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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
3章 森へと続く道
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閑話 遠い地で語られる、近くの話

 アレットたちがエルフの里で激戦を繰り広げていた時、遠く離れた場所、多くの国家を武力で制圧し飲み込み続け拡大した国、アマティス帝国。その首都にある豪華絢爛な城の一角にて、国家の重鎮たちが集まっていた。


「遅いぞ、『災凱』」

「申し訳ありませんね。これでも最前線からすっ飛んできたんですが」


 最後に入室してきたのはアマティス帝国の秘密部隊『武極八人衆』の一人、『災鎧』のグラツィオだ。建国以来戦争をしている隣国であるオーレア連合国との最前線から緊急事態と連絡がありすっ飛んできた次第だ。


「これで全員そろったようだな」


 声を上げたのは眉目秀麗な青年だった。

 若く細い顔つきだが、その眼は鋭きカリスマ性を漂わせている。部屋を占領している細長い机の端に座り、静かに見つめていた彼の言葉に誰もが耳を傾けしまう。

 ダーレンス・アマティス、アマティス帝国皇帝にして三百年以上生きるエルフだ。


 アレットが知れば思わず驚いてしまうだろうが、この世界で最も多くのものが定義している『人間』とは人種、エルフ、ドワーフであるため、人間の国にはエルフが王や皇帝になることもある。

 勿論人種至上主義者や寿命の長いエルフが帝位に就くことに反対する者も存在するが、全てをその実力で黙らせた、建国から帝国を支える豪傑だ。


 そんな彼が国中の重鎮を集めたのは、それ相応の事態が発生したからだ。


「耳の早いものはすでに知っているだろうが、我が帝国の従属国の一つ、豊穀の国ジェラムが滅亡した」


 豊穀の国ジュラムは帝国の属国の中でも農業に強く力を入れている国であり、ジュラムの混乱は帝国にも影響を与え、ひいては他の従属国の食料問題にも発展しかねない。しかしこの部屋に集まっている者たちは政治力に秀でているためすでに既知の情報だ。


「さらに言えば、ジュラムの国土の六割以上が人の不毛の地に変わり、国家機能が完全に麻痺……いや、崩壊している。加えてそれを引き起こして怪物を排除するために『武極八部衆』のうち『鮮血』のアルア、『怨嗟』のダージス、『赤き雷』のシドニエルの三名が死亡した」


 しかし、続けた放たれた言葉に衝撃が走った。


「『武極八部衆』が三名も!?彼らは一人一人が最低でもA級冒険者にも匹敵するはずでは!?」

「しかもシド二エル殿は第二席に猛者のはず。S級冒険者に匹敵する彼まで死亡したとなると、邪悪な神が復活したのですか!?それとも古の巨人か最高位の天魔か、まさかオーレア連合国のやつらが同じく秘密部隊を派遣してきたのですか!?」


 豊穀の国ジェラムの国家機能の崩壊。それは帝国と従属国の食料の七割を担っていた農場の消滅に等しい。一年ならば貯蓄は持つが、食料全ての値上がりに餓死者の大量発生は避けられないだろう。

 加えて『武極八部衆』の死亡。武術を極めたと謳われる彼らの死は一名であっても大きすぎる損害だ。常に半数は国家の防衛に残しているので、三名の死亡は国家中枢の防衛機能が激減したことを意味する。

 最上位の緊急事態と言われ呼び出された彼らが声を荒げて動揺するのも当然だ。事前に把握していた者は数名だけだ。


「ここからが本題だ」

 ダーレンスが落ち着いた声でそういうと、一同は口を閉じて彼に注目する。

「ところで諸君らは学園島の伝説を知っているか?」

 しかし、続く言葉に困惑する。

「は、はあ。学園島というと、この大陸の西に位置する、島全体が学園となっている島のことでしょうか。千年前に建設された、あらゆる種族や身分の一切を違いはなく、あらゆる国家の干渉も受けない独立した研究機関だとか」

「その学園島の伝説というと、学園長は魔人族だとか、世界を滅ぼせる神話級のマジックアイテムが保管されているとか、学園を建設した者たちは伝説のルプス号の生き残りだとか、そのあたりでしょうか」


「うむ。では、そのルプス号が実在することを、みなは知っているか?」

 困惑した顔が凍り付く。驚愕の表情を浮かべることも出来ず、耳を疑い必死に言葉を理解しようと頭を働かせるが、停止した頭は錆びついた歯車のように固まっている。


「一月前、ジュラムの港町に一人の少年が現れた。名はルーフレッド。種族は人種で歳は十歳。町民が砂浜で見慣れぬ金属の箱を見つけその中で眠っていたらしい。

 感情の乏しいが言語は習得しており、読み書きも出来たことから発見した商人が保護、その後自分はルプス号という船にいたが、船が滅びたものの親が命がけで逃がしてくれたと証言したらしい。しかし都市伝説に等しいルプス号から来たことを嘘だと嗤ったものに街中で絡まれ、黒い渦で殺害したらしい。衛兵が逮捕しにかかるが全滅。追ってこの少年を逮捕しに騎士が向かうが同じく全滅。

 これに興味を持った余は早期解決のために『武極八部衆』の自由に動かせる者の内一人を帝都防衛に残し三名を派遣した。第一に殺害、可能であればスカウトせよとな。結果は三名とも全滅。生き残ったのは『武極八部衆』の諜報機関である『門下』の戦闘に加われないように厳命したものだけだ。

 最悪周辺被害がどれだけででも『武極八部衆』は全員生き残り、対象は無事討伐できるはずだったのだがな。目算がここまで狂うとは……余も老いたか」


「陛下、そのような冗談を言っている場合ではありませんぞ」

「それより陛下、そのルーフレッドという者はすでに討伐がしたということでよろしいのですかな。それとその戦闘方法は」

 エルフらしく皺ひとつない顔を撫でているダーレンスに反して、部屋に集まった者たちは深刻な顔をしている。


 動揺し悲鳴を上げている者以外にも部屋にはいる。帝国軍が抑えている空間属性魔術の【転移】で帰還した『門下』本人。『武極八部衆』のまとめ役であり九人目の『師範』のローレオン、それ以外にも帝国軍の頂点に立つラザコッド騎士団長、魔術師と錬金術師を纏めるディクトア宮廷魔術師長。全員ダーレンスが信を置く腹心ばかりだ。


「詳しくはその『門下』に余も聞いたばかりだ。発言を許す。もう一度報告せよ」

「御意。私は遠目から【遠見】や【収音】で調査しておりましたが……最初にスカウトに『門下』が声をかけたところ、聞く耳を持たず拒絶。『門下』を殺害されたため『武極八部衆』の方々が殺害しにかかりましたが、最初の攻撃は障壁に阻まれました。その後少年が本を取り出しました。おそらくその本から魔物を召喚し激戦となり、最後にシド二エル様がとどめを刺しましたが、その瞬間魔物が毒や瘴気を放ちながら爆発しました」

「おそらくとは?一番重要な個所だと思うが」

「……申し訳ありません。私の能力不足です。少年がマジックポーチから取り出した本を開き「【司書の契約】」と唱えたところまでは聞こえましたが、その瞬間轟音と共に竜や巨人が現れ暴れ始めたため、轟音で音が拾えなくなりました。加えて少年は鳥の魔物に乗り高速移動し始めたため私では目で追えませんでした」


 肝心な個所が分からなかったが、誰も『門下』を責めるものは居ない。竜や巨人との命がけの戦い正確に見届けることなど誰にも不可能だからだ。


「しかし陛下、聞いた限りその少年はすでに討伐したようですが、それならばこの緊急招集は事後連絡ということでよろしいでしょうか」


 ディクトア宮廷魔術師長の問いかけには願望が含まれていた。それほどまでに規格外の話だったからだ。

「いや、ルプス号の生き残りとやらはその少年一人ではない。少なくとももう一人、オーレア連合国の従属国である鉄の国ヒュペルでも同様のことが起こっている。あちらは五歳の少女現れ、討伐には成功したものの国全体が焼け野原になったらしい」

 あまりの常識外れの出来事に多くのものが息を飲む。まるで魔物などの現実の脅威とは別種のもの、おとぎ話の怪物が突然出現したかのようだ。


「陛下!至急『武極八部衆』の補充と、冒険者ギルドとも連携して他の生き残りとやらにも備えなければ」


「危機感を共有できたようだな」

 ダーレンスがそういうとラザコッドたちははっとしたように口を閉じる。

「だがまだ足りない。彼らは一人一人が国を亡ぼす力を持ち、なおかつ国を亡ぼすことにためらいがない。加えて何人いるかも分からないのだ」


 今までにない危機的な状況に、腹心たちはざわめく余裕すらない。

「しかし陛下、そもそもの話、なぜそんな怪物が突然現れたのでしょうか。そのルプス号とやら実在し、何らかの理由で滅亡し子供たちだけは生き残った……ということは分かるのですが、その年でありえないほどの能力を持っている理由がわかりませぬ」

 ラザコッド騎士団長が沈黙を破りそういうと、ダーレンスはその疑問も当然だと頷いた。


「ディクトア、分かるか?」

「お恥ずかしい話ですが、推測しかできません」

 ディクトアは口を閉じるが、ダーレンスに視線を向けられ再び口を開く。


「有りえないほど天才的で才能に溢れ、年若くそれを開花させている……現在ではありえないことでも、神話の時代なら驚くことではありません。ルプス号は伝説通り……いえ、神話通り、神話の時代から続いていたのでしょう

 具体的には神話の時代のように、吸い込む空気から飲み水、住居に至るまで神の加護がかけられていたのでしょう」


 突然でた神の話に、腹心たちはそんな馬鹿なとざわめく。しかし意見を聞いたダーレンスは驚くこともなく頷く。


 神話の時代は現在と違い神が地上にいた。地上は神の祝福に満ち溢れ、この世の全てに神の加護がかけられ人間たちの性能も今とはけた違いだった。

 ただの足が速いもの、狩りがうまいもの、漁がうまいもの。そんなどこにでもいるありふれた者たちでも、現在のA級冒険者に匹敵する力を持っていた。


 そんな時代と地続きの船で生まれた者たちは、当然のように能力は神代と同じだ。

 神の祝福を生まれた聖域とも呼ばれる場所で生まれ育った人間。彼らは現代とはけた違いの性能を持っている。


「そんな彼らを味方に引き込めれば役に立つが、同時に危険すぎる。

 いち早く残りの生き残りたちを人数と現在の動向を調査せよ。基本的には見張りを付けるにとどめるが、可能であれば即座に処分せよ」


 腹心たちの了解の声と共に、秘密の会議の終了を告げた。


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