84 リーザの宿に呼び出される
アルデバラン、闘技大会本戦の少し前。
リーザから呼び出される。
……宿屋へ!
しかも、一人で来い、と!!
どうしよう。
体の準備がまだ出来てない!
神話級のアイテムとか、要らんのです!
男の、男の体を下さい!!
指定された部屋をノックする。
「はい」
中から返ってきたのは……男の声?
扉が開く。
その中から顔を出したのは……男……。
「間違えました」
アレ? 隣かな?
「いやいや、ここで良いんだよ。てかさ、何回も連絡入れたんだぜ?」
「あ、そう言うサービスの人じゃないんで」
出張サービスとかと間違ってるな。
「あ、ハルシュさん、もう来てましたか」
廊下の奥、こちらに歩きながら声を掛けてきたのがリーザ。
やっぱり部屋を間違えたか。
「すいません。失礼しました」
ドアを開け放つ男に再度謝りを入れ、辞去しようとする。
「いや、だからここで良いんだって」
しつこいな。
「どうしたんですか?」
リーザが側に来た。
「いや、部屋、間違えてノックしちゃったみたいで」
「え? ここですよ?」
「ほら、早く入れ」
……?
え?
「三人で?」
俺の問いに頷くリーザ。
いやいやいやいやいや、男は受け入れてない!
「……ちょっと、それは、無理……かなぁ」
男は受け入れてない!!
「おおっぴらに出来る話じゃ無いから早く入れって」
リーザが強引に俺の背中を押し部屋の中へ。
男がドアを閉める。
……話?
ベッドと机、そして椅子が二脚置かれただけの簡素な宿屋の一室。
椅子の一つにリーザが腰を掛ける。
俺は身の安全を確保すべく、窓際に立つ。
何かあればここから窓を打ち破って逃げよう。
「座れば?」
男が椅子を指し示すが、首を振って拒否する。
「あっそ」
椅子を引き、腰掛ける男。
そして、馴れ馴れしく話しかけてくる。
「魔王ちゃん、元気?」
「……知らない」
何だ? こいつ。ファンクラブ会員か?
「近況とか、画像とか無いの?」
「無い」
「あの、トーヤさん? 今日はそういう話ですか?」
堪りかねたのであろう、リーザが言う。
……トーヤ?
「あ!」
俺が上げた声に、二人が顔を向ける。
「お前、アレか! 白刃のトーヤか!」
「は? 何だよ! その反応!!」
「え!? まさか、気付いてなかったんですか?」
「うん!」
「何でだよ!」
「そうかそうか! お前か! 思い出した! 刀は手に入ったのか? 見せてみろ。真っ二つにしてやる」
「まだだよ!」
「何だ」
「つーか、忘れんなよ! フレ登録してんだろ! 連絡入れてんだから返事しろよ!!」
「……拒否ってる」
「ざけんなぁ!!」
椅子から立ち上がり叫ぶトーヤ。
うるさいなぁ。
「ま、そういう事だと思ったので私から連絡取った訳です」
と、リーザ。
なるほど。
リーザに呼び出された訳じゃないのか……。
「そっか……えっと、もう帰っても良いかな?」
失意のドン底です。
折るべき刀も無いし。
「何も話出来てねぇじゃねーか!」
「どんな用事が? 魔王はあきらめろ」
「あきらめねぇよ!」
「二人共、ジルの事は置いておいて」
咄嗟にリーザが逸れかけた話の軌道を戻す。
「アンタさ、手配されてるぜ? 何やった?」
椅子に座り直し、一拍置いてからトーヤが俺に向かって言った。
「手配?」
「そう。それも、裏のブラックリスト」
「裏のブラックリスト?」
「犯罪者が載っているリストとは別物。個人、もしくは団体が懸賞金を掛けて身柄の確保を依頼してる奴だ。場合によっては生死も問わない。
俺の飯の種でもある」
「そんなのがあるのか」
「元締めは裏のギルド。とは言え、チンケな額じゃ請け負わないし、不備があると裏のギルドが敵に回る。基本、堅気は載せないらしい。
真っ当に生きてりゃ縁のない話だ」
「真っ当に生きてるけどな」
「生きてないから載ってるんだろう」
手配、ねえ……。
「それもな、かなりの高額だ」
「へー」
その後、トーヤが告げた金額は驚くべきものであった。
リーザが目を丸くしている。
「いやいやいや、なんだそれ?」
「ま、最高額ではないから安心していい」
「更に上がいるのか」
「プレイヤーじゃないけどな」
「一体何が起きてんだ?」
「裏ギルドの方も、請け負っては見たものの特にこれと言った悪行も聞かない奴に高額すぎるって事で警戒している。
依頼が胡散臭いってな。
始末して見たものの、金は支払われず請け負った奴も消される。過去にそう言う話が無かったわけじゃないみたいだ」
「でも一旦は受理したんだろ?」
「それだけ太い客って事かもな」
「誰なんだよ」
「さあな。それは流石にバラさないだろ」
「それは取り消せないのか?」
「もちろん客が取り下げれば手配は無くなる」
一体、依頼者は誰なのか。
「てな事情があるから、この手配書を見ている手練も簡単には手を出そうとは考えないだろう。NPCは特に。
でも、まあ、警戒はしておいた方が良い」
そこで一つ思い至る。
「これ、何時からだ? 俺が載ったの」
「一週間くらいまえじゃねーかな」
「毒矢を使うPKプレイヤー。知ってるか?」
「話には聞いたことはある。名前は知らねー。食らったやつはほぼ即死らしいな」
「そいつが狙ってきたのもこれが原因か」
「既に襲われてたか。ま、そうだろう。LPを欠損させれば何割かは金が支払われる場合もあるからな」
何割か……。
例え、十分の一と見積もっても安くはない程の金額……。
参ったな。
いつの間にか周囲が敵だらけとは。
ま、街中ならかろうじて安全なわけだが……。
それでも十二分に面倒な事態である。
「何で教えた?」
そもそも目の前のトーヤの狙いすらわからない。
「何か裏がありそうだからな。
こんな額、プレイヤーの出せる範疇じゃない。
てことはNPCだ。
ふざけた話だろ? ゲームキャラがプレイヤーを搦手で殺しに来るとか。
あるいは裏で運営でも動いてるかも知れない。
不都合あるなら堂々とBANしろよ」
「いやいや」
「ていうのが俺の正義に反した訳だ。
それに、アンタの側で魔王ちゃんが巻き込まれないとも限らない」
ふーん。正義と魔王、ウエイトが大きいのはどっちだろうね。
「どうしてこうも面倒な事態になってくのかね……」
「普段の行いの所為だろ」
失礼な。
両腕を組んで天井を仰ぎ見る。
いっその事……。
「リーザ、山分けしないか?」
「え?」
軽く笑みを浮かべながら彼女に提案。
「俺を殺して、その金を半分持ってハマルに迎えに来てよ」
「バカなこと言わないで下さい!」
いや、名案だと思ったんだけど……。
そうすりゃ、LPは回復した上でいきなり大金持ちだ。
呪いの効果も無くなり少女とも縁を切れ、さらには、男として生まれ変われる!
データロストしたところでそれ以上の見返りが有るなら、飛び付くべきだろ?
まあ、飛行は諦めざるを得ないが。
「ダメかな?」
「駄目です!」
何でだろう。
「じゃ、六、四で?」
まあ、リーザにもペナルティの恐れはあるので一割譲ろう。
「そう言う事じゃないんです!」
「さっきも言ったけど実際、金が払われる保証は無いからな」
「お金の問題じゃない!!」
立ち上がり、そして、肩を震わせるリーザ。
んじゃ、仕方ない。
白刃に三、七で頼むか。
もちろん白刃が三。
視線をトーヤに向ける。
「お前は?」
「乗らねーよ。裏の依頼でそんな大金手に入れたなんてすぐ知れ渡る。
それでノコノコとハマルで落ち合って見ろ。
あっという間にハイエナ共の餌食だぞ?
レベル1で切り抜けられんのか?」
言われてみれば確かに。
リーザがこちらを睨みながら近づいて来る。
そして、その平手が全力で俺の頬を叩く。
「だから! そう言う話じゃ無いんだぁ!」
首が飛ぶかと思う様な衝撃の後、リーザの叫びが届く。
「ハルシュさんが死んだら、アリアちゃんが悲しむのがわかんないんですか!?」
いや、それはわかるけど。
両目にたっぷりと涙を溜めたリーザが続ける。
「ハルシュさんを殺そうなんてふざけた話があるなら、私もジルも全力で守ります!
それなのに!
何で、自分から死のうとするんですか!?
そんなにお金が欲しいんですか!?」
金より面倒事から逃げたい気持ちの方が大きかった訳だが。
……この様子だとアカウント作り直してもハマルに迎えに来てもらうのは無理そうだな。
ジルヴァラも同じかなぁ?
「なあ、依頼人って見当も付かないのか?」
トーヤに問う。
「どれくらい信憑性があるかわかんねーけど、ポツリと漏らした情報ならあるぞ」
言え。
目で促す。
「どこぞの王様なんじゃねーかってさ」
あー。
どっかの王様が俺に激昂してるとか言ってたな。
「リーザ、俺は国を挙げてのお尋ね者みたいだけど」
「だから、何なのです!」
「相手は王だ。そんなのを敵に回して怖く無いの?」
「相手が王なら、こっちは女王を持ち出します!」
ハハハ。
魔王は世界を、修羅は国を敵に回しても俺を助けるってさ。
何、この状況。
普段の行いの所為だよな。
そんじゃ、ま、そんな彼女達の期待を裏切らない様にしますか。
「そんじゃ、ふざけた話はぶっ壊そう」
「ハルシュさん!」
「あんまり弱気だとまた平手が飛んで来るからな。
ありがとう。目が覚めた」
その言葉に顔を真っ赤にするリーザ。
「俺も一枚噛むぜ! だから魔王ちゃん紹介して下さい」
それ、本人から拒否られてるんだから諦めろよ。




