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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
1章 目覚めの島
13/62

12話 恐怖

戦闘終わらなかった。


俺、展開遅いかな。文字数を増やすか余計な文を削るか悩む。

 ダンジョン最奥の扉を守る謎の男――シエが身に纏う気配を豹変させた。身に纏う闘気も魔力も段違いだ。これまでが扉に近づけさせない守護者ならば、今はまるで外敵を排除する狩人だ。


 それを見た瞬間、ソフィアとアレットは咄嗟に魔術を唱えて攻撃した。

 これまでの連携訓練で、格闘術に秀でたモアナが前衛、魔術に秀でたソフィアが後衛、どちらにも程よく秀でているアレットは中衛という役割に決めてある。

 

 これまでの二人の戦い方はモアナが相手を撹乱しソフィアが強力な魔術で仕留めるものだ。アレットは状況に応じてどちらかに援護をすることになった。


 「かき乱せ【不調和の精霊】敵を焼け【炎雲の精霊】」


 しかし今まで武術しか使ってこなかった男が、今回は見たこともないような精霊術を使ってきた。


「なに!?」

「そんな!?」


精霊術が発動した瞬間。アレットとソフィアが発動し続けていた魔術が、突如発動しなくなったのだ


 今まで魔術を発動できていたのに、まるでジャミングでも受けたかのように魔力がうまく扱えなくなり魔術が暴発寸前だ。


 魔術を使える二人が態勢を立て直すまえに高温の雲が三人に向かって迫る。なすすべもなく飲み込まれ、呼吸が苦しくなるほどの熱波が三人を包んでしまう。


 何故か魔術が使えなくなり追加で熱波も襲い来る。この状況はまずいとアレットが打開策を考えていると。背後から爆発的に風が吹き荒れる。


「【風爆】!二人とも大丈夫!?」


 ソフィアが風属性魔術で圧縮した空気を爆発させ高温の雲を吹き飛ばした。


「ソフィア!?魔術が使えるのか!?」

「うん!普段の数倍の集中力がいるけど、なんとか!それよりどうする」

「……今までは私が時間を稼げた。でも今回は様子がおかしい」


 アレットは魔術が発動できなくなった瞬間、魔術を使えないと判断し選択肢切り捨てたが、ソフィアは使いにくいだけだと判断していた。ソフィアは魔術以外にできることがないという理由もあるが、ここは経験の差が出たようだ。


 アレットたちは次の行動をどうするべきか判断できないでいた。ソフィアとモアナは今までこの男と何度も戦い生還し相手の手のうちは把握している。今まで通り戦闘になっても対処できる。今回もアレットに自分たちの知識の一つを直接見せてあげる。その程度にしか考えていなかった。今までは幽霊のように存在感が希薄だった謎の男が、今回に限って闘志剝き出しで殺しに来るなど想定外も良いとこだ。

 その原因はアレットが不用意に何かをつぶやいたせいの気もするが、今はそんなことも言っている場合でもないだろう。


 謎の男の変化をもう少し観察すべきか、撤退すべきか、撤退できるのか、判断を着けることができないでいた。


 そんな風に三人が警戒しつつ目線を交わし会話をしているのに対して、精霊術を放った男は疑問の表情を浮かべていた。


 まるで、自分の精霊術を受けてこの程度で済むはずがないと言いたげに。


 男は確かめてみようと続けて精霊術を発動する。


 「咆えろ【風の精霊】」


 端的な呪文と共に放たれた精霊術は、龍の咆哮の様な爆音が衝撃波となって三人を襲う。


 しかし三人は警戒していたこともあり、咄嗟に耳をふさぎ目立った負傷も無かった。どれだけ大きくてもただの音なのだから、当然だ。


 それを確認した男は、この三人には魔術が効きづらいとでも考えたのか、目にも止まらぬ速さで接近戦を仕掛けてきた。


 最前線にいたモアナを無視し、その後ろにいるアレットに向かって。


「アレット君!そっちに行った!」


 今までは一番近くにいた者に襲い掛かってきた男が、今までとは違う行動をしたことに驚きモアナは反応できなかった。寡黙なモアナが大声を出すことを珍しがる余裕もなく。アレットは咄嗟にスキルレベル2しかない不得意な【格闘術】で応戦する。


 しかし相手は推測だが【格闘術】を10レベルにまで極めその上位スキルである【精霊闘術】を10レベルにまで極めているのだ。当然全く相手にならず態勢を崩され、武技を発動される。


「【精霊結束:炎精拳】」


 アレットは咄嗟に腕を十字に構えて防御を選択する。【神鉄骨格】も発動。骨格を神の鉄と称えられるオリハルコンへと昇華させる。


「がああああああああ!!!」



 しかし、この世で最も高性能な金属であるオリハルコンと同じ性能の骨を、謎の男は炎を纏わせた拳で殴り壊す。骨はひびが入り、骨を覆う強化などされていない肉はあまりの高温に一瞬で炭化し、その熱はアレットから急速に生命力を奪っていく。


 食らったのはたった一発の拳だというのに、アレットの脳裏には既に走馬灯が浮かんでいる。意識が落ちそうになるも舌を噛み無理やり意識を覚醒させ、【神鉄骨格】を発動させたまま男の胴体に蹴りを入れる。


 その一撃は防がれたものの、骨格の強度を上げ自分の体を顧みず武技を使ったおかげなのか、威力が男の計算を超えて吹き飛ばすことができた。

 

 そしてその隙を待っていたかのように、モアナが男に追撃を食らわせる。獣人の俊敏性を生かしても届くはずのない一撃であったが、男にはモアナが意識していなかったかのように反応できず直撃しさらに向かい側の壁にまでさらに吹き飛ばす。


「…あいつ。あんまり効いてなさそう。すぐ来るよ」

「アレット君、大丈夫!?今治すね!」


 単純な炎症ではなく炎という名の呪いでも受けたかのような酷い激痛に蹲まってしまっているアレットに、二人が駆け寄ってくる。

 モアナのいう様に、男に大したダメージは期待できない。距離をとれた以上の効果はなく、すぐにでも逃げなければ今度は無事では済まない。ソフィアはアレットの肉が焼け落とされたかの様な腕を見て悲壮な表情を浮かべながら、なんとか治そうとする。

 

 本来、回復の魔術はソフィアが使える風属性魔術よりもアレットが使える水属性魔術のほうが向いているのだが、激痛に蹲っているアレットにそんな余裕はないと判断し、ソフィアは自分が何とかしなければと考えていた。


 しかし、アレットの頭の中には腕の痛みも、駆け寄ってきた二人も、またすぐにでも襲ってくる男も、理不尽な運命に対する憤りも無かった。


(なんで俺は、まだ生きているんだ?)


 アレットの頭にあったのは、純粋な疑問だった。


 アレットと謎の男ことシエには、絶対的な差がある。

 この世界ではステータスを比較し数値が大きいほうが強いのだ。武器や属性の向き不向き、相性、数値にできない強さなどは、確かにある。しかしそういったことでは覆すことのできない絶対的な差が、二人にはあるのだ。


 地球では人間が熊を相手に素手で勝つことは、絶対に不可能というわけではない。何かしらの訓練を積み、最適な状況で、様々な幸運に恵まれれば勝つことはできる。

 しかし、人間が特撮アニメに出てくるような怪獣に勝つことは、絶対に不可能だ。勝ち負けではなく、それぞれを評価するものさしが異なる。現実と創作のような比べることがバカバカしい程の絶対に超えられない壁だ。


 アレットとシエにはそのくらいの差がある。それにもかかわらずアレットはまだ生きている。それがアレットにとって理解できないのだ。


 しかし同時に、その答えも理解していた。


(おそらくこいつには、自我がないんだ。知性が獣のように低いんじゃなくて、魂が抜けているとか、そういうレベルで。それゆえにこいつは、このダンジョンに精霊がいないことにも、自分本来の戦い方が出来ていないことにも気が付いていない。

 たぶんこいつは魔力で作られた人形。守護者として作られた使い魔だ)


 考えてみれば、一目見た時に気が付くべきだったのだ。魔力を消費すれば体が薄くなるなんて、こいつが魔力で出来ている証拠だ。その時から予想の一つとして考えていたが、人間そっくりの使い魔なんて聞いたことがなかったため確信が持てないでいた。


 使い魔というものは偵察などで使うため、動物を模して作るものだ。人間を模すなんて、ましては戦闘用の使い魔なんて、できるはずがない。本来はその通りだが、シエのステータスに魔力で肉の体を疑似的に作る【霊体】や精霊術などの肉の体を持たない精霊に関するスキルを持っていた時点で気がつくことができたはずだ。


 そして、この前の男には自我が無い。いわゆる体が覚えている動きを反復するだけならば、精霊がいないのに精霊術を使い、精霊術の性能が激減するのも当然だ。発動させるだけでも化け物と言っていいが。


 加えてこの男が使っているのは【精霊闘術】。名称やスキル構成から精霊がいることが前提となっている武術であり、精霊がいないこの場所では、それこそ柄だけの剣を振るう剣士のような状態にまで弱体化した。そんなところだろう。それならばモアナが今まで戦えていたことにも納得がいく。

 これがもしも【格闘術】の純粋な上位スキルである【格闘王術】であったならば、実力通りの力を発揮され、アレットたちはすでに死んでいただろう。


 相手は本来の実力が発揮できず、魔力切れで消滅するという限界もある、ならば勝てる!とは、アレットは考えなかった。


(剣士で言えば剣は柄だけ、身体能力は数十分の一だというのに、こいつは俺たち三人を圧倒している。こんな勝てるわけがない。いますぐ撤退……いや、逃げるべきだ)


 アレットの心はすでに絶望しおり、この場から逃げることしか考えていなかった。


 しかし、逃げ切れるとは思えない。まだ理由が分からないがあの男は俺に注目して攻撃してきた。入ってきた入り口にたどり着くまでに背中を見せたか殺される。後ずさりしていたら間に合うわけがない。

 アレットは間違いなく負けるという恐怖に襲われていた。


 そんなアレットの視界に、ソフィアとモアナが自分の前で、自分を守っている姿が見えた。


 アレットが思考している間に起き上がった男が【通刃連刃】という爪の様な斬撃を飛ばす武技で攻撃し、ソフィアは風の結界でそれを反らし、対処できない者はモアナが拳を切り裂かれながらもアレットには届かないように守っている。

 二人とも打開策は思いつかなかったが、三人のなかで最も知識が深いアレットならばなんとかできるのではないかと、希望を託すことにしたのだ。


 しかしそんな二人を見てアレットが思ったのは、二人の期待を裏切るものだった。


(こいつらを肉壁に……いや、捨て駒として使えば、自分だけは生き残れるかもしれない)


 アレットは恐怖のあまり、二人を切り捨てようと考え始めていた。


 もともと船にいた時は未来の戦士長と見込まれ、指揮官としての教育も受けている。場合によっては味方を切り捨てることも必要だと知識として知っていた。アレットは他人の痛みに涙を流せる人間だったが、前世の記憶が蘇ったことをきっかけに達観した視点を持つようになっていた。


 現状三人とも死ぬ以外の可能性は無い。しかしこの二人を捨て駒にして時間を稼げば、自分だけは生き残れる。自我が無い男を罠にはめることは簡単だ。三人死ぬところを一人は生き残れるのだから計算上利点しかない。罠の内容を二人に話すと反発され、結局三人とも死ぬ結果で終わる。ならば俺が生き残ることが正解だ。


 作戦はすでに思いついた。さあ、二人には嘘の作戦を吹き込み俺が生き残るための捨て駒になってもらおう。


「――――――――――。」


 しかしアレットの口からは、なにも出てこなかった。


(おかしい。どうして声が出ないんだ?声帯に異常はない。肺も無事だ。ではなぜ?)


 自分の考えも行動も正しいはずなのに、論理的に考えて正しいはずなのに、生き残り知識を繋げることを至上とする船で育ったアレットは、自分の行動に間違いなど無いと断言できる。


 しかし、アレットは気が付きた。間違っているはずがないのに、何故か胸が痛いことに。


(……なんだ?なんで痛むんだ?なにか間違っているのか?いや間違っていない。ならば何か見落としているのか?)


 その痛みは、良心の呵責でも、善と悪の自分同士の戦いでも、三人で過ごし育まれた絆でもなかった。


 それを一言で言うなら、ケアレスミスに気が付いた時の痛みだった。


 その考え方はあっている。しかし、前提を間違えている。以前してしまった失敗から学んでいない。そう言っているかのような、エラーを知らせるような不快感が、アレットを襲っていた。


 いまの自分の考えが間違っていないならば、過去の何かを見落としている。それは何だ?


(あっ……、わかった。俺は故郷がなくなって、独りぼっちになった時、泣いたんだった)


 アレットとすぐに自分の見落としに気が付いた。自分は、泣いたのだ。故郷が消え、この世界で独りぼっちになったとき、自分は絶望のあまり泣いたのだ。


 生まれた者はいつか死ぬ。それは知っている。当然だ。そんな日は、ある日突然来る。それは世界の真理や理、法則の様なものだ。

 それは、いいのだ。人間は全能ではない。絶望に抗えないことも、抗えど負けてしまうこともある。


 だが、そんな絶望に加担すること。それは、できない。それは、当然のことじゃない。おかしなことだ。間違いだ。間違いならば、正さなくてはならない。


 自分が自分の意志で、大切な誰かを死なせてしまう。助けられないのではなく、死ぬように仕向ける。それはだめだ。自分の心は持たないだろう。ならば、避けなければ。


 ソフィアとモアナが、今はもういない故郷のみんなの様に大切な存在なのかは、分からない。


 しかし、そうかもしれないならば、死なせてはならない。見捨てることも、死なせることもダメだ。


 ならば誰も死んではいけない。三人で生きて帰るのだ。


 そう結論を出したアレットは、二人には見せていない、自分では扱いきれたこともない、しかし三人そろって生きて帰れる唯一の切り札を使うことにした。


「二人とも下がってて、俺がやる」


 えっ?そうどちらかが、もしくは二人ともが呟くよりも早く、アレットは船のみんなから託されたアイテムポーチから、10万年以上続いた船で生まれた双弓を両手に着け、弾幕に向かって駆け出した。


しばらく日曜か月曜の0時に投稿する。


次で戦闘終了。その次は説明回。その次で島から脱出。その次で新章。になるといいな。

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