25話 遺跡
その後もアレットたちは森を進み、様々な魔物を倒し途中で薬草を採取しながら進むと、植物系ではないゴブリン系の魔物が出てきた。
「ここのゴブリン異常に強いな」
この辺りに生息している植物系の魔物はランク3。大型の熊相当の魔物だ。
植物系の魔物は総じて状態異常にしてくる攻撃が主であり、魔物はランク1でも状態異常には人間よりも強いため数値で比較するよりは不可能ではない。
しかしランクの高い、つまり強い魔物は状態異常攻撃のそれを貫通するほど強力だ。ゴブリンを容易く栄養源にできる魔物がいる場所はゴブリンの住処に適していない。
「そのはずなのにゴブリンが生存できているってことは、【眷属強化】スキルを持っているゴブリンキングか、様々な強化スキルを付与できるゴブリンクイーンがいるんだろうな」
「冒険者ギルドもそう発表していたけど、本当みたいだね」
アレットが見解の二人に述べながら、三人は木を切り倒し広場を作って休息をとっていた。
「……で、アレット君の索敵範囲内にいるの?そのどっちか」
「いないけど、目星は着いたよ。なんか地下にいるみたいなんだよね」
アレットはユニークスキルで周囲の魔物を探っていたが、急に反応が消える場所があったので索敵範囲を変えてみると、東に五百メートル程度離れた場所の地下に魔物が大量に生息している場所を見つけた。
「じゃあ今からそこを潰しに行くの?」
「……腕が鳴る」
「いや待った。反応が多すぎる。少なく見て三千‥‥‥多くて五千くらいかな。一撃一殺しても体力が持たないよ」
剣士で言えば、最低でも素振りが五千回続けて出来なければ逃げ帰る数だ。しかもアレットのスキルでは相手の強さ……ステータスを見るには肉眼で見なければ発動できないため、アレットに分かるのは最低でもランク1ということだけで、上限は分からない。
「この間調べたけど、ゴブリンはランク1のゴブリンを基準にして、ランクアップすると剣や槍を使うゴブリンソルジャーや魔術を使うゴブリンマジシャンがいるらしい。ランク4のゴブリンキングはだいたい恐竜くらい強いらしい。
単体には負けるとは思わないけど、五千の半分がランク3以上だとこっちも死ぬかもしれないし、殲滅するために突撃とかは無しだよ」
冒険者ギルドで受けた依頼という意味では、もう十分だろう。正確には受けた依頼の内容は発生の理由だったが、ゴブリンの巣を見つけたのだからこれを報告すれば完了でいいだろう。
「うーん……。地下だと頭を潰して終わりってわけじゃないのよね。逃げ道が地上だけだから、一番下でボスを倒した後に地上まで脱出するけど、乱戦になるかも」
「……ていうか、恐竜ってなに?」
「ああ、竜種の下位互換だよ。ワイバーンのさらに下というか、大型の蜥蜴みたいな魔物のことだよ」
アレットは途中でいい薬草も手に入ったので十分満足し帰りたかったが、二人は一撃入れておこうと考えているようだ。
「あ、じゃあ水攻めとかできない?アレット君は水属性魔術がつかえるよね」
アレットがどう説き伏せるか考えているとソフィアはそんなことを言い出した。
「使えるけど、無理だよ。五千匹も住んでいて広さもそれ相応だから、魔力が全く足りないよ。それよりソフィアは火と風の属性魔術が使えるんだし、熱風でも送り込むほうがましだよ」
いつの間にかアレットとソフィアが攻略方法を考えてモアナが周囲を警戒する。そんな時間を過ごしていると、結局一度巣穴にまで見に行ってみるかということになった。
「遺跡じゃん」
アレットたちがたどり着いた場所は、遺跡だった。苔に覆われた石造りの遺跡で、ゴーレムらしき人型の石も遺跡と同化するように横たわっている。
「ああ、遺跡の隠し通路とかが地下につながっているのかな」
驚きはしたが、同時に他の冒険者が何も見つけられなかったということにも見当がついた。
冒険者は森や荒野、川や海辺といった自然の中で活動するのが主であり、遺跡などの人工物は不得意なのだ。盗賊職と呼ばれる者たちならば遺跡にも強く、隠し通路を見つけることも出来るが、その分直接的な戦闘能力が低いのであまり魔境には来ない。
魔境に埋もれた遺跡というのは冒険者には不得手な場所だったのだ。
「よし、隠し通路はここだな」
そしてアレットには隠し通路など隠されていないに等しい。周囲に魔力を流し魔物だけでなく地形も把握できるアレットのユニークスキルは情報を丸裸にする。複数ある隠し通路も地下にいる地上付近の魔物の位置と調整すれば一直線に正解にたどり着いた。
「さて、どうするか」
「……潜るんじゃないの?」
「まあここまで来たから、潜るのか賛成だよ。依頼は発生原因の調査だから、この巣穴に何がいるのか確かめたほうがよりいいだろうからね。ただ内部は光源が無いし、どうしたものかなって。魔術で明かりを出すのは最後の手段にしたいし」
「んー。じゃあゴブリンを燃やして光源にしない?」
「考えが物騒すぎるよ。……代案もないから、それで行くか」
考えが物騒と言いながら、特に反対しないあたりアレットも物騒である。
「……一応いうけど、私は猫の獣人だから、暗くても見えるよ」
「あ、やっぱり?俺も人魚の血が混ざっているから、実は結構見えるし鼻も効く」
「へ?じゃあ暗闇で回りが全く見えなくなるのって、私だけなの!?」
アレットたちはゴブリンの巣穴となった遺跡の地下に潜っていく。入り口の見張りであろうゴブリンを倒して松明代わりに丸焼きにして進んでいくと、すぐに異変に気が付いた。
「あれは……ゾンビキノコかな?」
巣穴にはゴブリン以外の魔物もいたのである。
ゾンビキノコはキノコ系の魔物の死体がアンデッドとして蘇ったもの……ではなく、アンデッドのような生体をしたキノコ系の魔物のことだ。
肉は腐敗して腐り落ち、体は穴だらけ。体表は黒に近い茶色で痙攣するように動くが、その動きは見た目よりは早い。弱点として光属性の魔術が有効だが、最初から腐っている体に物理的な攻撃はほとんど意味がない。
つまり、アレットたちの敵ではない。
「よし。こっちのキノコを松明にしよう。ゴブリンよりも燃えそう!」
「よく燃えそうとかエルフにあるまじき言葉だな。薬の材料になるから必要以上に燃やさないでくれ。風属性魔術で切り裂いても倒せるから」
「……私はゴブリンに集中する。籠手があっても近づくのは不味そう」
遠距離攻撃を複数持ち状態異常にも軽減できるマジックアイテムも身に着けているアレットたちいとっては見た目が気持ち悪い以上の効果は無かった。
「よし、この巣穴のボスはこいつだな」
それどころか巣穴の魔物の分布把握に役立った。アレットのユニークスキル【知恵の書】は魔力を周囲に浸透させることで地形や魔物を把握するが、魔物に関してはなんだかよく分からないが何かがいるという程度しか分からない。
しかし情報が増えるほどその精度は向上していく。
この巣穴にはこの生き物がいるという情報に当てはめていけば、おおよその体格しか分からなかった魔物の詳細な形も分かるようになる。
この巣穴にはゴブリンとゾンビキノコがいるという情報を手に入れた。ゴブリンはランクが上がってもその体格はそうそう変わらない。ランク1のゴブリンは身長七十センチ程度。ランク4のゴブリンキングは身長二メートル以上という違いはあれど、体格はそう違わない。キノコ系の魔物も大きさ以外に違いはない。
しかしこの巣穴の一番下の魔物が密集している場所には唯一そのどちらの特徴にも当てはまらない魔物がある。ボスだという確証はないが他の候補もいない。
「よし。じゃあこいつの正体を確認したら帰るか」




