31話 ダンジョンと化した遺跡
セレナから聞いた場所に向かうと確かに遺跡があった。
風の都トルシスの南西にあるキノコの森を進むと、苔と怪しげな菌糸類が生い茂る広間、そこには大樹に隠れた扉が存在した。
「これって遺跡じゃなくて、なりかけのダンジョンでは?」
ダンジョン。それは神代に邪悪な神々が配下の魔物を効率的に生み出すために作り上げた特殊な飼育施設だ。基本的には特定の場所が一定量の穢れた魔力に汚染されると発生し、形状や危険度は周囲の環境や魔物の危険度に比例する。
「あー。確かにここって魔境だし、魔物もたくさんでるし、ダンジョンが生まれる条件は揃っているね」
「……この規模の魔境なのに、今までダンジョンがなかったことの方が変」
この森は広大な魔境であり、魔物も弱い魔物は一般人でも倒せるランク1、強い魔物は街を壊滅させるランク6までと幅広い。このダンジョン……になりかけの遺跡も、強い魔物がいる可能性が高い。今まで誰もこのダンジョンに潜っていない以上、数も多いかもしれない。
「じゃあ、警戒しながらさっさと抗力しようか。なりかけならダンジョンコアを壊せば消滅するかもしれないし」
「あ、壊しちゃうの?」
「……ダンジョンは危険だけど、定期的に魔物を間引けば素材を取れる金の鶏だから、利権がどうとか聞いたことがある」
「いや、壊せるか確認するって話。今日はぎりぎりで壊せるけど明日以降は壊せないってこともないだろうしね。俺としては魔境があるし、ダンジョンは壊せるうちに壊していいと思ってるけど。……うわっ」
危険と考えながら、十分に対処できると自信をもって足を踏み入れると、一気に床が抜けた。
キノコの森に生まれた、ダンジョンになりかけている遺跡。この施設はダンジョンとしての性質を持っているがまだ遺跡であるため、階層の移動に階段を使う必要がない。
ダンジョンとは神代にこの世界に侵略に来た異世界の神々の元の世界を模している。そのため各階層の空間は断絶しており、床も壁も天井も破壊できない。文字通りの意味で世界を隔てるものと同じであり、破壊するには異世界に転移するような超越的な何かが必要と考えられている。そのため通常は移動するには最初から創られた階段を使わなければ移動できない。
ゆえに、ダンジョンでは落とし穴などの罠を除いて床が抜けるというのはあり得ない。
「……そっか、魔力が薄いからダンジョンのなりかけとしか分からなかったけど、階層の断絶もまだ起こってないのか」
華麗な着地を決めたためにけが一つ無いが、やや自分の失態を恥じるような顔してアレットが分析するように呟いていた。
通常のダンジョンは空間に穴が開くように発生するが、遺跡や砦などの人工物を取り込んでダンジョンに変化することもある。その場合は取り込んだ人工物に強い影響を受けるため、各階層の断絶などの最初は繋がっていたものを分断する空間的な変質が起こるのは遅いようだ。
「ぎぎゃあああ!!!!」
「そして最初に起こる変化は魔物の発生、と。ダンジョンは魔物を生み出すために作られたそうだし、当然か」
落下してきたアレット達を取り囲むように、大量の魔物が襲ってきた。
牽制のように鋭い歯をもつ兎の様な魔物が飛び掛かると、即座にモアナが前に出る。剣を振り下ろすような歯の攻撃を半身で躱し、そのまま腹を鉤爪で抉り、後方の魔物の集団が狼狽しているうちに最も近い位置にいた同じ兎の様な魔物の首の骨を捻り折る。
そしてそのまま加速し一番後ろにいる最も大きな魔物に襲い掛かる。魔物たちも立ち直り反撃しようとするが、アレットが素早く矢を足に打ち込み動きを止める。
「……っ!」
慌てて最後尾にいた一番大きなリーダーらしき魔物が丸太の様な腕を伸ばすが、モアナは無視して突っ込み格闘術の【崩拳】を胸部へ打ち込む。鎧の様な筋肉越しに内部に衝撃を伝えゴキバキという音と共に肋骨が砕け筋肉にめり込む感触が伝わる。
すると弓を持った人型の魔物がモアナを貫くように横から矢を放つ。それを【即応】で反応速度を上げ後ろに飛び退くように回避。そして二の矢を番える前に突っ込み首を蹴り砕く。
全滅を悟った魔物たちが逃亡しようと動きを停めたところに、ソフィアが面を押しつぶすように魔術を投下し殲滅する。リーダーとその周辺にいた魔物を倒してしまえば、残りは雑魚だけだ。
「……ふぅ」
とどめはちゃんと刺したか、他の隠れている魔物は居ないか警戒していたが、アレットが緊張を解くように息を吐き、モアナとソフィアも力を抜く。
そうして呼吸を整えながら、自分たちが落ちてきた入り口を見上げる。
「この遺跡って地下にあったんだな」
「索敵に使えるユニークスキルがあるんだから、使っておけばよかったんじゃないの?」
「ごめん。油断してた。ダンジョンに入ってから使えばいいかなって」
アレットは自分の油断したせいでと少し落ち込んだが、二人とも気にしていないようだった。
「……それよりどうする?数は多いし、結構強いよね。負けないけど」
モアナも気にした様子は無く、このまま進むかアレットに聞いてくる。
「んー。このまま進もう。この遺跡……じゃなくてダンジョンは未発見だったから魔物が間引かれてなかったせいで数と質が高まっているんだと思う。危険性はあるけど、許容範囲内だと思う」
「……分かった」
アレットが地形に魔力を流し調べると、この先には今戦った魔物より一段階強い魔物がいる程度だった。そのままダンジョンコアは無いかと奥深くにまで魔力を伸ばしていく。
「ん?魔力が届かなくなった」
しかし、ある程度地下になると情報が吸い上げられなくなった。アレットは眉を顰め何度か試していると、何やら重いと表現したくなるような不気味な何かに阻まれていることが分かった。
「瘴気……いや呪いかな」
「瘴気と呪い?なにか分かったの?」
「いや、分かったというか、ここからじゃ分からないことが分かったというか……。たぶん穢れた魔力である瘴気が溜まっているのか、呪われている何かがあるんだと思う」
アレットが魔力を流そうと試みてもそれ以上分からないので、今度は横に魔力を伸ばしていく。アレットのユニークスキル【知恵の書】は魔力を地形に流すことで魔物のステータスや地形の情報が分かるが、その性質上索敵範囲が広がる程雪だるま式に増えていく。アレットは魔力が平均よりは多いが、いくらでも使えるという程ではないので負担が大きいが、安全地帯から情報を集めるほうがいいと考えダンジョンの情報をここで集めつくすとばかりに魔力を広げていく。
「……気持ち悪い。魔力を一気に使いすぎた」
「……魔力ポーションあるよ。飲む?」
「ポーションって死ぬほど不味いし、ちょっと休憩していく?」
「俺が作ったポーションはおいしいから大丈夫だよ」
頭痛と発熱に襲われ視界がぼやけるので魔力ポーションを飲んで不快感を押し流す。
「それで、今度こそ何か分かったの?」
ソフィアがアレットの背中をさすりながら問いかけると、アレットは自信満々に頷く。
「ああ。このダンジョンに妖精がいる」
来週は投稿しますが、リアルの都合でその後何週間か休みます。




