74 リーザと踊る
二人、庭に出る。
室内の喧騒から少し離れ、そして、涼しい風が落ち着きを運んでくる。
「なんだろうな。この世界は」
暗い庭から、窓ガラス越しに明かりと音とを外に漏らす絢爛豪華な室内を眺めながらそう呟く。
目と鼻の先の、その明かりの中でNPCが踊り、談笑し、音楽を奏でる。
そこにゲームの主役であるはずのプレイヤーは存在しない。
ここに俺達二人が居なければ、誰もそれを目にしていないだろう。
それでも、この催しは行われていたのだろうか?
何の為に?
さっき、苦し紛れに口から出た月と言う単語。
それすら、意味を持っていた。
「華やかですよね。本当に別世界」
全く違う意味で捉えたリーザが俺の言葉に同意する。
「それで、どうしてここに?」
「ハルシュさんこそ」
「魔物に襲われた馬車を助けたら王様が乗っていた。お礼にご馳走されました。一昨日の話」
極めて簡潔な説明。
そして、目を丸くするリーザ。
「君は?」
「魔物に襲われた馬車を助けたらお姫様が乗っていました。お礼を、と言って半ば強引に連れてこられました」
「なんと」
二人共ベタなイベントに巻き込まれたのか。
「そっちが良かったな」
「え、ああいうお姫様が好みですか?」
「嫌いじゃない」
デレたときのギャップとか。
何故かリーザから敵意を感じる。
「そう言えば、ジルもあんな感じですか?」
「アレは違う」
まだまだキャラが甘い。
「て言うか、ジルヴァラの事も知ってたな」
「馬車を助ける時に一緒に居たんですよ。あと、ウミと獅凰も」
「何で三人は来てないの?」
「ジルはリヒトちゃんが同席できないなら行かないって。ウミは、その、ご飯が……」
「ああ、美味くないもんな」
不味いとは言わない。
まあ、意味は同じだが。
首を縦に振ってから、リーザが続ける。
「獅凰も、そういう場は合わないからって、結局私だけ来ることになって」
まあ、あのコミュ障っぷりだとこんな社交場は避けたいよな。
……あ、メッセージ返してない。
「……獅凰にさ、メッセ返せて無くてスマンってそれとなく言っていおいて」
「あー。はい」
なんか、納得したようだ。
「で、自由騎士にならないかと誘われて辟易している、と」
「はい。ハルシュさんも?」
「きっぱりお断りした」
「なるほど。あのお姫様、我儘すぎで話し聞かないんですよね……」
またなんか厄介なことになってんのか。
「ま、どうしても面倒ならウミに振れば良い」
アイツなら大丈夫だ。
根拠は無い。
「でもまあ、次のイベントは、ちょっとあの人達の依頼と言う事で参加することになりそうです」
「え、ジルヴァラも?」
「多分」
「マジか」
勝手に前回と同じように二人で沈める計画立ててたのに。
後で相談しよう。
「ハルシュさんも一緒に行きますか?」
「いや、姫様の下働きは止めておこう」
図に乗りそうだ。
「じゃ、私が一緒に行くのはどうですか?」
「リーザは、命を大事にしないから駄目」
「えー。してますよ」
どうだか。
「ま、後で本人に相談するよ」
「ぶー」
「さて、そろそろきらびやかな世界に戻りますか」
そう言って、優雅に右手を差し出す。
リーザは一礼して、それに手を重ねる。
「そう言えば、どうして男装なんですか?」
歩きながら問われる。
「ダンスで殿方のお相手をするのはちょっと」
「じゃ、私のお相手をしてくださいますか?」
「喜んで、と言いたいところだが大して上手くない。リードなんて出来やしないけど」
「大丈夫です。私、スキル持ってますから」
それが正解ですよ。
「では、お願いしましょう」
◆
リーザにリードされ、と言うか、引きずられる様に二曲程踊る。
その下手くそなパートナーが、多少は引き立て役となったのか彼女を踊りへと誘うNPCがちらほら。
高貴なお世辞に照れ笑いを浮かべるリーザの背を押し、紳士の皆さんに後を託す。
スキルって、すごい。
そう実感した。
いや、もちろん経験者と言う可能性もあるのだが。
「素敵でしたよ」
そんなお世辞は要らん。
隅に引っ込んだ俺を少女が追いかけ、そして水を手渡して来る。
「何とか惨めな姿を晒さずに済んだかな?」
「ええ。
リーザさんもいらしてたんですね」
「お姫様の護衛役、と言った所かな」
「優雅な護衛役ですね」
ホールの中心で紳士と背景に薔薇が舞いそうな踊りを見せている彼女を見ながら少女が言う。
その姿を、二人眺める。
やがて曲が終わり、そして静かな曲に変わる。
「これで最後でしょうか」
そう、少し名残惜しそうに少女が呟く。
やっと終わるのか。
「アリアシア姫、一緒に踊っていただけませんか」
少女に向き直り右手を差し出す。
はにかんだ様に笑う少女。
「はい」
右手に少女の左手が重なり、そして、二人体を寄せる。
◆
「殿下、我々もこれで失礼します」
「何?」
舞踏会の後、獅子王を捕まえ辞去する旨を伝える。
「まだ良いだろう」
俺と少女を交互に見ながら引き止める。
「ここにいつまでもご厄介になっている訳にはまいりません。
それに、不死者が現れるやも知れませんので……」
周りに取り巻きが居るので、どうしても謙りながらの会話となる。
てかね、もう、ここのメシ、飽きたんだよ。
さっさと他に行きたいの。
「そうか……。
では、次に会うのは闘技大会だろうな。
活躍、楽しみにしているぞ。
武運を祈る」
「有難き幸せ」
あれ?
何か完全に配下になってるぞ?
ま、いいや。
てか、案内来てないがまた闘技大会やるのか。
あっちも月一でやるスケジュールか。
「殿下も御達者で」
そう少女が獅子王に笑顔を向ける。
「ああ」
と、獅子王。
結局、この二人の間でどんな約束が成されたのか、成されていないのか。
それを俺は聞いて居ない。
俺には関係の無い話だ。
◆
つーか、よく考えたらもう、イベントまで24時間無いわけですよ。
日付が変わってこの世界の夜明けと共にセーレが現れる。
少女に聞いたその出現予想位置。
乙女座も近いが、へび座も近い。
であれば今日はあの親父の宿に行こう。
少女を抱き抱え空を飛びながらそう提案する。
ログインの制限時間が近い。
超特急で行くのだ。




