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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
3章 森へと続く道
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閑話2 この世界に残る最後の神

 光と秩序の神フォティナ。それはこの世界で最も力を持つ、今となってはたった一柱しか残っていない創世の神の名だ。

 その姿は厳めしく顔をしかめる残酷な老婆であり、分厚い書物を持つ優し気な女性、もしくは暗闇を照らす月明りで表される。どの姿にも共通して白いローブと光り輝く球体が共に描かれており、そのどれもがフォティナを象徴していた。


(千年前……いえ、思えばもっと前から………)


 どの姿であっても優しさと厳しさを併せ持つと言われているが、しかし今のフォティナにその面影はない。まるで機械のように淡々と世界を回していた。全盛期であった神代の頃さえ超える力を今の彼女は持っており、その姿は力があふれ、一目見ただけでひれ伏したくなる神々しさだが、その瞳はガラス玉のように無機質だ。

 それもそのはず。今の彼女は何も考えず眠っているのだ。神としての反射運動で世界を回しているに過ぎない。


 微睡むフォティナは虚空に夢を見ている。もしくは嘗ての思い出を。何もかもが輝いていた神の時代を。

 創世の神。十二の大神。彼らが揃っていた時がこの世界の始まりであり完成形だった。神の祝福が世界に満ち溢れ、人間たちも神を崇め、神も人を助け導く。全てが平和で穏やかだった。


しかし十万年前に起こった、異世界から現れた邪悪な神々が襲撃してきたことによって破られてしまった。それはこの世界の分岐点だった。


この世界を滅ぼそうとする邪悪な神々を相手に、この世界は一つになって戦った。全人類の心は一つになり、神々も当時は地上で全力を振るうことができた。全ての力を合わせ、邪悪な神々を打ち破ることができた。

しかしその結果神々の力も大きく削がれ、地上に居ることができなくなった。それどころか神々の中でも戦いに秀でた者は最前線で戦ったため消滅したものも少なくない。


そこからは思い出したくもない。衰退の一途をたどった。


 荒廃した世界で神にも頼れない人間たちは、国という者を築いた。異世界から召喚された勇者たちの世界にあったという、人間が人間を治める仕組み。国、街、村、貴族、平民といったそれまでこの世界には無かった概念が持ちこまれ、神の時代とは全く違い世界に凄まじい勢いで変わっていった。

 全ての種族が手を取り合っていた神代とは異なり、体の特徴で起こる差別、種族同士が別々の場所に住むことで神々の繋がりも途切れた。加えて邪悪な神々が創造した眷属である魔物の、人間を害する本能を持ったままこの世界に根付いてしまった。それにより人間たちの平均寿命も激減し文化や伝説を伝えることも減り、神の存在は一気に現実から空想のものへと移り、神は神託や加護といった形でした関われなくなってしまった。


 そうして世界は衰退し続け、もうすぐこの世界が滅亡すると気が付いたのが千年前だ。


 そして世界と人間たちの未来を憂いたフォティナは決断した。他の神々が持つ責務を、全て自分が背負うと。


 フォティナは最も自分を信仰する人間に神の加護を与え、偽りの真実を伝えた。もうこの世界には正当な大神は自分しかおらず、他の大神は邪悪な神の生き残りが名乗っている偽物なのだと。

 当時は世界中の国家が滅亡するような世界大戦の真っ只中であったため、人間たちをうまく誘導し他の大神を信仰する信徒たちを絶滅させる勢いで激減させることに成功した。


 神の力の源はその神をあがめる従属神や御使い、そして何より信者の数に影響される。

 他の大神が反応するよりも早く信者たちを減らし、自分の信者に改宗したものだけを生き残られる。多くの神々に向けられていた信仰、そして畏怖や恐れがフォティナに一極集中したのだ。


 それによりフォティナに流れ込む力は増大し、今となっては他の神々と没交渉ながらも協力していたこの世界の維持をフォティナ一柱で担えるようになった。

 なにかもが計画通り。何もかも自分の思う通りになり、人間たちは自分を崇め、世界の滅亡も遠いた。この先十万年も自分ならば世界を維持し、人間たちも健やかに繁栄していけるだろう。


 けれども、後悔がないわけではないのだ。


(千年前のあの時、他の神々を信じていれば……いえ、この世界が人間たちの、人間が人間を治めるこの異常な姿になり始めた時に行動を起こしていれば……)


 もっと早く思いついていたら、もっと早く行動していたら。そんな後悔が消えないのだ。同じように創世の神である神々を、兄にして弟、姉にして妹である兄弟たちを手にかけた感触はたった千年では消えてはくれない。

 ゆえに、彼女は贖罪のように世界を回すことだけに集中している。後悔していても、自分の選択を否定することは今の人間たちと、ずっと自分に尽くしてくれる従属神たちを否定することに等しいのだ。


 しかしある日、人間が御使いを呼ぶのに気が付き意識を向けると、そんな彼女が目を覚ますように衝撃が起こった。


 神は信者の見聞きしたものを見ることができる。本来は人間の行動が見守るための基本能力だが、この時は諜報能力として役だった。

 その信者が見た光景は、無数の強大な魔物が暴れまわる光景。炎が世界を燃やす光景だ。


「間違いない!あれは【魔王の装具】だ!!」


 ここ千年間静かに淡々と世界の運営にのみ口を開いていた彼女がだした大声に周囲にいた御使い達は驚くが、彼女にそれを気にしている余裕はなかった。

 【魔王の装具】。正確にはその素材になっている【魔王】が、十万年以上の時を生きる神の度肝を抜く一大事なのだ。


 【魔王】とは、現在では政治的な理由で認定される強大な存在にすぎない。世界征服をたくらむ人間の王や強力な魔物など、複数の国家が協力しなければ太刀打ちできない存在が現れた時、神話や伝説で語られる魔王の再来が現れた叫び【魔王】として認定する。

 時には集団を一致団結させるための架空のプロパガンダにさえ利用される、神からすれば人間がまず間違いなく対応できる軽い存在。その程度だ。

しかし十万年以上生きる神であるフォティナは知っている。【魔王】の恐ろしさを。


 何せ十万年前の魔王と五万年前の魔王。この二人は、人類の総人口を一万人以下という絶滅寸前にまで追い詰めたのだから。


 五万年前の魔王は闇に落ちた魔術師だった。同じ村で生まれた龍使いが率いた、五人の英雄たちがいなければ、世界は魔物が跳梁跋扈する魔境になっていた。

 十万年前の魔法は異世界から侵略にきた邪悪な神々の頂点に君臨していた怪物にして原初の魔王。地上で全力を振るった神々と異世界から召喚された勇者。そして覚醒したこの世界の人間たちがいてなお、総人口が三千人以下にまで減らされたのだ。


 思えば十万年前の怪物を、異世界から召喚された勇者の一人が「あれは世界の全体の脅威、すなわち魔王で、それに相対する俺たちは勇者だ」と命名したのだから、強大な邪悪を魔王と呼ぶのは間違っていないのかもしれないが……。


(間違えるものか!あれは十万年前の魔王を使っている!)


 そして、フォティナの目に映る神話級のマジックアイテムは十万年前の魔王の肉体を素材にしていた。

 魔王の強大な魔力に充てられ存在が変質したもの、魔王の肉体を素材にしたもの。どちらの魔王の装具と呼ばれるが、より危険なのは魔王の肉体を差材にしたものだ。


 なにせ、本質的に神である魔王は肉体に縛られず、自分を素材にした道具から復活する可能性もあるのだから。


「あんなものを使うなど、この世界全てに対する裏切りに他ならない。今すぐ所有者全員を探しださなければ」


 世界はすでに恒久的な平和に向かっている。何物であるにせよ、私が築いたこの完成した世界を揺るがすものは、あってはならない。


次回はキャラ紹介で3章終了です。忙しくなりそうなので、しばし休載してリアルに余裕ができたら4章を開始します。


因みにたぶん使わないであろう裏設定も載せるますが、気が変わって使う可能もあるので、一部はネタバレになるかもしれません。

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