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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
2章 風の都と呪われた弓使い
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23話 キノコの森の巨大キノコ

 アレットとソフィアがそれぞれ街で好きに活動している間、モアナは一人街の外にいた。

 アレットに強化されたガントレットと動きやすさを重視した軽鎧を身に着け、森の中を歩いていた。


(もっと強くなりたい……)


 冒険者で昇格試験をした日、アレットたち三人は軽い言い争いをしており、その際にアレットはモアナに俺より弱いだろうと言ってしまっていた。


(むかつくから絶対に顔殴ってやる)


 パーティーを組む理由は、お互いに不得意なことを補い合うためだ。しかし三人ができることを上げてみると、モアナだけは戦うこと以外に取り柄と言えるものが存在しない。


 モアナと幼いころから行動しているソフィアは魔術師だ。魔術は本来は戦闘用の技術ではなく、その属性の魔術をうまく扱う技術だ。モアナの戦闘系スキルとソフィアの魔術系スキルは同じレベルだが、モアナが前衛でソフィアが後衛に生活の支援と住み分け出来ていた。そのせいか戦闘能力もモアナのほうが戦った。

 アレットはユニークスキルを除いても弓術と魔術と錬金術を習得している。魔術を用いた錬金術が一番得意だ。同じ魔術師でもソフィアとは使える魔術の属性が異なるから住み分けも出来ている。それでいて弓術もモアナと同じレベルで習得している。それは世界最上位では決してないが、モアナと同程度には強い。


(でも、本気で戦っても勝てる気がしない)


 モアナはアレットを自分よりも格上だと認識していた。戦闘系スキルは同程度だが、装備や戦闘経験が違う。モアナは生まれた時から裏組織から暗殺技術を仕込まれた関係から対人戦に強い。市街地や屋内で戦うことを前提にしている。組織が壊滅してからはソフィアと共に魔物と戦った経験もあるが、主に暗闇から襲撃するような戦いが得意だ。戦闘経験も年齢にしては高いが、強くなるために何かをしたということは無い。

 対してアレットは故郷である船で巨大な魔物相手の戦闘技術を学んでいる。武技や魔術も広範囲高威力を使う。モアナが小刀で急所を狙い殺す暗殺者ならば、アレットは工業用採掘機で破壊する壊し屋だ。技量が劣っているわけではないが、戦闘能力の方向性が違いすぎて比較できないし、戦えば負ける。


(スキルレベルが高いほうが強いけど、向き不向きはある。技量が低くても遠距離なら弓術のほうが有利だし、近距離なら格闘術のほうが強い。アレット君が相手でも勝ち筋はあるけど……)


 相手が得意としている魔術も、まだ詳細を知らない強力なマジックアイテムも禁止なら勝てる。そんな現実ではありえない仮定に意味は無いということは分かっている。


(自力を上げてあの顔を殴ってやる!)


 モアナはアレットと敵対していないし、不仲でもない。モアナはアレットの下位互換ではない上、戦闘能力が劣っていても明確に何か問題が起こるわけではない。強くなければならない理由は無い上、アレットの役に立たなければいけないわけでもない。幼いころから裏組織に育てられらいたから戦闘技術を身に着けているが、モアナも強さへの執着もない。

 しかし、俺より弱いだろうと言われると頭にくる。まだまだモアナは幼いが、仮にも自分が今までの人生で鍛え続けた戦闘術を同い年の少年に弱いと言われると、一発ぶん殴って見返してやろうと思うのは当然だった。


 しかし今のままでは勝てるとは言えないので、強くなりたいと考えたが街の中で誰かに師事することも出来ないので、魔物相手に戦おうと街の外に出た。


 街のすぐ外に出没する低ランクの魔物では相手にならないので、強い魔物がいる森へと入った。


 しかし、思っていたほど歯ごたえのある魔物は現れなかった。


(植物系の魔物が多いだけあって、状態異常にしてくる攻撃が多いけど、アレット君にもらったポーションとマジックアイテムのおかげで効かないし、状態異常攻撃してくる以外はたいして強くない。噂は間違いだったのかな?)


 モアナの頭の中でアレットが「ちゃんと調べてから行け」「マジックアイテムもポーションも俺のおかげでモアナの力じゃないだろう」という幻聴が聞こえていた。実際にアレットは言っていない思い込みだが、今のモアナには区別がついていなかった。


 モアナが年齢不相応の高い戦闘能力を有していることもあってサクサクと魔物を排除し森の奥へと進んでいくと、背筋が凍り付くような危機感に襲われ、一足飛びに飛び退くと一瞬前にモアナがいた場所が潰される。


 訂正、モアナがいた場所も潰された。


「……でか」


 それはキノコの魔物だった。粘菌では無く、頭頂部に傘が付いたキノコというイメージそのものだ。モアナもここまでにキノコ系の魔物と遭遇している。胞子を飛ばして焼けるような痛みや動けなくなる痺れが脅威だが、状態異常耐性のマジックアイテムを着けているのでほぼ問題なく撃破してきたので、キノコの魔物というだけなら脅威ではない。


 しかし、その大きさが規格外だった。


 目測だが高さが五十メートルはあるだろう。地球でいえば体育館が縦に立ち上がり動いていると錯覚すると例えられるだろうか。キノコ系の魔物の特徴である胞子の効果は不明だが、その大質量だけでも大問題だ。


「……ぶっ潰す【身体強化】【圧壊】」


 しかし、モアナはためらわずに殴りかかった。無属性魔術で身体能力を強化し、得意の格闘術で破壊力に特化した打撃の武技で仕掛けた。

 それは自分よりもはるかに強い魔物と戦うという恐怖経験がないこともあるが、こいつを倒せば今よりも強くなれるという気持ちのほうが大きかった。


 モアナの全力の拳がキノコの胴体に吸い込まれるが、弾力にはじき返される。ならばと衝撃を内部に伝える武技や手刀で切り裂こうとしたが、傷一つつかない。いや、傷はついているが効いている様子は無い。

 

 その大質量を支えている身が分厚いと理解していたが、全く効かないとは思わず驚き固まると、キノコが軽く体を震わせモアナを吹き飛ばした。


 木々をなぎ倒し勢いが止まると、体に食い込んでいたこと木の破片を抜き取りポーションで回復し立ち上がり走り出す。

 キノコ系の魔物の物理的な攻撃では打撃しかなく切り傷はつかないが、この巨大キノコが相手では骨が折れてもおかしくないし、避けきれず直撃すれば磨り潰されるだろう。


 飛び跳ね踏み潰そうとしてくるキノコの攻撃を避け、胴体を駆け上がり勝ち筋を探すが見えてこない。


 そもそも植物系の魔物は心臓や脳といった分かりやすい急所もないので、どこに攻撃すればいいのか分かりにくい。


 救いと言えば巨大キノコの胞子による状態異常はマジックアイテムで防げたことか。


 モアナは知らなかったが、そのキノコの森と呼ばれる魔境の主の一匹である魔物は身体性能が高い代わりに状態異常攻撃を不得意とする魔物だった。


(そろそろ引かないとまずいかな)


 日が暮れるまで戦い少しずつ身を削る有効打を見つけていたが、モアナを大きく消耗していた。


 アレットとソフィアと違い回復魔術が使えないモアナはポーションを使わなければならない。ポーションをカバンから取り出しビンの蓋を開け飲むという手順を高速戦闘しながらでは出来ないので、モアナの体には傷が増えてきていた。

 対して相手はどれだけ消耗しているのか分からない。身を削りはしたが、まだまだ動かなくなる気配はない。そもそも身体機能が人間よりも高い魔物を相手に張り合うのは不利だ。


 勝てないのは悔しいが、これ以上は負けるだけだと判断し、魔境から離脱した。


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[良い点] なんだかんだいって 逃げる判断ができることは優秀
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