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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
3章 森へと続く道
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35話 馬車に揺られて

その翌日、アレットはトラスの街の住民に別れの挨拶に回っていた。アレット達が街に来てから気にかけてくれた門番、義務でもないのに冒険者ギルドで依頼を受けるたびに心配してくれた受付のおじさんと教練所のおばさん、半ば以上トラウマなのであまり会いたくないヘレナ。全員にだ。


 アレットたちは誰一人深く仲良くしたつもりもないが、お世話になりましたと挨拶するのが礼儀だと認識していたので全員を訪ねたのだが、アレット達が思っていた以上に別れを惜しまれたことに驚いた。


 前日にパスファルの依頼に同行することにしたアレットたちはさっさとその日のうちに馬車に乗ろうとしたが、スリルを求める一方で常識を持っているパスファルが待ったをかけた。旅の途中で立ち寄っただけの街ならだれにも挨拶せずに素通りすることもあるが、数か月利用したギルドがあり、今後もその街を訪れるならば人付き合いのために別れの挨拶は必要だ。


 人付き合いを重要視していない……する理由を知らないアレットたちはそのまま次の街に行こうとしたが、常識的なパスファルからの助言で別れの挨拶を向かった。人付き合いを重要視する理由を説明されても理解できないアレットたちだが、強く反抗せずそういうものかと挨拶に回る素直さがあった。


 アレットは前世の経験があるが、前世では会社員だったので転勤の時は会社内の人に挨拶したが、今の冒険者という地球ではフリーランスか猟師なのか何なのかうまく分類できない職業が街を移るさいにどうすべきか、うまく知識を使えなかった。


 なおこの世界では、唐突に数か月音沙汰がないと死亡したと考えたほうがよいという考えもある。


「ええ。大切な手紙なので、しっかり運んでくださいね」


 最後に一番深くかかわったヘレナに別れの挨拶をして街を出た。





 アレットたちとパスファルの四人は宿を引き払い、全員で門へと向かう。

 街の外に出ると、パスファルが前日に借りた馬車が待機していた。パスファルが御者のおじさんに話している間に馬車に乗り込んでいく。


「私窓側でいい?」

「いいよ」

「ありがとー!」


 馬車に乗るのが初めてなソフィアにアレットが返すと、彼女は大喜びで入っていった。同じく馬車を見るのも初めてだがそこまでテンションが上がっていないアレットとモアナも乗り込みと、すぐに馬車はエニアに向かって行く。


 馬車を持たない人が馬車を使い移動する方法は主に二つ。主要な町をキャラバンの様な大集団で移動する方法で、大抵は小規模の商人が安全に移動するために商業ギルドを通して主催する。もう一つは今回アレットたちが利用している、個人で馬車と業者を借りる方法だ。大抵は護衛を有料でつけるが、馬車を持たない冒険者が足として利用するときは冒険者自身が護衛を兼ねるため安く利用できる。


 馬車の中ではパスファルの武勇伝をソフィアが目を輝かせながら聞いているのを横目に、モアナは馬車にガタゴトと揺られていると気持ちよい眠気に飲まれそうになっている。アレットはパスファルに冒険者の先輩として教えてもらおうと思っていたが、ソフィアが楽しそうにおしゃべりしているので目を閉じて自分のことを考える。


「ステータス」


 トルシスからエニアまでは馬車で十日ほどかかり、必ず野営を挟む。エニアは神秘の森ともいわれる僻地にあるため、かなり遠い。トルシスからは海岸を通り東に向かい、その後北上するルートだ。道もあまり整備されていないため、馬車を持ちあげて走ったほうが速いとすら考えてしまう道もあるらしい。


(やっぱり、レベルが上がってるな)


 そうして長い余暇時間があるので、アレットは自分のステータスを確認するとやはり、一か月冒険者ギルドで依頼をこなしても上がっていなかったレベルが10上がっていた。


 この世界では人間たちはジョブに就きレベルを上げ転職に新たなジョブに就くことを繰り返す。しかしそのレベルとは、そのジョブに合わせた行動をしなければならない。


 【農家】のジョブに就いているのに、剣で魔物を倒してもレベルも上がらないし、その逆に【剣士】のジョブに就いているのに、畑で鍬を振ってもレベルは上がらない。例外的に【格闘家】が剣を振ると体は運びなどが共通するのでレベルがあがる。


 アレットが付いているのは【境命士】。他のジョブチェンジできるジョブ一覧の中から、最も名称から効果が分からないジョブは早いうちに就いたほうがいいという考えで着いたものの、どのようなジョブなのかあたりが付けられずレベルも上がらないという、現状をみると失敗だったジョブだ。


 そんな中で、遺跡でパスファルの治療をしたときにレベルが上がったという脳内アナウンスが流れた。正確には、パスファルに精霊を混ぜ合わせ、肉の体を持った生き物を精霊の様な肉に体を持たない生き物に変化させたときだ。


 そのためアレットは、【境命士】とは命の境に関するジョブなのではないかと予想している。人と精霊ではなく、命の境目だ。

 【剣士】は剣の士。剣の技を身に備えた者であり、剣術スキルを習得しているものが最初に就くジョブだ。ならば【境命士】も同じく境命という、命の境を操作する者のことだろう。


 アレットは命に関する魔術……すなわち生命属性魔術を習得していないが、【思考存在】【知恵の書】【神鉄骨格】という三つのユニークスキルを習得してから表示されたジョブなので、おそらく効果から魔力を消費し現実を書き換える【思考存在】に特化したジョブなのだろう。


 おそらく【知恵の書】【神鉄骨格】はそれぞれ、情報と肉体、魔術と武術に関するジョブに関わるのだろう。


(命の境、パスファルさんに処置した時も自分が思ってよりスムーズにできたのはジョブの補正か……それとも俺がこのジョブに就けたことはこの分野の才能が有ったのかな。才能があれば剣術スキルを持っていなくても【見習い剣士】に就けるらしいし)


 そう考え、アレット自分の隣で船をこいでいるモアナを見つめる。


「……なに?」

「実は……なんでも‥‥‥うん。いいか。人体実験させてくれ。一瞬で終わるから」


 ためらいつつも結局ハッキリ言ったアレットに、モアナは硬直し驚く。自分の耳を疑い、アレットの目を見て無言で確認するが、聞き間違えたわけではないらしい。


「……うん。いいよ」


 さすがに唐突だし無茶だったかなと勢いで言い切ったことを後悔したが、モアナは端的に承諾した。

 こんどはアレットが驚いたが、アレットとは違いモアナは言葉で返答した。


「……ソフィアよりは付き合いが短いけど、私はアレット君を信用している。あなたは私にひどいことはしない」


 モアナの無垢で幼いが、それゆえにまっすぐな目だった。

 アレットは信頼にこたえるべき、空間を歪めている「なにか」をモアナに埋め込んだ。


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