85 追放される
しかし、おかしな状況になった。
闘技大会の控え室で試合の様子を眺める。
内容は全く頭に入って来ないが。
闘技場の観客席。
今まで気付かなかったが中心部に雛壇がある。
そして、その中に見知った顔。
獅子王と真珠姫。そして、姫の護衛役としてリーザとジルヴァラ。
あの二人があそこに居ると言うことは闘技大会は不参加という事だ。
そして、その周囲にも取り巻きを控えさせた偉そうな顔が三つ、四つ。
その中心に座る、恰幅の良い人物。
それがこの国の王だろう。
金牛王と言ったか。
正直、恨まれる覚えは無い訳で。
しかし、獅子王の側に俺の知る護衛の人が居ないのは何故だろう。
王宮内では常に側にいた筈なのに。
ひょっとして、あの獅子王、影武者か?
観客席に視界を転じる。
ウミと獅凰、ピエラと並んで少女が何かを頬張りながら談笑していた。
出番を待つそんなひと時。
それは、控え室の扉を叩く音に中断される。
誰かがノックして居る。
生憎、訪ねて来る様な人物に心当たりは無い。
誰だ。
銃を手に持ち、小さくドアを開ける。
その隙間の向こうに居たのは、先程存在を確認出来なかった獅子王の護衛の人である。
「王から伝言が」
静かにそう言う。
敵意は無い。
静かに扉を開けると、すぐに身を擦り込ませて来る。
「『今は下手に抵抗するな。後で船に来い』。
以上です」
「それは?」
「私からは何も」
「船は?」
「港に停まっている、青い旗の付いた船です。ご存知ですよね? レオの国旗です」
王冠を被ったライオンの立ち姿が描かれた国旗。
レグルスの王宮で何度も見た。
顎を引いて首肯する。
「大会の後、一時間程で出航します」
それだけ言い残し、彼は静かに去って行った。
◆
「始め」
「全弾・星降る如く」
開始直後に全力で弾の雨。
対するはマーカスと言う体長程あろうかと言うデカイ盾を持った全身鎧の戦士。
その盾を上に向け、降り注ぐ弾を遮る。
「貫く投槍」
放たれた槍が盾の無くなった正面から迫り、そして、呆気なく戦士の兜を貫いた。
「勝負有り」
上がる歓声の中、見上げた雛壇。
金牛王の真っ赤な顔が目に入った。
その並びで獅子王が苦々しい顔をして居るのが印象に残った。
あと、魔王さん。
そこで親指立てるのはお下品な事ですよ?
◆
さて、祝勝会かな。
控え室を出る。
そこに、完全武装のNPCがズラリと並んでいた。
なんぞ?
「貴様に国外退去命令が出ている。これよりそれを執行する」
「は?」
その一言で、一斉にNPCが手にした槍の穂先を俺に向ける。
十重二十重に取り囲まれた俺は正に重罪人。
「大人しく従えば拘束はしない」
先程訪れた護衛の人の忠告を思い出す。
小さく息を吐き、両手を小さく上げ同意を示す。
先導する様に歩き出すリーダー格。
それに付いて歩き出す。
更に後から槍が付いてくる。
「そういや、罪状は?」
返事は無い。
ハハハ。
この世界には司法機関とか無いのかね?
闘技場の出口。
そこに先程戦ったマーカスが居た。
「何だ!? これは!」
「お前には関係の無い事だ。下がれ」
出口を塞ぐ様に立つマーカス。
「ふざけるな! 勝者に対し何と言う仕打ちだ!」
「下がれ。自由騎士風情が!」
「何だと!」
何か、揉め出したよ?
「お前ら如きが口を挟む問題では無いと言っているんだ。面汚しが」
そう言って手で邪魔者を押し退けるリーダー格。
一歩下り、道を開け、その怒りを壁にぶつけるマーカス。
大きな音が、闘技場の通路に木霊する。
それを横目に見ながら闘技場を出る。
そして、思わず顔を顰める。
外に俺を迎えに来たであろう一団。
その中で一際血の気の引いた顔をして居る少女。
笑みを浮かべ手を振る。
「ハルシュ!」
「大丈夫」
とは言ったものの大丈夫には見えないだろうな。
ウミに視線を送る。
小さく頷くウミ。
伝わった。
何が伝わったんだろう?
まあ良い。
多分、何とかなだめてくれるだろう。
ウミは少女の肩にそっと手を置く。
少女から目を離し正面を向く。
無言で歩く鎧姿。
何でこんな事になっているんだろう……。
それを考えるが、いまいち心当たりが無い。
獅子王ならば俺を納得させる言葉を持っているんだろうか。
やがて、連れてこられた先。
そこは港。
まさか、ここから船で移動か?
しかし、それは甘すぎる考えだと直後に思い知らされる。
リーダー格に促されるままに、港の淵に立つ。
「これも役目故、恨むなよ」
そう言って何かの液体を振り掛ける。
目の端に一瞬、『Resist Paralysis』と言う表示が浮かぶ。
直後、背中を押される。
そのまま体が空へ。
重力に引かれ落下を始める。
国外退去ってこう言う事か……。
そこは即ち空。
つまりは死。
しかも、ご丁寧に麻痺をさせる念の入れ様……。
「アリアシア」
『ハルシュ!』
落ちながら少女に通信。
「ちょっとトラブルになっているけど心配するな」
『大丈夫なのですね?』
「大丈夫。祝勝会、行けそうに無いから俺の分も食べてくれ」
『はい! 後で何を食べたか全部教えますから!』
それは、要らないな。
通信を切る。
そろそろ良いか。
浮遊し、落下を止める。
そのまま島の裏から回り込む様にタウラス島の上空へ。
上からアルデバランを見下ろす。
この国は、俺を殺そうとした。
許せるか?
許せる訳無いよな。
しかも、国外退去なんて言い方で。
背後から突き落とすなんてやり方で。




