↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
3章 森へと続く道
53/62

50話 森を抜けて、街の最後に

 エニアの森の奥地にあるエルフの里で激戦の後、アレットたちは一目散にトルシスに帰還した。理由は当然ヘレナに会うためだ。手紙を届けてこいという依頼を果たせなかったことと、ちょうどエルフの里が襲撃されていたこと、特に後者は偶然のはずがない。


「ヘレナさんがいなくなった!?」


 しかし急いで戻ってみたが、本人が失踪していた。

「あの人って、ここ五百年くらいこの街から出てないって聞いていたんですけど、本当にいなくなったんですか?」

「ええ。先日に書置きを残していなくなってしまいました。こんなことは初めてで、私たちも困惑しているところです」


 ヘレナはこの世界最強とも言われる実力と、世界中に支部を持つ冒険者ギルドの設立者としても絶大な権力を有している。そんな彼女がどの国家にも属さず悠々自適な性格を送れているのは、彼女はトルシスから出ないからだ。どの国にも肩入れせずに、また協力することもない。国家勢力を塗り替える個人も、永遠に動かないなら存在しないのと同じだ。しかしそんな彼女が突如失踪したならば、世界中を揺るがす一大事だろう。

 冒険者ギルドの受付のお兄さんも、何度も聞かれたことなのか疲労が見える顔だ。


「っと、失礼。あなた方はアレットさんですね。ギルド長の部屋にお通しするように伺っております」





「おう。よく来たな。俺はヤークムってんだ。この冒険者ギルド支部の支部長をしているもんだ」


 冒険者ギルドトルシス支部の最上階にある支部長室に通されると、熊の様な大柄な男が上品な椅子に座っていた。部屋を見渡すと額縁に入った絵や謎の彫刻など芸術品が並んでいたが、嫌みな印象は受けなかった。率直に言えば純粋な金を持った芸術品好きが作った秘密基地といった感じだ。

 典型的な成功した冒険者の隠居後に見えるが、目の前に居るのは冒険者ギルドの支部長だ。油断は危険だろう。


「俺が呼ばれたのは、ヘレナさんから受けた依頼の説明でしょうか」

「もちろんそれもある。お前たちが受けた依頼はヘレナ様からの指名依頼だが、この支部を通しているからな。とはいえ、本題はこっちだな」


 そういって差し出してきたのは緑色の線が入った白紙の紙切れだった。


「こちらは?」

「ヘレナ様からの手紙だ。なんでもその緑の線はエルフの秘術だとかで、お前さんたちに渡した手紙と共鳴して文字が浮かび上がるらしいぞ」

「へえ。そんな術は初めて聞きました……お、本当に浮かび上がった」


 手紙の内容は至極完結だった。急に失踪することの謝罪。依頼は完了扱いにするという補填。これから世の中が少々騒がしくなるだろうが、頑張ってくれという激励。

 なぜいなくなるのかは、何も書いていなかったが。


「ところでお前さん。三人パーティーだと聞いたんだが後の二人はどうしたんだ?あと遺跡専門の冒険者もペナルティとして同行していたはずだが」

「あの二人なら「アレットくんに任せた。私たちは向いてないから」とか言って宿に帰ってますよ。パスファルさんも同じくです」

「お前さんその年で尻に敷かれすぎだろ……」

「適材適所だから気にしてませんよ」


 手紙の内容は本当に依頼を完遂扱いにするという以上の内容は無かった。文字が浮かび上がる術が仕込まれていたのでもしかしたらと探ってみたが、結局何も見つからなかった。

 本当にないぞ。わざわざ手紙を用意しておいて中身が薄い。なぜ用意した。


(ま、一応捨てずにとっておくか)


 幸いにもアレットは無限に入るマジックバックがあるため荷物運びには困らない。アレットは錬金術の知識は卓越しており、知らないものもアレットの故郷であるルプス号が十万年間蓄積し続けた知識にアクセスできる【知恵の書】で探すことができる。

 しかし、それでも知らないものは知らないのだ。技術とは奇跡的なひらめきによって生まれるものもあるため、ルプス号が入手できなかった知識は知らない。ヘレナの故郷はもうないと聞くし、その故郷で独自に開発した術ならばアレットにも解読できない。挑戦し甲斐のあるものだ。

 義理として手紙を書いただけで、何も秘密など無いと言われたら笑うしかないが。


「それで、依頼で何があったんだ?俺はヘレナ様から手紙で代理として依頼で何が有ったか聞いておけ、ついでに手紙を渡しておけって言われたんだが」

「それたぶん手紙が本題でしょうね。まあ依頼についてですが、手紙を受け取ってすぐに街を出て、エニアについて――」





「よし、聞かなかったことにさせてくれ」


 ヘレナの子孫が里長をしているエルフの里に到着したら、なぜの宗教団体に皆殺しにされていた。一通り説明し終えると、彼は真顔でそう言った。


「いや仕事なんですから、しっかり記録したほうがいいのでは?」

「俺は貴族でも主要国家の首都の支部長でもない、あくまで田舎街の支部長だからな。それ以下でもそれ以上でもない。……まあ、日数を誤魔化して、記録簿には無事手紙の配達は完了。注意書きに支部長が書いたとでも記録しておけばいい。俺はその宗教団体とやらの事も忘れるし、お前さんたちがどうやって撃退したのかも聞かない、この話はそれで終わりだ。お前さんたちへの報酬は色を付けておくから」

「はあ、そんなもんですか」

「不満か?」

「いえ、俺も仕事だから報告しただけなので」


 アレットがそういうと、ヤークムは満足そうに頷いた。





「いたいたアレット君。会えてよかったわ」

「パスファルさん?二人と宿に向かったはずですが」

「気が変わったのよ。私はここでお別れね」


 また急なと思ったが、パスファルは依頼のペナルティでヘレナからアレット達に同行するように命じられていただけだ。依頼が終わった今、別れるのは当然だろう。


「二人にはもう別れは告げたわ。消費した物資を買ったら、今日にでも行くわ」

「おお、せわしないですね」

「これでもロマンに生きているからね。時間は有限だもの」

「なるほど……。ところで体は大丈夫ですか?」

「体?……ああ、馴染みすぎて忘れていたわ」


 パスファルはそういって腕を捲ると、腕が半透明に透けていた。

 アレットが瀕死のパスファルを助ける際に精霊を組み込んだ影響だ。


「もともとあなたに同行する前には以前のように体が動いたのだけれど、今はもう死にかける前より調子がいいわね。世の中にはあえて呪いの武器を使っている人も居るそうだけど、今の私もそれに近いのかしらね」

「なるほど、調子がいいなら何よりです。またどこかで会いましょう」

「ええ、またね」





「お帰りー」

「……お疲れ様」

「せめてこっちを向け」


 冒険者ギルドでの用事を済ませ宿に戻ったアレットに、二人のお尻が出迎えた。

 正確にはベッドで寝そべりながらお菓子を食べていた。ねぎらいの言葉をかける視線くらいは向けてほしい。


「そうだアレット君。今後ってどうするの?私は冒険者としてお金を稼げるからもうこの街に永住してもいいと思うんだけど」

「……私は他の街がいいかな。この街はいい街だったけど、エニアも良かったし、もっといい場所もあるかもしれない」

「んーそうだな。当初の予定通りに北にあるペリオルに行くか、それとも南西にある商業国家に行くか、大陸中央にある秘境森暗獣魔もいいか。あ、平和な場所なら北西にある共和国もいいって聞くな」


 アレットが上げた名前は、全てアレットの知らない知識がある場所だ。

 アレットの夢は故郷の再建であり今でも変わっていないが【知識を集める】というルプス号に生まれた者の使命も捨ててはいない。

 知識を集めながら、他にも生きているかもしれない同郷のものを探し、その道中に夢をかなえる方法を探そう。


「まだまだ人生に妥協できないからな、知らないことを知る旅にいくか」


これで3章は終わりです。読んでくださった方、本当にありがとうございます。

次は閑話を一つか二つとキャラクター紹介を挟んで4章です。4章は青年期編で時間が飛びます。それとリアルが忙しくなるので4章開始は少し時間が空きます。申し訳ございません。

詳しくは活動報告をそのうち更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。