37話 森の手前の街エニア
日常回
「じゃあエルフの住処にたどり着くために情報を集めてくるから、1週間後に冒険者ギルドの前に集合で」
神秘の森の手前にある街エニアに到着後、そういってパスファルはアレットたちと離れて雑踏の中に消えていった。アレットたちに情報収取は向いていないので、エニアで待機することにした。
アレットたちはヘレナから息子に手紙を届けてくれと依頼をされたが、その息子さんがいるエルフの住処が不明であった。
エルフたちの住む神秘の森の奥にあると言われる秘境エウレル。エニアはエウレルに住むエルフたちと魔力を含んだ植物などの取引のために作られた町である。森はこの世界の純度の高い魔力を含んだ植物が多く生息しているが、純度が高すぎて人種では採取の際に植物を劣化させてしまうことが多い。
しかし水の神と風の神に由来に持つエルフは植物と人種よりも親和性が高く、中にはエルフにしか採取できない植物もある。そういった希少な植物を取引するために人種の国が交易用に専用の街を建設したのだ。
しかし公平公正に交易だけをしていれば平和なことこの上ないが人の欲望に限りがないのか、安く大量に商品を仕入れるために森を荒らす人や見目麗しいエルフを奴隷として売買するために違法奴隷商なども集まってくる。
街の設立当時はエルフの住処にも人間が、人間の街にもエルフが往来していたが、今ではエルフはエルフの街から出てくることはまずなく、人間がエルフの街に行くこともほぼ不可能だ。エニアの街はいわゆる出島であり、現在は街の一部でのみエルフたちが出入りしている。
アレットとしてはヘレナに話をつけておいてほしいが、あの外見は若いのに中身がお婆さんな老人は苦労した数(乗り越えた試練の数)だけ成長すると思っているらしく、事前に話をつけることはない。エルフの森の最長老の母親であることも一部のエルフしか知らないらしい。
そのためパスファルが今でも森で希少な植物を自力でとってこれる冒険者たちから話を聞き出し、森の地形などを調べてから森に挑むことにした。
アレットたちも協力しようとしたが、冒険者から情報を集めるときは酒場で対価にお酒を奢り裏路地の情報屋を利用するらしく、アレットたちは全く向いていないらしい。主に年齢で。
この世界に飲酒の年齢制限はないが、それでも八歳の子供は常識的にお酒を飲まないので、酒場には不自然すぎるのだ。
アレットたちはパスファルと別れ屋台で昼食がてら食べ歩きをしていた。この街エニアはエルフたちが比較的身近であるためか、食事には植物……野菜を多く使用している屋台が多い。エルフであるソフィアも体質的においしく感じるのか嬉しそうにしている。
「じゃあパスファルさんが情報集している間、私たちはなにをして待ってる?この街の冒険者ギルドに来る依頼は高難度の採取が基本だから、戦闘能力が高いだけじゃ達成できないんだよね。難しくて面白そうだし受けてみる?」
「うーん。俺はこの街の魔術ギルドに行ってみたいな。トルシスの街で錬金術師の爺さんと知り合ったんだけど、この街には爺さんの友人がいるらしくて、ポーションを含めて錬金術について語り合えるぞって」
「……そういえば、冒険者ギルドには冒険者に必要な技術を教えてくれる教官がいるっていってなかったっけ。トルシスでは行かなかったけど」
「ああ、そういえば言っていたな。じゃあまずは冒険者ギルドで教官たちに採取について教えてもらうか。俺はその後でそのうち魔術ギルドに行ってみるよ」
「うん。それでいいんじゃない?……ところで聞いてもいい?」
話がまとまったのでさあ行こうとアレットが足を向けると、何故かソフィアが聞きづらそうに顔を向けてきた。
「どうした?」
「なんでアレット君はモアちゃんを肩車しているの?」
そして困惑と疑惑と不快の三つの感情を混ぜ合わせたような表情をして聞いてきた。
アレットが何を聞いているのかと小首をかしげ、その上ではモアナを一緒になって同様に小首をかしげていた。
おかしい。
この二人、こんなに仲良くなかったでしょうに。
「肩車くらい、何かおかしいか?」
「……へんなソフィアちゃん」
おかしいかな。いやおかしくないのかな。そうソフィアも小首をかしげた。
馬車でソフィアがパスファルと話している間はアレットとモアナは二人っきりになっていた。何やら楽しそうに話していたのは知っているが、こんなに仲良くなるのは何があったのだろうか。
はたから見ると人種と猫系獣人種とエルフの子供たちがそろって首をかしげており、なかなか奇妙な光景になっている。
アレットが首をかしげている頭上でモアナがさらに首をかしげているので、角度がすごいことになっている。
「うん……普通……かな。じゃあわーたしもっと」
ソフィアはアレット達をよじ登り、モアナのさらにその上に肩車された。
アレットの頭上にモアナが肩車されていてモアナの頭上にソフィアが肩車されている。
奇妙を超えて大道芸のような光景だ。通りすがりの街の人々の視線を多いに集めている。三度見を超えている人もとても多い。
「やっぱり目立つから、降りない?」
「いや、視線が高くて気持ちいいのよ。降りないわ」
この街ではエルフは珍しく、獣人はさらに珍しい。この二種族が一緒にいることも、人種といることもさらに珍しい。
そんな三名がだるま三兄弟状態で歩いていれば、自分の目を疑うレベルで不審である。
三人ともまだ八歳なので肩車も普通だが、あと5年後なら衛兵を呼ばれてたかもしれない。
しかし衛兵は呼ばれなかったが、トラブルは起こりやすくなるらしい。
「ええと、君たちだけかい?親御さんたちは一緒じゃないのかい?」
そういいながら、アレット達が訪れた屋台の番をしているお兄さんが突っ込んだことを聞いてきた。後ろの壁に武器を立てかけているので、日雇いの冒険者だろうか。
おそらく二十歳前であろう青年は、屋台よりも高くなっている肩車に意識を取られつつ常識的に訪ねてきた。
「親はもういないので、俺たちだけですよ。それよりそのレタスホットドックを十五個下さい」
「食いすぎだろ!それにもういないって……。いっ、いや毎度あり……」
それに対してアレット達は気にした様子もなく答え、青年は何かに圧倒されながらアレット達を見送った。




