↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
3章 森へと続く道
36/62

33話 封印された魔物

更新再開で週1を目途に投稿します。

 深い樹々に囲まれた、昼間でも陽の光が差さない魔境の森。その中に突如現れた遺跡の最深部に、四人の人影があった。

 触れた者を汚染し魔に堕とす瘴気。黒いタールのような濁った風が吹き荒れる空間をかき分けて進んでいた。


「お姉さん。本当にこれで瘴気って防げるの?」

「ある程度は大丈夫よ。こんな風に物質化するほど瘴気が濃いと、風属性魔術で風の壁を張っているだけでも防げるわ」

「……アレット君は知らなかったの?」

「俺の故郷ではマジックアイテムの開発とか技術的なものが多かったから、穢れた魔力である瘴気は最低限しか知らないんだよ……。どんなものでも一定以上の瘴気に汚染されると魔物になる、くらいしか」


 アレット達四人は遺跡の最深部に向けて進んでいた。アレットでも索敵の魔力を浸透させられないほど濃い密度に満たされており、パスファルが倒れた場所もこの先だ。


 アレット達の本来の目的は遺跡の調査だ。この遺跡は空間転移してきたものであると証言してくれるパスファルを見つけた時点で十分に依頼達成と言える。

しかしパスファルが見つけたという魂の武器に興味がわいてしまった。


 魂の武器は強力な魔物を封印しその力を引き出す武器だ。アレットはその秘術にとても興味がわき、依頼をいったん脇において回収しに向かいたい衝動に襲われた。

 無論モアナとソフィアを自分の我儘に付き合わせるわけにはいかないと最初は堪えたが、なんと説明を聞いた二人はアレット以上に興味示した。


 二人がアレットに出会う前、街のスラム街で暮らしていた時に助けてくれたという青年。彼は強力な魔物を腕に宿し戦っていたという。そんな彼の腕と、魂の武器が全く同じなのだ。

 彼はそんな腕に苦しんでいたという。二人は彼に助けられたお礼をしたいと考えている。

 二人は医療にも秘術にも精通しないないが、類似している魂の武器をアレットに研究してもらえば、いつか名前も知らない恩人にあった時に役に立つと考えたようだ。


 そうしてアレットと目的が一致したため依頼の達成報告を後回しにして最深部まで探索することにしたのだ。


「あなた達……結構その場の考えで生きたいるのね」

 そんな会話をしている三人をパスファルは呆れたような目で見ていたが、助けられたため強く言うことも出来ずもにょもにょとした口になっていた。


「まあ、いいわ。それで、この先にある魂の武器だけど、あなた達に対処法はあるの?基本は魔物が封印されているだけだから、その魔物と同じ能力を使うはずよ。私が受けた呪いからおそらく闇属性か生命属性だと思うけど……、腐敗の力を持つこと以外は分からないわ」

「大丈夫ですよ。どれだけ危険な魔物でも所詮は封印されている霊体です。霊体に直接攻撃すれば生命力を削り取れます。魂の武器として使う以上消滅させるわけにはいけませんが、負けることはありません。安心してみていてください」

「……たいした自信ね。まあ、今の私はたいして役に立てないでしょうから、どのみち見ていることしか出来ないのだけど」


 パスファルはそういって自分の腕を見つめたが、その腕は精霊のように半透明になっていた。


「これ、本当に精霊が混ざっているのね。呪いとして受けた腐食も何となくで使えるし、変な感じだわ」

「呪いをただ解除するのは逆に難しいですからね、そのまま組み込んだ方が簡単だったんですよ」

 そんなどうでもいい会話を続けていると、ひときわ瘴気の風が強くなった。





 アレット達が通路を抜けると、そこは部屋と呼ぶには広すぎた。壁と天井、柱が樹木で覆われている縦横百メートルほど、高さも五十メートルはある、地下神殿という呼称がふさわしいだろう。

 中に入ると奥から地響きと共に空間が揺れ邪悪なオーラが立ち込める。魔術師然としたローブとフードをかぶり、古めかしい魔導書と杖を携えている。肉の削げ落ちた骨の腕でも分かる不吉さと力強さを感じる。


「あれは……エルダーリッチか。ランク8だったかな」


 いつもは自身に満ちているアレットとは思えないほど声に余裕がなかった。封印され武器として利用される魔物は強大な魔物が多いが、肉体をアンデッド系の魔物は肉体を失うことで強力になる。悪い意味で予想通りだ。

 アレットは弓術の武技【弓魂打ち】を放ち、霊体を直接射抜きにかかる。以前ヘレナが使用した【弓神魂散】をアレットが現在の実力で再現したものだ。精神や霊体に直接攻撃できる浄化の性質を持つ攻撃であり、幽霊などの肉体を持たない存在を浄化する神聖な魔術組み合わせた武技だ。相手がアンデッドならさらに威力が上昇する。


 光り輝く矢がエルダーリッチに向かって飛んでいくが、その危険性に気が付いたのかエルダーリッチは左腕に持った魔導書を開く。魔導書の上部に魔方陣が複数展開されると、複雑に絡み合い魔術が発動する。


 魔導書から地属性魔術【濁流葬】を発動し矢を押し流す。見る間に泥水が視界を覆うと、アレット達は流されないように柱に飛び移るが、その隙を突くように杖から瘴気の塊を放つ。


「一発でも当てれば倒せるけど、予想以上に魔術が速いな!」


 モアナはソフィアの首根っこをつかんで柱を足場に飛び回る。モアナの機動力とソフィアの風の結界を駆使して躱しきるが、濁流葬の勢いにより強風も発生し天井にたたきつけられる。天井に伏せたままアレット達を見ると、パスファルは足元に無属性の結界を展開し水に浮いている。加えて早速アレットに改造された体を生かしエルダーリッチの放った瘴気を吸収するように自分の魔力に置き換えている。


 続いてアレットを見ると、いったん柱に避難した直後、濁流に自分から飛び込んだ。


「ええっ!?アレット君何してるの」


 アレットは土塊が漂う濁流を人魚のようにかいくぐって泳ぎエルダーリッチの目前に迫る。最後に土塊を足場に水中から飛び出し、格闘術【聖脚】を放つ。エルダーリッチは水の壁を一息に突破してきたことに驚くも自分が宿っている弓と霊核を結界で守る。


「速さの秘密はその魔導書だろ!」


 しかしアレットは速攻でとどめを刺すのではなく、本来は発動にある程度の時間を要する魔術を一瞬で発動させていると思われる魔導書を左腕ごと蹴り壊した。興味はあるが、霊体であるエルダーリッチは服も杖も魔導書も霊体だ。回収できない以上破壊するのに躊躇は無い。


「グォオオオ“オ”ッ」


 声帯のない喉から狂ったように怨嗟の声を叫びながらデタラメに杖を振り回すと、瘴気の塊はムチのように暴れまわる。エルダーリッチは生前から……死んでアンデッドの魔物として生まれた時から強力な魔術を使う魔物だ。武器に封印され魂が顕現している以上、肉体という枷から解き放たれ魔術以前の魔力を直接放出できる。エルダーリッチの死者の魔力は肉体を蝕み声明を奪う。

 アレットはたまらず水中に避難する。一撃離脱を繰り返し、霊体を削り再封印する方針に変更しようと考え始めたアレットの視界に、猫のように天井を走る影が映りこんだ。


「……しね」


 モアナは地上を諦め天井を音もなく移動すると、エルダーリッチに背後から切りかかる。相手が肉の体を持たないため、爪に浄化の魔術を付与すれば格上の魔物にも致命傷を与えられる。事前にアレットから、顕現している魔物を消滅させても、一度魂の武器になった武器は十分に研究に有用と聞かされたため安全のために撃破を優先している。しかしその爪が届く前に黒い風が割り込んだ。


「……瘴気のムチ?そんなに動かせるの?」


 前面の空間を蹂躙するように蠢いていた瘴気のムチは、鞭術の知識がないモアナにも分かるほど無茶苦茶な動きで背後に回り込んできた。エルダーリッチには攻撃が届かないと判断し、試しに浄化の魔術が込められた爪で瘴気のムチを掠するように切り裂こうと腕を振るうも、触れた瞬間モアナの手が指先から腐るように黒く染まり始める。

 自分の咄嗟の判断が間違えことに気が付くモアナだが、天井から飛び降りるように奇襲を仕掛けたため空中で逃げ場がない。体勢の崩れたモアナ目掛けてエルダーリッチは、風属性魔術の風槍を放つ。最も初歩の攻撃魔術は素早く放たれ、咄嗟にアレットが助けに入ろうとするが、それより早く蔦で編まれたロープがモアナを後ろから絡めとり救い出す。


「一度奇襲に失敗したらすぐに引きなさい!」


 アレットが振り返ると、ロープの持ち主はパスファルだった。遺跡の探索を専門とする彼女はアレットたち三人よりも機動力に優れていたため、柱にロープを引っかけ軌道を変え直線で五十メートル先から正確にモアナを助け出していた。


 エルダーリッチは逃げられたことに怒りの声を上げるが、すぐに目標をパスファルに変え風柱を放つ。パスファルはアレットの改造を受け瘴気は吸収できるが、純粋な魔術は吸収できないため柱を盾にするように柱の背後に避難に回避する。


 エルダーリッチはまともに攻撃が当たらないことに不愉快そうに杖を振り回す。まるでこの場所から動ければと、自分を封印している武器を憎んでいるようだ。


 苛立ちをぶつけるように、水中に逃げたアレットを標的に定める。縦横無尽に水中を移動するアレットの正確な位置がつかめず、濁流を凍らせてる水属性魔術【氷獄】を使用するために魔力を練り上げ始めると、入り口からエルダーリッチから見ても強大な魔力が立ち込め始めた。

 アレット達に敵意を向けていたエルダーリッチも、その凄まじい神聖な魔力は無視できない。ソフィアはモアナに助けられてから今まで魔力を練り続け、アレットと同じようにヘレナの武技を参考に作り上げた浄化の火属性魔術【火炎崇拝】。アンデッドであり、今は霊体であるエルダーリッチには直撃すれば間違いなく致命傷だ。


「ボオオオォォォオ“オ”オ“ォ”ォ“ォ”!」


 自分に歯向かい命に手をかけてくる生き物に怒りの方向を上げる。

 真っ向から打ち負かしてやろうとエルダーリッチは最も威力の高い闇属性魔術【餓飢弱貧】を唱える。エルダーリッチから立ち込める禍々しい魔力が黒い霧となり、それをかき分けるように、吐き気を催すあらゆる負を内包した亡者が群れを成してソフィアに襲い掛かる。


「取った」


 ソフィアに注目が向いて隙をつき、アレットが台座に置かれた武器に触れる。12角形の水晶の形をした封印具に吸い込まれるようにエルダーリッチを封印する。それに気が付いたエルダーリッチは止めようとするも、アレットはすでに水晶と武器を錬金術で接続している。


 もはやこれまでと理解したエルダーリッチは残りの魔力をすべてつぎ込み、ソフィアの【火炎崇拝】を打ち破る。一人道連れにしてやったと嗤いをこぼすが、その視界にはロープが移りこんだ。


「油断さえしなければ、負けないのよ」


 エルダーリッチの最後には、そんな声が聞こえた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。