75 イベントボスのソロ討伐に行く
「大丈夫だから」
心配、その二文字が顔から浮き出て来そうな表情を浮かべる少女の頭に手を乗せる。
「……はい」
そして、少女は俺を止める術を知らず。
「すぐ戻ってくるよ」
「はい」
今生の別れでもあるまいし。
「じゃな」
泣き出しそうな少女に軽く手を振り、空へ。
目標、ヴァルゴ北。
イベントフィールド、マエナルス。
◆
前回と同じ様に、空からフィールドが現れる様を見ている。
前回との違いは、たった一つ。
今回は一人という事。
魔王をはじめとした女性陣は結局姫に振り回されているらしく、であるなら、もう、一人で行こうと決めた。
前回は、呆気なく終わった。
今回も大丈夫だろう。
<ポーン>
システム音。
<イベントフィールドに侵入>
<プレイヤーを専用フィールドに転送します>
一瞬ぶれた景色の先、朝日が照らすその大地の中央に黒い影。
「光射す雨」
上空から有無を言わせず武技を放つ。
しかし、それは目標を捉えず全ての地に吸い込まれる。
目標とした黒い影があっという間に大きくなる。
飛んでいる?
改めて確認するその姿。
コウモリの如く翼を生やした黒い馬にまたがる黒いローブ姿。
手にするのは弓か。
そして、その姿、骸骨でなく青白い体を持つ若い男。
その男から矢が放たれる。
パリィ。
俺に一直線に飛びくるそれを、槍で叩き落とす。
その瞬間、視界から不死者の姿が消える。
と、同時に背後に気配。
考えるより先に動いた体が身を捻りながら、その気配と距離を置く。
その背後から俺の肩口を矢が貫く。
空を飛び、更に瞬間移動……!?
「治癒」
距離を取りながら回復。
その間に不死者は再び矢を番える。
それより先に左手を振り上げ、そして、銃の引き金を引く。
それに応え、魔法の弾丸が不死者に迫る。
しかし、それは、敵に届かず。
再び姿を消す不死者。
それに合わせ反転しながら槍を振り抜く。
しかし、それは空を切る。
不死者は俺のすぐ背後ではなく、二十メートル程後方に出現していた。
ならば。
それに向け、再度、銃。
再び消える敵の姿。
と同時に反転して背後に向け銃を放つ。
しかし、確認した、その先に敵の姿は無く。
気配はそれよりも下。
そう認識した瞬間、伸び切った左手首に下から飛来した矢が突き刺さる。弾みで銃を手放してしまう。
「治癒」
回復し、そして、地に落ちた銃を探す。
再び迫る矢を槍で叩き落としながら。
再び放たれる矢。
その瞬間を狙い、不死者に向かい全力で飛ぶ。
矢を紙一重で躱し、槍を伸ばす。
交差する瞬間、微かに切っ先が不死者の体を捉える。
そのままの勢いで地に落ちた銃の所まで。
それを拾いながら、反転。
不死者に向き直る。
やべぇ。
これだけやって、かすり傷ひとつ……。
これは、長くなりそうだな。
考えろ。
どう戦う?
空に上がるのは得策では無い。
死角が増える。
逆に地に足を着けて戦えば、その分奴の飛び先を制限出来る。
下から攻撃される事は無いはずだ。
それで、勝てるか?
やってみなけりゃ分からない。
万が一勝てなかったら?
……それは許されないな。
何と言われるだろうか。
せめて、何か残さないとな。
うん。
素早くメニューを開き、動画の撮影を開始させる。
「細工は流流、仕上げを御覧じろ」
空に浮かぶセーレに、そう、見栄を切って、そして銃を向ける。
さあ、何処へ飛ぶ?
◆
視界の端から迫る矢。
後ろに飛んで躱しながら、銃を空に向ける。
「全弾・光射す雨」
打ち上がった弾丸が、上空で軌道を変え地面にスコールの如く降り注ぐ。
その僅かな間にマジックポーションで補給。
弾の雨に貫かれながら、地面スレスレを滑空し、同じく、弾をその身に浴びるセーレに迫る。
しかし、その姿は再び視界から消滅。
「全弾・光射す雨」
もう一丁。
自分の攻撃をその身に浴びながら、攻め続ける。
そんな捨て身のやり取りで初めに根を上げたのはセーレの駈る馬であった。
無数の弾丸に貫かれたその翼に飛膜は既に無く。
そして今、力なく前足を折り、そのまま崩れ落ちた。
咄嗟に馬から飛び降りた不死者は、動かなくなった馬を一瞥した後、こちらに向き直り、腰の剣を引き抜いた。
ゆっくりと、互いに間合いを詰める。
飛べないのか、それとも、飛ばないのか。
まだ気を抜くには早い。
しかし、戦況は好転している。
「速射」
左手の銃から放たれた最速の武技。
しかし、それをセーレは手にした剣の一振りで弾き消した。
「連弾」
ならば、これでどうだ!
計七発の弾丸が間髪置かずにセーレに迫る。
そして、俺自身も槍と一体化しそれに続く。
その全てを、避け、或いは、剣で捌いて見せたセーレ。
滑空しなから槍で突進した俺も例外では無く。
剣で穂先をいなされ、セーレの横をすり抜ける。
そのまま急制動をかけ、伸ばした左手の銃口がセーレの頭部を間近に捉える。
「乱射・光」
引き金を引く、それと同時にセーレのすくい上げた剣が俺の左手を斬りとばす。
しかし、それは一息遅く。
放たれた無数の弾丸がセーレの頭を飲み込む。
更にその胴体へ英雄の槍を突き立て、貫き、串刺しにする。
そのまま、不死者はその体を粒子と化し、朝焼けの終わった空へと消えて行った。
<ポーン>
システム音。
<降臨モンスター・セーレ討伐おめでとうございます>
<フィールド上のプレイヤーには初回撃破ボーナスが送られます>
<特別フィールドから通常フィールドに転送します>
再び歪む景色。
終わった。
辛うじて生き残れた。
弾き飛ばされた銃を拾い上げ、そして、空へ。
島の領域から出てすぐに離脱で島へと戻った。
◆
見慣れた街。
生きてる。
転送直後、安堵と疲労でその場へへたり込んでしまう。
暫し、一人勝利の余韻に浸る。
……勝った!
「ハルシュ!」
声と共に、少女がこちらに走って来るのが見える。
立ち上がり、右手を上げる。
が。
思いの外、勢いよく飛び付いて来た少女を支えきれず、再び地面に倒れこむ。
少女はそれでも俺に抱き付いて離れない。
「アリアシア?」
「……良かった。……生きてて」
そう言った彼女の声は鼻声だった。
更には、その少女を追うように駆けて来た二人の姿。
「ずいぶんボロボロね」
「死に戻りじゃー無さそうだ」
ジルヴァラとウミだ。
「どうした?」
左手を上げながら声をかける。
しかし、その左手は先が無く。
二人からは呆れ顔が返って来る。
少女は胸に顔を埋め泣いている。
あ、ワンコも。
あいつ、またデカくなってるぞ!




