39話 ベテラン冒険者
予約投稿していませんでした。申し訳ありません。
今回は短めです。
「はっ!」
掛け声とともに剣が振り抜かれ、火傷の様な激痛をもたらす鱗粉を振りまくフレイムモスを切り殺す。水属性の付与魔術を使っているため鱗粉が飛び散る様子もない。離れた場所では植物の様な保護色で隠密性が高い草狼の牙と爪を掻い潜り短剣で喉を切り裂いている。
食い殺してやろうと死を恐れず飛び掛かる魔物の多くを槍でいなしながらひきつけ、余裕を見て前衛に魔物を流す。
モアナから見てそれはとても洗練されているように見えた。モアナに声をかけてきた剣士の青年イルドは柔らかい反面生命力が高い虫の魔物を一閃で倒し、案内役で協力を取り付けた短剣使いのゲリットは見た目の年齢に反し軽やかな動きで一体ずつ確実に仕留めている。もう一人の槍使いのミミムは間合いの広さを生かして半数以上の魔物をひきつけ、イルドとゲリットが一体倒すごとに一体魔物を送り順調に数を減らしている。
――……戦ったら負ける気は無いけど、全員数字以上に優秀に見える
勢いでついてきたものの、いい経験になるとはどういうことなのかと内心で首をかしげていたが、彼らの戦いはモアナにとって初めて見るものであり、確にいい経験になるものだ。
モアナの【格闘術】スキルのレベルは6。これはC級冒険者の平均よりも上であり、純粋な技量でありでイルドとも渡り合る。しかし暗殺の様なからめ手を得意とするモアナが真っ向から戦ったとしても負ける気は無いというのも嘘ではないが、あくまでそれは負ける気は無いという程度であり勝てるとは言い難い。身体能力の低さを補えるアレットに作ってもらった籠手や防具を使用しても、良くて五分だと考えていた。
しかし実際の戦いを見ると、勝つこと自体が難しいと気づいた。
最初にモアナが強いと察していたイルドが強いのは当然だ。C級冒険者というのは村程度の規模なら壊滅させるような魔物を一人で倒せるのだ。弱いはずがない。しかし一目見て弱そうだと感じてD級冒険者のおじさんたちも十分に強いと思い直した。
D級冒険者は口の悪いものからは才能のないものが人並に努力すれば引退するまでになれる等級と言われるそうだ。この二人もおじさんと言われる年齢で、案内役として雇われてのならそんな評判通りなのだろう。しかし冒険者という命の危険が大きい職業で引退するまで大きなけがもなく生き残っているのだから、天才でなくとも確かな努力と経験を積み重ねたベテランというべきだろう。
正面から一対一でモアナと戦えばモアナが勝つが、それを本人たちも理解しており、できる役割を完璧にこなし連携する姿はモアナが今まで考えたことのないものだ。
アレットとソフィアも考えたことはあっても、三人で実現できたことはないだろう。
――‥‥‥これは負けていられない!
これを見れただけでも十分についてきた価値があったと確信したモアナは、今回の自分の役割をこなそうと気合を入れる。
「【断頭脚】」
地面に映る影のように地表を這い走りかかと落としの要領で草狼の首をへし折る。
今回モアナが求められたのは戦闘力。すなわち魔物を倒すことだ。連携が取れないことは分かっているので三人から距離を取り魔物に逆に襲い掛かる。
首に足で一刀。胴に張り手。手足に装備した鎧を鈍器のように使い刃のように鋭いモアナの格闘術で魔物を切り刻み破壊するように駆逐していく。
「ははっ!予想以上だな」
その光景はイルドにとって予想以上のものだった。本来ならばこの程度の依頼は、戦闘は自分一人、この森には慣れていないので案内役を二人。それで十分と考えていた。
しかし数日前に見かけた変わった子供を冒険者ギルドで見つけたので、先輩として面倒を見てやろうという気持ちで話しかけたが、この子供は自分と同じくらい強いと気が付き咄嗟に実力を見込んで話しかけたということにした。
自分と同じくらい強いと判断した自分の目と、いくら何でも十にも満たないように見える子供がそんなに強いはずがないだろうという常識に挟まれ不安だったが、どうやら自分の目は衰えていないようだ。
モアナは身の安全など考えていないようなアクロバットな動きで樹々を飛び回り自分たちを囲んでいた魔物を減らしていく。動きこそ猫のようだといえなくもないが、その迫力は獅子にも匹敵する。小さく細い体を従動させるように回転させ破壊し、粉砕する。
イルドは【瞬剣士】のジョブというに就いており、冒険者はたいてい【剣士】か【槍士】になるので一般的なジョブだ。モアナはおそらく【格闘術】のジョブに就いているのだろう。あの分なら【格闘士】よりも上位のジョブに就いているのかもしれない。あの若さ……幼さで自分に匹敵するとは才能とは末恐ろしいものだと驚愕していた。
「ミミム!俺には虫の魔物をよこしてくれ!俺が一番対応できそうだ!」
「分かった!」
これは負けていられないとイルドも魔物を切り捨てていく。モアナは肉弾戦を得意としているが、そのせいで魔物との距離が近くなる。虫の魔物は鱗粉などでデバフをかけてくるものが多いため、自分が水属性の付与魔術をかけた剣で倒すことが最善策だろう。
気持ちに熱が入っても動きは冷静に。それはイルドが確かにC級冒険者という等級を持っていることを表していた。
モアナの活躍に興奮するあまり、同行者の目が暗くなったことには気が付かなかったが。




