30話 仙人
復活しました。更新再開します。
リアルとも兼ね合いでたびたび休むかもしれませんが、週1更新を目指します。
アレット達がいる大陸とは違う大陸。山々の奥に不自然に切り開かれた広場があった。
広場には畑や井戸が作られており、中心には茅葺屋根の家がある。軒先では年若い青年が茶の湯を傾けており、虚空を見つめる様なまなざしで日差し受けていた。
「うん……?」
静寂を楽しんでいた青年が何かに気が付いたような小首をかしげ、肉眼では見えない何かの方角に視線を向ける。
「おーい!今日も稽古つけてほしいっすー!」
ぶつぶつと小声で考え事をしている青年に元気溌剌といった声が襲い掛かり、青年が眉間にしわを寄せた。
「なんじゃフフ。朝飯なら自分で用意せい。いまは忙しいんじゃ」
視線も向けない不機嫌な顔から飛び出た言葉は、青年の見た目からはかけ離れていた。しわしわの老人が使うような古い言葉がしわ一つ無い青年から出てくるのだから、初対面の人は驚きのあまり凍り付くだろう。
「大爺様、朝ごはんはもう食べったすよ。もう夕方だし。」
しかし青年を爺様と呼ぶ少女は慣れた様子で言葉を返す。爺様と呼ぶからには血縁なのだろう。
「ああ、そうだったのう。ん?ならお前はなぜ夕方に来るのじゃ。稽古は朝からするものじゃろう。」
「昨日大爺様が、畑をいじるから稽古は夕方からって言っていたじゃないっすか。」
呆れた顔を浮かべて少女はため息を吐く。またいつものやつが出たよとでも言いたげだ。
「それより大爺様。珍しく真剣な顔してたっすけど、何かあったんすか?」
「我が遠い孫よ。その間違えた敬語はいい加減に直すがよい。ふむ。先ほど儂が仙術を教えてやった精霊使いの気配が消えよってな。うまく成仏できたようじゃが、残滓が残ってるようじゃし、調べたほうがいいのう」
「精霊使い?……ああ、昔大爺様が仙界の作り方を教えたっていうひとっすか?」
「うむ……当時の儂と同じくらい強い奴でのう……。たしか五千年前……いや五万年前じゃったか?」
「五千年と五万年は幅が広すぎるっす」
自分の世界に入ってしまった青年の姿をした老人を見ながら、フフと呼ばれた少女は今日もいつも通りだなと考えていると、突然老人が少女に視線を向ける。
「そういえば、今はお前がいるんだったのう」
その言葉に、フフはとても嫌な予感を覚えた。
「お、大爺様?今日は珍しくしっかりと喋るっすね」
「今までは儂が直々に行くか、弟子か孫を行かせていたんじゃけどな。お前を行かせればいいかのう」
「大爺様。私はまだまだ未熟だから外には行くなって言っていたと思うんすけど!?」
「やはり実戦こそが一番の稽古じゃな。そら行ってこい」
「いや大爺様まってほし‥‥‥いぎゃー!」
青年にしか見えない老人が少女に手を添えると、少女は空に向かって飛んでいく。衝撃に吹き飛ばされるというより、空に落ちるという方が的確だろう。
いつか見返してやるっすからねという叫びをあげている少女は、小屋からある程度離れると空間に開いた切れ目に吸い込まれるように消えていった。
「世界が滅びる前に、間に合うといいのう」
「三人とも!まだまだこれからですよ!手足を四五回切り落とされてからが特訓の本番と知りなさい!」
「無理だろ……」
アレット達三人は依頼したいことがあると呼ばれて一か月ぶりに足を運ぶと、久々の弟子ができたつもりのヘレナに厳しすぎる稽古を受けていた。
初めてヘレナに合ってから一か月。アレット達はそれぞれ日常を送っていた。
三人で冒険者ギルドの討伐依頼を受ける傍ら、アレットは錬金術でポーションやマジックアイテムを生産し、商業ギルドのおじさんと話に花を咲かせていた。
ソフィアとモアナは二人で甘いものを食べたりや魔物の蔓延る森でキャンプをしたりと独特な日常を送っていたが、二人なら何をしても楽しいと嬉しそうに言っていたのでアレットも放置していた。
そんな日常を送る中で、この街で出来ることは無くなってきていた。アレットは最終的に故郷の復活を目標にしているが、なぜ自分のご先祖様たちが人間社会から離れたのか知るために世界を見て回るつもりだ。ソフィアとモアナもついてくるようだが、二人は明確な目的とかは無いのでアレットが他の街に向かうというならいつでもいいらしい。
次に行く街はもう当ては付いている。妖精が住むと呼ばれる神秘の森エニア。商業ギルドで出会った錬金術師のスタン曰く、錬金術師なら垂涎ものの濃密な魔力がこもった素材が採取できるらしい。特に魔力が強い水があるらしく、アレットの得意とする水属性魔術を使う錬金術の役に立つだろう。
そんな時に冒険者ギルドを通じてヘレナから指名依頼があると呼び出された。
あの人が依頼しなければならないことなんてあるのかと嫌な予感がしたが、断ることはできないのでヘレナの家に向かうと速攻で街の外に連れ出されて一か月の成果を見てあげます!と問答無用で稽古を受けさせられた。
「弱くなっていないのはいいですが、この一か月で全く成長していないのはいけませんよ」
そしてヘレナは三人が全く成長していないことが不満なようだった。
「俺たちは強くなりたいわけじゃないんだが……」
しかし、アレットにも言いたいことがある。
「俺はあくまで錬金術師で、ソフィアも魔術師で、モアナも……モアナは戦闘が専門だけど、1か月でヘレナさんに分かるほどの成長は無理」
アレット達には、何を置いても強くなりたいという者はいない。唯一モアナは戦闘要員といえるが、すでに十分強いので解体技術や獲物の追い方を学んでいる。そのためヘレナに稽古つけてもらえるのは貴重な経験だと分かってはいるが、喜ばしくはない。
「ですが、あなたたちは最近あまりレベルが上がっていないでしょう?」
「むっ。それは確かに」
しかし、ヘレナはアレット達が成長していないこと。正確にはレベルが上がらないことを問題視しているようだった。
アレット達が現在ついているジョブは【格闘家】や【大魔術師】など、冒険者を基準にすればC級からB級の冒険者が着いているジョブだ。C級やB級の冒険者というのは街一つ壊滅させるような魔物の討伐を一人で行う存在だ。アレット達もその水準に達している。
そしてジョブのレベルはそのジョブらしい行動をすることで上がる。街一つ壊滅させる魔物を倒せることが標準なら、武器を雑に振り回すだけで倒せるゴブリンならいくら倒してもレベルは上がらない。
レベルを上げることで能力値が上がり、ジョブによればスキルも獲得できる。
事実アレット達はこの街に来てからレベルはほとんど上がっていない。【大魔術師】のジョブに着いているソフィアは上がっているが、戦闘系ジョブである【格闘家】のモアナと、詳細不明の【境命士】のアレットは上がっていない。
しかし、ヘレナとも戦闘訓練では全員のレベルが上がるので、実際理にかなっているのは確かだ。
そうして論破されたアレット達は本当に手足がちぎれるまで稽古つけられた。鬼である。
≪【万象耐性】【生命力増大】【怪力】スキルのレベルが上昇しました≫
アレット達は草臥れたようにソファーに転がっていると、ヘレナは嬉しそうに飲み物を差し出してくる。
「依頼は遺跡の調査ですよ」
「遺跡?」
「ええ。この間貴方たちが見つけたゴブリンの巣穴に関することです。地上部分にあった遺跡が気になった調べたんですが、少し離れたところにもう一つ遺跡があったので、その調査です」
それを聞いてアレットは少し驚いたが、驚くようなことじゃないと思い直す。アレットのスキルでは発見できなかったが、それはスキル範囲外だったのだろう。
「調べるのはいいですけど、なぜ俺たちに?ヘレナさんなら自分で行った方が確実だと思いますけど」
「貴方たちに依頼するのは、単純にあなた達の腕を見込んでですよ。他にも強い人はいますけど、アレット君のスキルは飛びぬけて調査に向いていますから。私が直接行かないのは、あれですね」
そういってヘレナが視線を向けた先には、書類が山積みになっていた。




