別嬪さんなんや。振り向いてもらえるとは思わんけど、少しでも恩返ししたくてなあ』
『手伝いますよ、人探し。外人さんなら目撃情報もあるでしょ』
『ほんまか!』
『ぼくも妹達が買い物に来てるのを迎えに来たので。合流すれば人でも増えますよ』
いやあ嬉しいわ百人力や、ぼくら魔王とドラゴンですけどねー。
などと一人と一匹が笑いあう頃。
「……西郷×竜馬」
「……日本の夜明けぜよ(くぱぁ)」
北欧から来た少女と鈴木花子が腐女子向け同人誌コーナーで固く握手をしていた。
手に取る本の表紙と口にした台詞が無ければそのまま額縁に飾っておきたい美少女達でしたと、レジに立っていた店員は後に証言している。
【登場人物紹介】
・魔王の息子
関西に住んでいる。戸籍上は日本人だが血筋的には非常に怪しい。母親が魔王種だが「父親の方がよっぽど魔王やん」とは御近所の総意。余りある魔力と特殊能力を駆使して国際的な救助チームを結成すべく色々と動いているが、邪魔者も多い。幼馴染の女の子にベタ惚れしているという設定。
・北欧っぽい美少女
本場モンの腐界住人からみればヒヨッコ同然の貴腐人。日本にいる親戚が魔王の息子と交際していると聞いて驚いたが、そんなことより本場モンの同人誌だと言わんばかりに秋葉原に来た。乙女ロードにいきなり行かなかったのは、男性向けの本もイケるため。




