11話 謎の男
「ここがダンジョンの入り口か。こんな神社の奥まった場所にある入り口によく気が付いたね」
「褒められるようなことじゃないわよ。まっすぐ歩いていたら正面に入り口があったのだもの」
「‥‥‥‥ここよりも、中のほうがすごいよ」
アレットたち3人は、岩山の山頂にある神社のダンジョンの入り口に立っていた。
島には生命で満ちているというのに、虫一匹いないほど静かな神社。そこにあるダンジョンの入り口だ。このダンジョンの最奥に居るという謎の男の元に行ってみることが目的だ。
アレットとしてはこの謎の神社も岩山も気になるが、この島で最も異質なその男について調査することにしたのだ。
ちなみにアレットの敬語は矯正できた。前世の老人まで生きた記憶があるため少女相手に不安だったが、今の自分も子供であり、もともと船では同年代の友人や同じ戦士団の人たちが相手にが自然体でため口だったで、思いのほか早く修正できた。
そして3人はダンジョンの最奥まで一気に進んだ。ここはダンジョンであるにもかかわらず魔物が出ないため、道順を知っている2人に先導してもらいながら移動した。
「…道順って言っても、一本道だよ?」
「アレット君が寄り道しようとしなければ、もっと早く着いたと思うけど」
「はっはっは。いやごめんなさい面目ないです」
正確には、好奇心のまま道中にある建物に突撃しそうなアレットを2人が引きずりながらである。
研究者の集まりの様な船で育ったアレットも、当然研究者としての気質がある。ダンジョン内の建築物という謎の塊に何度も突撃しそうになってしまった。
その建築物が、前世である日本の伝統的な建築物にどことなく似ていたことも、無関係ではないが。
そんなアレットの子供らしい、正確には年相応な反応を、同い年のはずの2人は年下を見るように呆れつつも嬉しそうにしながら最奥に到着した。
「あれが謎の男か。思ったより……普通だな」
ダンジョンの最奥で謎の男をみたアレットの第一声は、なんとも反応に困っているような口調だった。
実際、それも無理はない。その男は特筆できる特徴がないのだ。強いて言えば黒い道着姿に黒い籠手、他には黒髪黒目が特徴といえるかもしれない。
武術や拳法の達人。もしくは若き天才格闘家。そういう表現が的確だろう。
見た目は地味だと話に聞いてはいたが、有りえないほど強いというイメージとの差に気が抜けてしまう。調子を外されたとでもいうべきか。
ちなみに外見年齢は20代に見えたので「若いな」とも思ったが、現在8歳のアレットが何を言うかを自分で思ったので口には出さなかった。
「見た目が普通っていうのはわかるけど、油断しちゃだめよ。あいつは有りえないくらい強いから」
「…油断しちゃだめ。アレット君は強いけど、あれはそれ以上に強いから」
緊張が緩んでしまったアレットに2人が声をかけ、何とか気を立て直す。
「そうだな。悪い、気が抜けていた。とりあえず俺があいつの能力を見てみるよ。【知恵の書】発動」
動揺から立ち直ったアレットは、まず【知恵の書】で男のステータスを調べることにした。
【鑑定の魔眼】は相手との力量差が大きいと表示されるステータスが文字化けしてしまうが、その上位能力を含んでいる【知恵の書】は相手がどれほど強くても妨害能力がない限りステータスを正確に開示できる。
そのため、アレットは男のステータスを正確に見ることができた。
そして即座に後悔した。もしかしたら、知らないままのほうがよかったかもしれない、と。
・名前:シエ
・種族:人種
・年齢:約5万歳
・称号:【精霊闘士】【精霊の化身】【遍歴の聖者】【魔王殺し】【消失者】
・ジョブ:―――
・レベル:―――
・ジョブ履歴:見習い戦士、戦士、格闘士、魔戦士、魔闘士、武術家、精霊魔術師、精霊闘士、精霊使い、大精霊使い、霊龍使い、霊神使い、冒険家、超戦士
・能力値
生命力:487,230
魔力 :313,452
力 :49,012
敏捷 :30,143
体力 :39,009
知力 :42,876
・パッシブスキル
全能力値増強:8Lv
全属性耐性:7Lv
状態異常耐性:10Lv
気配感知:6Lv
無手時攻撃力増大:8Lv
無手時魔術力増大:8Lv
非金属鎧装備時敏捷増強:8Lv
精霊超強化:5Lv
・アクティブスキル
精霊闘術:10Lv
大精霊魔術:10Lv
魔術精密制御:7Lv
連携:7Lv
無属性魔術:1Lv
鎧術:6Lv
限界超越:3Lv
魔籠手限界超越:3Lv
忍び足:6Lv
料理:2Lv
家事:2Lv
霊体:1Lv
・ユニークスキル
精霊結束:終式
精霊創造
降霊体合
・状態異常
部位欠損:全身
忘却の呪い
消滅の呪い
(…………は?なんだこいつ!ジョブ履歴が14個に、能力値が一万越え、それに上位スキルらしきスキルのレベルが10だと!?そんなばかな!ありえない!!)
アレットは読み取った情報を、真っ先に何かの間違いだと悲鳴を上げるように否定した。
だがほんの一か月前に手に入れたスキルとはいえ、今まで自分の一部として使ってきたスキルを否定できない。間違いなく正確な情報のはずだ。
しかし、そんなことあるはずがない。
まず能力値がありえない。人間は魔物と比較すると能力値が低いのだ。
アレットが知る限り、ジョブチェンジする前の人種の成人男性は生命力30、魔力を含めた他の能力値がそれぞれ10で人並と評されるはずだ。
全力を出せば剣の一振りで小山を両断するような超人で能力値が数千。そんな超人たちが相手をするドラゴンや巨人、天魔といった超高位の魔物でようやく数万。
たしかアレットの故郷にあった資料によると、力が一万あれば武術を全く使えなくても拳を振るうだけで城壁を粉砕できるはずだ。
加えて、スキルレベルも常軌を逸している。
スキルレベルは1レベルで素人の趣味と同程度。5レベルで徒党を組めば竜と戦える程度。10レベルでは災害と評される魔物を個人で討伐できる程度だ。
そしてスキルには上位スキルと呼ばれるスキルが存在する。
人間が持つ【筋力強化】と魔物が持つ【怪力】といった、生物としての性能の違いから上位下位の関係にあるスキルではなく、【剣術】と【剣王術】、【火属性魔術】と【火竜魔術】の様な限界まで極めたスキルのさらにその先にあるスキルだ。
上位スキルに変化するとスキルレベルは1になるが、それは劣化したのではなく、それまでのスキルを極めたことが最低条件のスキルなのだ。
目の前の男が持つ【精霊闘術】と【大精霊魔術】。名称から【格闘術】と【精霊魔術】の上位スキルと予想できるが、そのスキルレベルが10など、アレットには想像以上の何かという無意味に等しい予想しかできない。
ジョブ数に関してもそうだ。正確に言えば見習い系のジョブを網羅すればジョブ数自体は稼げるが、目の前の男のジョブ履歴は一つのものを極めている。そんなにジョブチェンジを繰り返すなど、何度試練を超えてきたのか分からない。途中で死んでいないことがおかしい程だ。
人間で能力値が数万、上位スキルのレベルが10など、超高位の魔物のさらに上、邪神や悪神といった神話級の存在と戦えるレベルだ。
神の時代が終わった現在、そんな人間がいるなど信じられない。ましてやそれが目の前に居るなど、あっていいはずがない
しかし目の前の現実を否定することもできない。
アレットのスキルである【知恵の書】の鑑定能力は対象となる存在を含めた誰かが情報を持っていればそれを開示できるスキルだが、本人も含めて誰も知らないことは開示できないのだ。
あまりに有りえない情報の羅列に【部位欠損:全身】ってそれは部位ではないだろうと冗談を言う余裕もない。
アレットがあまりの衝撃に硬直していると、それを不思議に思ったソフィアとモアナが話しかけてくる。
「どうしたの、急に固まっちゃって」
「……気分崩したの?」
まだ何も知らない二人にアレットが知った情報を伝えると、二人も衝撃を受けて唖然とする。
「いやいやいやいや、でも私たち、あいつと今まで戦えていたわよ。防戦一方だったけど」
「……それが本当なら、私たちじゃ一合ももたないはず」
二人の疑問も当然だ。その反応を受けてアレットが自分の予想を口にする。
「俺もそうだと思うけど、たぶんあいつの【状態異常】が関係していると思う。【呪い】とか【部位欠損:全身】とか表示されているから、能力値が激減しているとか、体が思う様に動かないとかで、弱体化しているんだと思う」
たぶんが連続する予想に意味があるとはアレット自分思わないが、二人が今まで戦えていた理由はほかに考えられなかった。
アレットだけでは判断できないことがまだまだあるため、二人に伝えるようにステータスを読み上げた。
「他には……現在のジョブとそのレベルが文字化けしてる。あと【霊体】っていうスキルや、称号に【魔王殺し】や【消失者】って表示されてる。
あと名前が……シエっていうらしい」
アレットが言った瞬間、目の前の男が、いままで眠っていたかのように、あるいは死んでいるかのように微動だしなかった男が、それだけは聞き逃せないとばかりに目を見開き、生き返ったかのように強烈な気を放ち始めた。
次週こそ、日曜に投稿、できたらいいな。次は戦闘回の予定。




