45話 たどり着いた森は血と炎で紅く
特別投稿です。
エルフ。それは水の神と風の神の間に生まれたとされる種族だ。
この世界で最初の生まれた人種――地球で言う人間に相当する種族の次にドワーフと同時期に生まれたことで、現在でも「人間」とは人種、エルフ、ドワーフの三種であると主張する者も多い。
ルーツの影響で敏駿さと魔力、知力が優れている反面、生命力と筋力では人種よりも劣ることが多い。生まれつき水属性と風属性に適性を持つものが多く、逆にこれらの属性と相性が悪い土属性と火属性の適性を持つものは少ない。
寿命は五百年と長く、十数歳まで人種と同じペースで育ちその後は数年で一歳程度の速さで年を取り、エルフの集落では成人は五十から六十程度で認められ、人種の街では人種と同じように十五で成人に認められる。
寿命が長いため人種より時間に間隔が緩やかで温厚な性格のものが多く、一般人としては芸術家や学者などの知識人として活躍するものが多い。恋愛観に関しては一目見て口説く社交的な者から、相手をじっくり見定めて一生涯付きまとう者もいる。これは芸術を象徴しかつ奔放な逸話も持つ風の神と、知識を象徴しかつ慎重な逸話も持つ水の神の影響であると言われている。
その反面戦いに生きる場合は長い寿命を生かして膨大な経験を積み、冒険者の場合はB級やA級に至るものも多い。
この魔物という人間を害する本能を持った生物が蔓延る世界で長生きできれば、だが。
人種のように国を作ることは無いが、森や湖に集落を作り過去には最大で数万人規模の大集落が存在した。例外的に水と知識の神を強く信仰し船団を組んで航海をしながら生活するものもおり、アレットの故郷であるルプス号のルーツもこれである。
森に集落を作る場合は樹を生かした家を作り、森の中でも巨大な樹をくり抜き増築を繰り返し空中に集落を作るのが主である。周囲には森に長く住むエルフにしか扱えないような特殊で危険な植物を栽培し、城壁がなくとも魔物の侵入を阻む強固な壁となる。
太陽の光が差し込む森に作られたエルフの里は、外から見ると妖精の国に例えられるほど幻想的で、意図しなければ感情を表に出さないアレットも思わず感嘆の声を上げてしまっただろう。
たどり着いたエルフの里が、血と炎で赤くなっていなければ、だが。
「エイモンド騎士。本当にあの里のエルフたちが邪神を信仰しているんですかね」
そう尋ねるのは、まだ垢抜けていない様子の幼さが残った顔の青年騎士だった。
マーティン・ルイ・コーデリック。聖国フォーリウムの若き騎士だ。
冒険者や傭兵と言った野良の職業軍人でないの者、つまり公的な機関である国や貴族家に所属している職業軍人は兵士と騎士に分類される。
貴族の傘下である街や役所などの警備として雇われ給金をもらう一般的なものは兵士であり、騎士は貴族から直接与えられる地位であり職業だ。貴族ほどではないが平民より一頭高い身分と権力を持ち、個人の武力も高い。
一言で騎士と言ってもその幅は広いが、最低でも貴族から人格と実力を認められたものであり、最高で領土や領民を持つこともある。
そんな騎士に若くして選ばれたマーティンは天才と言われるにふさわしい実力者だが、異端者の殲滅する任務を命じられたことは初めてであり不安と緊張が隠せないようだ。
「上がそう命じてきたのだから、そうなのだろうよ!」
そう返答するのは岩を切り抜いた彫刻の様な人物だ。
エイモンド・ラッド・フェアリル。同じく聖国フォーリウムの騎士であり、恵まれた体格を生かして第一線で活躍し続けている経験豊富な騎士のお手本の様な人物だ。マーティンと違い地べたに座りながらも兜まで身に着け豪快かつ熱血な人柄がにじみ出ていて、その鎧には使いこまれた跡があるが、不潔さではなく経験の豊富さを感じさせる。
「いえ、ですがここから見る限り、集落の建物は壊れていませんし住民たちも笑顔の者ばかりです。妖精の国と言われた方が信じられるくらいで……」
マーティンの言う通り、エルフの里には邪神の邪の字もない無いに見えた。マーティンがおとぎ話で聞いた限りでは、臓物で作られた祭壇に四肢を切り落とされた乙女を供えてその周囲を怪しげなローブを来た魔術師が呪文を唱えているはずだが。
それを聞いた周囲も騎士たちは大笑いをした。
「はっはっは!確かにそういう邪神を拝めるやつらは居たな。だが邪神や悪神というのはひとくくりに呼ばれるが、邪悪であるという以外に共通点がない様なやつらでな。俺が討伐した中には血は家畜や魔物のもので代用していたやつもいたぞ。魔人変性なんて儀式をする連中だったもんで全員浄化したがな!」
「な、なるほど……一概には言えないのですね」
「ああ!それにもしもお前の言うような儀式をしていても、ここから見える場所ではやらないだろう。目立ちすぎるわ!」
「たっ、確かに!」
彼らが居るのは森の中腹にある盛り上がった大地だ。穴を掘るように休憩所を作り、遠見の魔術でエルフの里を観察していた。
これは本国の教皇陛下から極秘に下された命令だ。辺境の森で暮らしているエルフたちが邪悪な神の信徒を引き入れ、邪神の受肉まで行おうとしていると聖国フォーリウムの情報部が察知した。これを先に殲滅するのが今回の任務だ。
しかしかなり大掛かりな任務であり、かなりの力が入っている。場所が他国である以上は派手に部隊を動かすことはできないが、失敗することも許されない。そのために歴史上最も神に愛されたと謳われる女を指揮官に、その補佐としてベテランの騎士が集められたのだ。
マーティンも経験を積めと命じられ同行しているが、任務への不安――正確には大規模な初めての遠征であるこの任務で自分は活躍できないのではという不安と、彼女への嫉妬で平静を保てていない。
「案ずることはありませんよ。マーティン騎士。電光騎士団が調査して判明したのですから、間違いなど無いでしょう」
従者である少女が垂れ幕を開いて入ってくる。
話を聞いていたのか声をかけてきたのは、美しい女騎士だった。
ローレイア・クラシオン・エイプリル。天才という言葉が霞むほどの才を持った、神に愛された女。
その美貌は勿論の事、戦闘技術――特に剣術に関しては他の追随を許さないほどだ。
御前試合では先輩にあたるベテランの騎士を一刀の下に降し、その力を示した。
盗賊拿捕に魔物の討伐など、彼女はその名声を高め続けている。
マーティンが百年に一人の天才なら、ローレイアは万年に一人の天才だろう。
「エルフは我ら人種にはおりますが、それでも人間です。だというのに邪神に魂を預けるなど、獣人や魔人のさらに下に落ちるようなものです。本来ならば説得必要があるのでしょうが、非道を行うものは捨て置けません。我らの剣で彼らの罪を清めることこそが、主による最後の慈悲なのです」
何よりも彼女が上層部からも愛されているのは、その信仰心の高さだろう。
神に愛された者にして、神の愛の体現者。
神代に生まれていれば勇者と肩を並べ魔王を打ち取ったであろう、現代に現れた勇者の再来。
そんな彼女が居るのだから、落ちたエルフの浄化する任務は何の心配もなくうまくいくだろう。
「結構は明日の明朝。日の出と共に攻め滅ぼしましょう」
その言葉にも、マーティンは嫉妬を覚えても任務に失敗する不安は覚えなかった。
早いもので投稿を始めてからもう1年が経ちました。ブックマーク78件、総合評価261pt。
私が小説を書き始めたのは、他の方の作品を何度も読み直していると、この展開ならこうしたほうが面白い!という感情が大きくなり、自分で小説をかきたくなったからです。誰にも読んでもらえなくても書ききってやるという思いですが、それはそれとしてPV数や総合評価といった目に見える形で評価されると嬉しいです。
これまで続けてこれたのは皆さんのおかげです。ありがとうございました。
これからも拙くはありますが力が続く限り書き続けていきますのでよろしくお願いします。




