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81 パンツを見上げる

 舞い上がっていた!

 それは認めよう!

 その結果、ピエラの手には真新しい杖が握られている。

 智杖プリティヴィー。

 神の名を冠したと言うその杖は、魔力を高め人々を癒す、らしい。

 いや、高かった。

 慰謝料兼口止め料としてタカられた。

 まあ、運営に告げ口されてペナるのも嫌だったし。

 そして、何より気分が良かったからな!

 気にしない気にしない!


 ◆


「お待たせー! あれ? 武器買ったの?」

「でぇす! ウミさん、アイツ、頭おかしいでぇす」

「うん。知ってる」


 待て!

 お前らも大概だからな!


 ◆


「食べて! 歩く!」


 ウミの号令の下、いざ出発。

 空白の地図に浮き出た情報によると、ペルシアンの街の西にあるらしい。

 とはいえ、状態異常防御、と言う要求を打ち込んで浮き出ただけの地図。

 そこに何が有るのかは行って見なければわからない。


 さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。


 ◆


「眠れる微風《スリーピング・ゼファー》」

「貫く投槍(サールジャベリン)」

「光を切り裂く風《エア・シックル・ダーク》」

「今だ、走れ! 取寄(アポート)」


 手元に投げた槍を引き戻しながら、進行方向を指差す。


「アリア、行くよ!」

「はい!」


 ウミが少女を伴い先頭を駆ける。


「ピエラ、もう少しだ」

「でぇす……」


 俺は、横でへばっているヒーラーを励ます。

 その返事、どっちなんだよ。


「クソ、後ろから新手だ。走れるか?」

「でぇす……。回復(ヒール)」


 重い足取りで、しかし、前に走り出すピエラ。

 去り際に、俺に回復魔法をサービスする余裕はまだあるらしい。

 いや、殿(しんがり)よろしくと言う無言の圧力かもしれないが。

 ま、言われなくてもやるけど。


「乱れ撃つ(ランダム・シュート)」


 弾丸が放たれた、その奥から奇声が次々と上がる。


 草に覆われ、朽ちたと言っても良い石畳の跡。

 木々が生い茂る中を進んでいた。

 街で聞いた所によると、この先に遺跡があるらしい。

 しかし、当然行く手を阻むモンスター。

 樹上より襲い来る白い猿。

 その数、そして、僅かに連携の取れた動き、さらに、個体の強さ。

 その全てが、今までの島とは比べるべくも無く。


 目的地に着くまでに、既に全力に近い戦いを強いられている。


「クッソ、ちょこまかと!」


 相手は頭上に広がる木の枝の上を飛び回り、隙を見てこちらに飛び掛って来る。

 そして、噛み付く、もしくは、引っ掻く。

 しかし、それはまだ良い。

 そのまま捕まえて串刺しにすれば良いのだから。

 面倒なのは枝の上から、木の実やらを投げつけて来る事、そして、その中にツバを飛ばす奴がいる事。

 木の実は、ウザいし、ツバは臭ぇ……。

 そして、それを食らう度にキーキーと嬉しそうな奇声を上げる。


『ハルシュ! 森を抜けた!』


 ウミから通信。


「了解! 乱れ撃つ(ランダム・シュート)」


 後方に弾を撒き散らし、反転、滑空。

 石畳の痕跡の上を飛んでいく。

 後方から何かを投げつけてくる気配があるが気にしない。


 前方を走るピエラが目に入る。

 頑張って走る。

 そして、凸凹になった石畳に脚を取られ、盛大に転ぶ。

 ……スカートがめくれ上がりパンツ丸出しだ。

 猿の奇声が木霊する。

 嬉しそうな叫び声に聞こえるのは気のせいか。


「大丈夫か!」


 一瞬、スピードを緩め地面に転がるピエラを抱き抱える。

 彼女の腰を抱えたまま全速で森から離脱。

 開けた先、ウミと少女の待つ空間へ滑り込む。

 木の葉に遮られていた日光が降り注ぎ、一気に明るくなる視界。

 そして、二人の奥に巨大な遺跡、神殿の様な建物が待ち構えていた。


 ピエラを下ろし、先着していた二人の顔を確認。

 若干疲れた表情を浮かべている。


「一回戻ろうか……」

「臭い……臭いでぇす!」


 俺の提案に地面にへたり込んだピエラから叫び声。

 うん。

 臭い。


「お風呂、入りたいね」

「はい」


 四人で!

 言う前ににウミさんから射すくめるかのような視線。

 石化とか、邪眼のスキルでも持ってるんじゃないだろうかと思わせるほどの威圧感。


「じゃ、一旦帰ろう」


 出直しだ。


 ◆


 チャイを飲みながらの反省会。

 皆風呂上がり。

 てかさ、一緒に入るなら俺も混ぜてくれても良いと思うんだ。

 良いと思うんだ。


「やっぱ、雑魚から強いね」

「強いっつーか、ウザい」


 頭上を取られる不利。

 そして枝を飛び移る不規則な動き。

 加えて、動きが早い。


「大分、島飛ばしてるからねー」


 つまり、単純に俺達のレベルが追いついていないのだろう。

 猿だけなら森を飛び越え、避けて行くことも可能だ。

 しかし、それではその先の本命、先程見た遺跡の中で苦戦することは必至であると思われる。

 打開策は……。


「呼ぶか……」


 強力な助っ人を。

 しかし、俺のその提案にピエラが意義を唱える。


「……悔しいでぇす……」


 チャイの入ったカップを握りしめながら、テーブルに目を落とし小さくそう呟いた。


 ふーん。ちゃらちゃらした子かと思いきや、意外と根性があるのか。

 ウミと目を見合わせる。

 彼女が、嬉しそうに小さく顎を引く。


「ま、急ぐ理由も無いし、ここでレベル上げしながら攻略するか。四人で」

「そうね!」

「はい。そうしましょう。ジル姉様呼んだら、きっと大変なことになります」

「ん? 何で?」

「森ごと全部燃やしつくしてしまいそうです」


 少女は冗談ぽくそう言ったが、しかし、ジルヴァラならやりかねないなと思った。

 リーザは木を切り倒してしまいそうだ。

 うん。

 自然は大事にしないとな。


 ◆


 夜間は、猿は動き回らないらしい。

 暗い森をウミが調毒の材料採集に行くのをみんなで護衛。

 とは言え、ピエラは【暗視】を持っていないので戦力としては計算できないが。

 てか、そもそもヒーラーだしな。

 今は俺の後ろで大人しくしている。


 ……何か、居る。

 頭上を見上げる。

 木の枝が生い茂る中に、何かの気配。

 数は多くない。


 しかし、視界にそれを捉えることは出来ず。


「どうしたんでぇすか?」

「何か……居る」

「え……」


 何処だ?

 何物だ?

 槍を手に闇の中に目を凝らす。


「ぇ……キャーーー!」


 背後のピエラから悲鳴。

 振り返ると既に彼女の姿は無く。


「キャーーー!」


 いや、上だ!

 頭上より落ちてくる悲鳴。

 見上げると彼女が何かに釣り上げていた。

 足をばたつかせ、しかし、二の腕から上を動かさないところを見るとその辺りで縛り付けられているのか?

 目を凝らすと、彼女の頭上に蠢く影。

 木の枝に張り付くそれは……巨大な蜘蛛か!?


 いや、それよりも!

 釣り上げられたピエラ。

 その直下のこの位置から、彼女のパンツが丸見えだ!

 どうしよう!

 最高だ。

 何で夜なんだよ!!

 明かりを!

 もっと明かりを下さい!!


「燃え上がる矢の疾走(フレイムアロー)」


 ウミの声と同時に周囲に光。

 良いぞ!

 しかし、その炎の矢はピエラの頭上を通り過ぎ、瞬間、彼女のスカートの中に暗い影を落とす。

 何してんだよ!

 しかし、ウミの狙いは俺の願望と違う所にあったようで、直後、上の蜘蛛との拘束を切られたピエラに今度は重力が襲いかかる。


「イヤーーー!」


 再び響くピエラの悲鳴と共に迫りくるパンツ!

 これ、あれだ。

 このままドシーン、イテテテて、ん、何だこれ?

 あ……ん……。

 ん?? ていうか、目の前が真っ暗だ。

 ちょ……動か……ないで、ん、あ!

 んん?

 って言う気付いたら股の間に顔を埋めていると言う、どうやったらそんな状況になるんだ? おかしいだろ的なラッキースケベ展開!


「ピエラさん!!」


 しかし、咄嗟に飛翔した少女が空中でピエラを抱きとめ、俺のラッキースケベを阻止する。

 あぁ……残念……。


「ハルシュ!」


 そして、俺を叱責し駆り立てる。

 はいはい。


 不利を悟ったのか、闇の中に逃げ込もうとする巨大蜘蛛。


「速射(ラピッド・ファイヤ)」


 待て! 逃げるな! 八つ当たりタイムだ!!

 そんな夜の日。

 今度ピエラと、うお座にタコ退治に行こう。

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