49話 【王国】
再び文量が過去最長を更新しました。読みやすい量があればアドバイスをお願い致します。
あとがきに謝罪と報告があります。
スキルとは、当人の努力と素質の結果である。剣術や槍術をはじめとする身体をいかに生かすかを追求する技術や、魔術や錬金術を始めてする魔力を使用する技術。その種類は多岐に及ぶが、中には違う技術でもステータスには同じように表記されるものがある。
剣術を例にすると、大男が力を生かして身の丈ほどの大剣を使う剣術も、小柄な女性が速さを生かして針のように細い細剣を使う剣術も、同じ【剣術】として表記される。
しかしこの世界の住人たちがそのせいで自身の所有技能を忘れないのは、自分で身に着けた力だからである。
剣士は【剣士】というジョブに就いたから剣術が使えるのではなく、剣術を身に着けたから剣士になれる。
魔術師は【魔術師】というジョブに就いたから魔術が使えるのではなく、魔術が使えるから魔術師になれる。
ゆえに自分のスキルの効果が分からないということは無いのだが、その例外に位置するのがユニークスキルだ。
ユニークスキルはある日突然発現する。特殊なジョブに就いたとき、その者の全てが一変したとき、もしくは神の加護を受け取った時などだ。
ゴブリンに故郷を滅ぼされ人格が歪むほどの怒りを覚え【ゴブリン殺し】を覚えた。名称と経緯からその効果はゴブリン種に対して威力増加と判断できる。【死従】という特殊なジョブに就いたことで【死者転生】というユニークスキルを手に入れた。こちらはある程度検証が必要だが効果は判明した。
光の神に加護を受け取ったことで【邪悪滅殺】というユニークスキルを手に入れた者もいるが、こちらの効果は文字だけで分かるだろう。
しかし効果が分かりづらいものもある。
【疾風怒濤】【震天動地】【虚空の瞳】【寄生神聖】【星の産声】。仲には一生をかけても効果が分からない、もしくは誤解しやすいものもあった。
アレットのユニークスキル【虚実夢幻】もそんな効果が誤解しやすいものの一つだ。
アレットは想像したものを現実に反映できたことからこのユニークスキルの効果は、効率は悪いが魔力を消費して想像できるもの全てを具現化できる能力、すなわち【考えたことが現実に確定する】能力だと認識していた。これは真実であり、この世界の物理・魔術法則さえ無視できる非常に強力な力だ。
しかしそれは効果の一つであり、まだ足りない。
ステータスには常時発動しているパッシブスキル、能動的に発動するアクティブスキル、例外のユニークスキルに分けられている。
それはユニークスキルがパッシブとアクティブのどちらでもないことを示すが、極稀にパッシブとアクティブの両方の効果を持つこともある。
アレットの【虚実夢幻】もこの極稀に該当する。
今までアレットが認識していた【考えたことが現実に確定する】能力はアクティブスキルとしての効果で あり、もう一つのパッシブスキルとしての効果こそアレットが極限状態で把握した力。
それは無意識領域。本人が思考する以前の、無意識のうちに心の底から思ったことまで現実に確定するのだ。
すなわち、絶対に勝てないと思えば赤子の一撃でも自身の神鉄の骨が砕かれ、自分はゴブリンにも勝てない負け犬だと思ってしまえば本当にそこまで弱体化する。だが逆に勝てるはずのない相手にも自分は勝てる、勝つという意思さえあれば人と神ほどの実力差さえ覆す力。
それこそが【虚実夢幻】の真骨頂だ。
思いもよらない事態の連続に再び両者が膠着したが、先に動き出したのはアレットだった。
もとよりアレットは冷静に物事を受け止め次の行動に移れる人物だ。実は初めての人間との殺し合いに普段の調子を保てなかったが、全く理解できない事態は逆にアレットの頭を冷静にした。
「【湿潤】【震脚】」
さっそく反撃に移る……というよりは、思いついたことを早く実験したいというような心情で、アレットは初歩の水属性魔術と格闘術を発動した。湿潤は周囲を水浸しにする直接はあまり役に立たない魔術だが、アレットは水辺でこそ最も強いため頻繁に使用する。
そして震脚で地面を強く揺らすように踏みつける。
「なっ!これは!?」
本来は地面に張られた水面が波立程度だが、アレットがこれで揺れるはずだという確信をもって行われた踏みつけは、地震のごとき大地の揺れとなって現れる。
「装填」
地面の揺れにより身動きが取れなくなったローレイアは判断に迷ってしまった。突如謎の力を使い始めた敵から距離をとるべきか、それとも一度は追い込んだのだから追撃を仕掛けるべきかと。
それは一秒にも満たない刹那だが、思考するだけで動作が完了するアレットには十分な時間だ。
「バースト」
アレットにとって両腕に双弓を付けた自分は何より創造しやすいものだ。コンマ一秒でマジックポーチから双弓を取り出し、思考した瞬間に装着。機銃掃射のような勢いで矢を連射する。
轟音が鳴り響く。地球の知識を持つものならばガトリングが撃ち込まれたと思うような圧倒的な速度と物量。そんなイメージによって底上げされた矢は確かにローレイア命中し――ていない。
「うわすご」
いまだに地面が揺れている中、ローレイアは地面を滑空するように横に走っていた。御使いを下ろしたローレイアの能力値は最低でも一万を超える。しかも力任せではなく水上を跳ねるように飛び跳ねながら移動し――一気に距離を詰めてきた。
「見切った!【光神純化】【大空斬】!」
ローレイアが放った斬撃を飛ばす武技はアレットに迫る。空気を切り裂き音を置き去りにする。
御使いを経由して流れ込む光神の力を凝縮した光の斬撃は神鉄さえ切り裂き、アレットの体を頭頂から股に走り左右に両断する。
「確かに見切られましたね。さすがにこれなら躱せないと思ったのですが。では次です」
そして真っ二つに両断され分かれた体をあっさりくっつけ、今度は通常の弓を構え、矢を一本だけ番える。
そして手を離したと同時に、矢がローレイアの足を貫通する。
「ば、馬鹿な!ぐっ――」
肉体を焼き尽くしても死ななかったため、動きを止めるために肉体を左右に一刀両断してみせたが、一秒たりとも止まらずに反撃してくる。
自分よりも剣の腕が立つ敵や、剣が通らないほど硬い敵、素早くて剣が当たらない敵。様々な敵を目にしてきた。ローレイアはその都度作戦を考えるか限界を超えて生き残ってきた。
しかし簡単に剣が当たり切ることができダメージを与えられるが、すぐに治る敵は遭遇したことがない。
「うん。これなら行けそうですね」
動揺しているローレイアを無視してアレットは矢を当てていく。
正確に言えば、矢が放たれると同時に矢が刺さっている。
やっていることは単純。先ほどの無数の矢を連射した分の集中力を一本に凝縮しているのだ。
見た目こそただの個人で使える小さな矢だが、その実態は巨大なボウガンに近い。無数の矢の力を一本に集結した矢は物理法則を無視しして光のような速さでローレイアを貫いていく。
「ぐぅっ……邪魔!」
ローレイアは急所以外をあえて犠牲にすることで耐え抜いた。そして時間にして十秒に満たない防戦一方の状態から攻撃に転じた。
その攻撃の行動はアレットも驚いた。なんと、一本ずつ当たる程度では関係ないとばかりに矢を無視して突っ込んできたのだ。
「【流水】【突貫】」
「何を無駄なこ……とぉ!?」
流れる水の様な動きで剣を突き出すように構え突っ込んできた。アレットはそれがどうしたと矢を放つが、なんと光のごとき速さの矢を正面から切り落とされた。
「やはり、どういう仕組みかはわかりませんが、ただ早いだけですね」
光属性魔術を組み合わせた攻撃ばかりしてきたローレイアだが、今度は純粋な武術な技量で切りかかってきた。
激増している能力値と卓越した剣術と戦闘経験から、ローレイアはなんとアレットの指を動きで発射のタイミングを見極めたのだ。
「とった!!!」
そして、アレットの頭部を正確に粉砕した。
「ええ。とられました。ですが死ぬのはあなたです」
しかし、おなじように再生しローレイアに抱きしめるように拘束する。
続いて自分の体に干渉に骨を異形にする。自分の肉を貫きローレイアに突き刺さ――
「同じ手は!食らいません!!【気円斬】!!!」
ローレイアはその場で一回転するように剣を振るう。剣を魔力で刃のように覆い巨大化させ、円状に斬撃が走る。
「……同じというか、二回目で分かるものですか」
頭部を破壊されたアレットの、さらに後ろからアレットの声がする。
弓を装着した自分を想像しただけで弓を一瞬で装着できるアレットならば、同じ理屈で自分そっくりの分身を作ることも可能だ。
「二回目というより、先ほどは泣き叫んでいましたからね。全く痛がらないのはおかしいです」
ローレイアは会話をしながらも全く隙を見せず、アレットに剣を向ける。隙を見せれば即座に切られるだろう。
(まいったな……これは俺の力不足。というより、勝てるはずがないというマイナスのイメージが足を引っ張っているのか)
アレットのユニークスキルは無意識の考えと意識的な考えに影響を受ける。
アレットが絶対に勝てると思えば勝てるが、先ほどボコボコにされたことで、彼女のほうが強いという前提が組み込まれてしまい、無意識に勝てないと考えてしまう。
意識的な考えも同じだ。武術にマジックアイテムに戦闘経験。計算して負ける可能性のほうがはるかに高いから勝てないと冷静に考えてもしまう。
しかし負けるわけにはいかないならばどうするか。
(簡単だ。マイナスなイメージを作ってしまう考えを……思考を消す)
今度はアレットが攻撃に出た。
――意識を分離。及び肉体の本能を強化。理性を減衰。
アレットは平行思考を起動。一つの思考を複数に分けて、意識を霊体に集中することで肉体から意識を剥奪する。意識が消えたことで肉体の本能を強化させ、マイナスのイメージを無くす。
「うぉぉぉおおおおおお!!!!!」
アレットから理性が消え、目は赤く血走り、口から獣の様な怒号が飛び出す。
床が爆発したかのように砕け散りアレットが突撃する。最短最速。格闘術の見る影もない力任せの一撃だ。
対するローレイアは愚直に突っ込んできたことに驚きつつも、冷静に剣の切っ先を向ける。アレットの拳に剣を合わせて切り裂こうとし――ローレイアの剣はアレットの拳に傷一つつけられず、逆に砕かれた。
「なっ!?がっ……!」
アレットの勢いは止まらず剣を折っただけにとどまらず鎧を打ち砕く。
剣の達人であるローレイアからすればあまりに分かりやすい起動、遅い踏み込み、雑な拳、だというのにその威力はローレイアの専用武装である剣と鎧を砕くほどだ。
考えたことが現実に確定する【虚実夢幻】はアレットには向き不向きのどちらともいえる力だ。アクティブスキルとしての効果は最小の魔力で最良の結果を生み出すためにうまく使えるという点はアレットの性格と一致しているが、パッシブスキルとしての効果は「俺は正義で相手は悪だから俺は絶対勝てる!」「異世界転生したからこの世界は俺の思うがままだぜうぇーい!」くらい単純な思考のほうがその性能を発揮できる。
そんな不向きであるという欠点を、アレットは鮫の獣人としての本能をむき出しにすることで解決した。
――殺す。勝つ。倒す。
普段は無意識のうちに考えてしまう冷静な戦力分析の一切を放棄。負けるなど考えない。勝てないかもなど頭にない。頭にあるのは闘争心のみ。
「調子に……乗るなぁ!!」
しかし、ローレイアとはただでは負けない。
打ち合いでは負けるとみるや柄だけとなった剣の刃を魔力で補間。持ち前の素早さでアレットの背後を常にとる。金属の鎧を砕くアレットの拳は当たればローレイアを殺せるが当たらず、ローレイアの剣はアレットに当たるが今の本能がむき出しとなったアレットは浅く切られようとも痛みに動きが鈍ることは無い。
ローレイアは鎧を砕かれた時にその勢いで胴体の骨と肉も砕かれたが、この世界の人間はそう簡単には死なない。見た目は地球の人間と同じ体格でも隔絶した腕力や体力を持つこの世界の人間は、生命力においても同じだ。地球人なら一瞬で死ぬような出血量や損傷、つまりステータスに表示される生命力が激減し続けるほどの負傷をしても、常人の数百倍の生命力を持つこの世界の精強な人間は耐え抜ける。
(これ以上意思の力で強化できないなら、肉体そのものを強化する)
並列思考で自分の意識を組み替え、頭の中に極端に冷静な自分と極端に熱い自分を生み出し、肉体の制御を熱い自分に任せた今。アレットは冷静な思考もし続けている。
――肉体を損傷しても元の肉体で上書きできるならば、元の肉体である必要はない。
そう思い至ったアレットは自分の肉体を作り替える。アレットは知識の中から戦闘に適した生き物を探し出す。竜、天魔、巨人といった種として人間よりも強力な存在だ。
「まだ隠し手があるのですか……っ!」
ローレイアと打ち合いながらアレットの体は急速に変化する。背中からは爬虫類や鳥獣を連想させる複数の異形の翼。肉はボコボコと巨大化と縮小、その過程で闇色の光や透明な物体に変化する。
「御使いよ!我にご加護を!」
ローレイアは叫びと共に剣戟の勢いを増す。叫びに魔術的な意味など無いが、信仰に生きてきた彼女にとってあらゆる強化魔術よりも意味のあるものだ。
――ああ、そういえば、竜や天魔に巨人よりも、それを倒してきた人間のほうが強いな。
ローレイアはもはや剣の残像すら霞む勢いでアレットを切り刻んでいく。それを見たアレットは自分の考えをアップデートする。
肉体の変化を中止し、再び人間体を形成するが、それは元の体ではない。
――戦闘形態創造
アレットの肉体の表面に黒い線が纏わりつくように走っていく。その正体は骨だ。強化外骨格という言葉の言葉通りの具現化。【神鉄骨格】であるアレットの骨は神の鉄オリハルコンと同等の強度を持つ。それを竜の鱗のように張り付いていく。
変化は止まらず黒い線は全身に及ぶ。その姿は全身を黒い鉱物で覆った人型のナニカであり、アレットが鏡を見れば仮面のライダーみたいな姿というだろう。
「やはり化け物でしたか!まさかあなたは、この里に巣くっていた邪神の真の依り代と視えます!」
そしてローレイアからすれば、その姿は邪悪そのものだ。初見では子供の姿。しかし全身の肉が焼け落ちても死なず、突然異形になり、突然全身が謎の黒に包まれる。
ただでさえこの里には邪神を崇拝するエルフの討伐に派遣されたローレイアは、目の前の生き物の正体は邪神や悪神に縁がある何かと当然のように誤解した。
しかしそのさらに再燃した情熱とは裏腹にローレイアは追い詰められていく。
アレットの神鉄で再構築されたスーツの様な全身鎧は神話級の硬度を誇る。ローレイアが剣の達人と言ってもあくまで現代の基準であり、神々が生きた神代でも最上位の硬度に匹敵するアレットの鎧を着ることは至難のことだ。
――現状のままでも勝利は可能。しかし他三人の元へ向かわなければいけない以上。討伐速度を上げるためにさらなる戦力の強化が必要である。
しかし追い打ちをかけるように、アレットの感情を排除し機械じみてきた冷静な思考はさらなる強化方法を見い出す。
――現実の確定を自己強化に集中。成功。ならば自己の範囲を拡大することで最短の強化方法。意思を周囲の空間……否、世界に浸食を開始。周囲の物質に【知恵の書】で魔力を染み込ませ、魔術へと置き換える。【王国】で魔術を魔力に変換し吸収。成功。自己の存在を極大へ。成功。
一つの答えが他の答えにも連鎖的につながるように、アレットは一つの極致へたどり着く。
【王国】の名を冠するマジックアイテム。それは腕輪の形をしている。その能力は自分を中心とした一定転移の魔力の支配だ。自分の魔力制御の向上を基本として、周囲からの魔力も吸収できる。同様に範囲内の魔力を伴い現象にも干渉し無効化か減衰、持ち主の技量次第では制御を奪う事すら可能な神話級と区分されるマジックアイテムだ。
今の全てを情報で管理しているアレットにはもしも壊れたらなどという思考は無い。必ず成功するという確信があり、それは現実となる。
アレットは【知恵の書】で周囲に魔力を染み込ませて地形の観測を行ったが、その応用で周囲の地形に無理やり魔力を伴わせ、周囲の地形を魔力に変換し吸収する。吸収の魔力変換効率は悪いが、草木や地面に空気、それこそ空間すら魔力へと変換し吸収してくことで魔力が際限なく高まっていき、アレットの新たに開発した切り札を発動する。
――【無敵モード】発動
その瞬間、周囲の空間すらも圧し潰すナニカが顕現した。
「いたぞ!あそこだ!」
里から撤退の準備をしていた騎士団の本隊だが、突如鳴り響いた轟音に慌てていた。しかもそこはローレイアが向かった方向であり嫌な予感が止まらなくなっていた。
指揮官であるローレイアを補佐する立場の一人であるエイベンは大急ぎで戦力を招集し、轟音の方向に向かって行った。途中で謎の雨が降り出したり神々しい光が荒れ狂ったりしてなかなか近づけなかったが、ようやく人影が見えてきた。
そしてたどり着いた場所は壊滅の一言だった。周囲が水浸しなのはまだ理解できるが、周囲の地形は抉れて、空間属性魔術で塗りつぶされたような黒いもやまで見える。
「あっ、あれは、ローレイア殿!?なんというお姿に!!」
熱血漢であるエイモンドの視線の先には気を失ったローレイアが死に体で転がっていた。四肢と胴体には穴が開き、周囲の赤く染める血の量を見るに死んでいてもおかしくない。
「おのれ怪しい奴め!貴様何をした!?」
そう叫び大剣を振り下ろす。剣先は当然ローレイアのそばに立っている。怪しい奴、つまりアレットだ。刀身だけで二メートルはある巨大な剣はうなり声の様な金切り音を立てて迫る。
しかし、アレットは慌てもせず一瞥するだけだ。
「ぬっ!」
その結果は端的に表れた。威圧感とでもいうべき巨大な圧力がエイモンドに襲い掛かり、アレットに当たる前に止めてしまう。止められたのではなく止めてしまったのだ。
(重い!なんだこれは!)
重いというのが適切な表現だろう。聖国フォーリウムの騎士として長年戦場を駆け抜けたエイモンドの人生の中で、最も重い空気を感じていた。自分の腰よりも低い黒いナニカから、まるで真の神が目の前に居るかの様な強すぎる存在感に圧倒されていた。
そしてアレットは無造作に腕を払うと、手の甲が鎧に直撃する。聖国フォーリウムの聖騎士に支給されるよりは抵抗もなく破られ内側の肉体を粉砕し、その命を虫を払う様に潰した。
「――、――――!!??お前ら!火炎狼を解放しろ!」
聖国フォーリウムから派遣された部隊の幹部が一瞬で絶命した光景に全員が硬直するが、いち早く我に返ったエイベンは運搬員たちに指示を出す。
「しっ、しかし、本国よりいざという時以外は使うなと……」
「今以上のいざという時があるか!いいから早くしろ!俺たちはローレイアを救出するぞ!」
エイベンの声に隊員たちは我に返る。いや、職務で空白となった頭を塗りつぶす。
まだ助かる命があるかもしれないと。
「うおおおおお!!!エイモンドの仇だ!!!!」
前日にエイモンドと語り合っていた隊員が怒りで闘志を奮い立たせる。槍術【螺旋突き】。槍を回転させ貫通力を増した槍の穂先がアレットの胸を突く。この一撃に全てをかけた全力の一撃は確かに命中し――
「はっ?」
穂先はばきんと音を立てて砕け散りただの棒になった槍をみて目を丸くする。アレットは構わず腕を突き出すと抵抗なく貫通し心臓を砕く。
「いい腕でしたね」
その隊員の腕は非常に高く、アレットは避けらなかった。それほどまでに槍の一撃は鋭く速かった。しかしいかに腕がよかろうと、持っているのは支給された鉄の槍だ。一本一本職人が手作りしたものだが、ただでさえ神の鉄オリハルコンに匹敵する【神鉄骨格】を纏い【無敵】という概念で強化した今のアレットの鎧に傷つけられるものなどこの世にいない。
アレットはこの場にいない三人に意識を向け、あちらも勝利で終わりそうだと判断し、急に襲ってきた者たちを始末にかかる。
「えいや」
アレットは気の抜けるような軽い声と共に地面を踏みつける。その衝撃は地面を揺らし地割れを起こし、隊員が決死の行動で放り投げたローレイアを飲み込む。
「させるかぁ!!!」
しかしその途中でエイベンが助け出す。飛行――否、滑空しているのだろうか。
アレットは焦りもせず、視線を向ける。
――氷結世界を創造
考えたことが現実に確定する力は無制限に流れ込む魔力と【無敵】という概念で強化され、通常時のアレットが起こすよりもはるかに強力な結果を起こす。
大地が凍り付く。里を丸ごと氷漬けにする。アレットを起点に氷は広がっていき誰も逃げだれず隊員を氷漬けにする。全力で逃亡するエイベンと抱えられるローレイアも飲み込む勢いだ。
「うん?」
しかし二人を飲み込むことは無かった。アレットの視界が黒く染まる。首を傾げ――首筋に衝撃。嚙まれた。
そこにいたのは狼だ。地獄の炎の様などす黒い炎を纏った狼はアレットの首に噛みつき持ちあげてる。かみちぎろうとしているのだろうか。
「……ああ、闇属性魔術で出来た使い魔ですか」
闇属性魔術は精神や影といった物理法則を無視する魔術が多い。この狼も影で出来ているため物理的なアレットの鎧もすり抜けたのだろうか。
「まあいいか。光よあれ」
そう呟くと太陽のごとき光が迸り、狼が消滅する。魔術であれこの世界に有る以上はある程度物理法則に影響される。影が光の反対にできる以上光に当たれば当然消える。
上位の魔術ならばある程度は耐えるが、常人なら目がつぶれるほどの光量には耐えきれないようだ。
視界が急に変わると現実の確定がうまくできないのが分かったのは収穫だ。いや、自分がうまく集中を保てなかったために消えたのだろうか。
アレットは手のひらを二人に向ける。氷でできた巨大な槍。対城兵器さえ上回る超超巨大な槍だ。周囲の空間から魔力をかき集め、推進力を高め――
「あれ?」
突然、槍が消滅した。即座にアレットに強烈な倦怠感と頭痛が起こる。
何者かの攻撃かと身構え‥‥‥理解した。
「ああ、周囲の全部魔力に変換しつくしちゃったのか」
周囲には何も残っていなかった。地形どころか空間もだ。空間属性魔術で空間を抉られたように黒い靄が漂っている。アレットも気が付けば魔力が底を突き元の姿に戻っている。
「しかしやらかしたな……いや、【無敵モード】で調子に乗ったのか?無限にも思える魔力に高揚しちゃって冷静なだけでまともな思考じゃなかったなぁ……。確実に全滅させられたはずなのに……」
アレットは落ち込むように地面にうずくまる。絶対に満点をとれるはずの試験でケアレスミスをしてしまったような落ち込みようだ。見た目通り子供の様だ。
「仕方がない。撤収だ。三人は……勝ったみたいだな。じゃあ合流して、ヘレナさんのとこに報告か?依頼は失敗かな。いやそういう問題じゃないか。というか初めて人を殺したけど、案外何も思わないな。害獣駆除したときと同じ感覚かな」
アレットは落ち込みを紛らわすように独り言をつぶやきながら、三人のほうに向かって歩き出した。
もうすぐ3章も終わりです。その後は閑話とキャラ紹介です。
謝罪と報告
伏線の回収の一部を放棄します。実力が足りず申し訳ございません。4章は時間を飛ばします。




