73 舞踏会が始まる
「断られたんだって?」
これから来賓が来ると言う謁見の間で、隙を見計らい獅子王に問い掛ける。
薄ら笑いを浮かべながら。
「何だその顔は。
……信じられん。一体何が不満なのか」
食事らしいぞ。
不満は。
「アレも色々と考えてるんだ。ていうかまだ子供だろ」
「ふん。もうその話は良い」
ほうほう。
余程ショックだったと見える。
そっと同情の眼差しを向ける。
「お前、そう言う奴か……」
「何か?」
「いや、金牛王の気持ちがわかったよ」
「そうかい。追い出すか?」
「いや、今日は我慢しよう」
「流石だな」
褒めたつもりだが、苦虫を噛み潰した様な顔をする獅子王。
周囲の視線がそろそろ痛いので末席へ戻るとしますか。
◆
デカイ扉が開き、来賓とやらが入ってくる。
先頭に立つのは、青みがかった銀髪の女性。
十代後半だろうか。
華美な衣装を身に纏っているがその自信に満ち溢れた表情、そして、堂々とした立ち振舞。
それらは、衣装が彼女を引き立てるものでしか無いことを如実に表していた。
「獅子王殿下に於かれましてはご機嫌麗しく」
優雅に一礼をした後、そんなお決まりの様な挨拶が始まる。
それよりもだ。
入ってきた一団の中に知り合いの顔が有るとはどういう事だ?
全く予想していなかった。
向こうもそれは同様だったようで、目が合い、そして、二人同じ様に小さな驚きの表情を貼り付ける。
最早、謁見の儀式どころでは無かった。
◆
さり気なく謁見の席で俺を紹介する獅子王。
命を助けられ、意気投合し、世界の行く末を嘆き合うほどの仲になったとかなんとか。
それに対し、真珠姫と呼ばれた来賓も同行させていたゲストを紹介する。
一騎当千の強者。
その剣は全ての不死者を打ち砕き人々の安寧を守るだろう。
そして、行く行くはヴァルゴの自由騎士団、その象徴となるであろう。
最も今は大切な友人であるが。
そんな言われようを、僅かに困惑の見える顔で聞いていたのはリーザだった。
ま、何だ。
お互いにドンマイ。
◆
流石に晩餐会は辞退した。
作法がわからなすぎるし、メシもイマイチだ。
向こうのそれを承知していてか、是非にとは言わなかった。
結局、舞踏会が始まるその時間までリーザと接する機会は訪れなかった。
相手の状況が分からないので通信も控えた。
◆
詰襟で、それとなく首の紋様を隠す。
更には城の人が、丹念にドーランを塗りたくりそれを完全に隠した。
その最中の汚物を見るような目付きが印象的であった。
結局、ドレスでは無く男装をする事にした。
だって、そうしないと野郎とばかり踊る羽目になる。
いや、そんな殿方がいるかはさておき。
そう。
獅子王は歓迎するといったものの、やはり城内上げての歓迎ムード、と言う訳では無い。
そして、それを面とむかっては口にせず言葉の端々から感じさせようと言う心配りは流石高貴な世界と言わざるを得ない。
「へー」
開口一番、驚きを示した俺に少女が伏し目がちに聞き返す。僅かに顔を赤らめながら。
「おかしく、無いですか?」
舞踏会の為の衣装を身に纏い、そして、それに合わせ、髪を結い口に紅を引き……。
「獅子王が地団駄踏むだろう」
少女が自分の時代を生き、そして、この城へと嫁ぐ日が訪れていたとしたら、それは後世に語り継がれる出来事になったのかもしれない。
あるいは、この時代、この城へ同行したのが俺で無ければ。
「それは?」
「来賓のお姫様より綺麗だな。主役の座を奪っては申し訳が立たないから大人しくしていよう」
そんな台詞を言いながら、少女の手を取り今は人で溢れるホールに向かう。
◆
それは、ホスト故の気遣いか、それとも再度結婚を申し込む為の策略か。
ともあれ、獅子王は少女を踊りに誘い。
それを皮切りに何人かパートナーを変えながら、少女は華やかな舞踏会を楽しんでいる。
「ご機嫌麗しゅう。ハルシュ殿」
そして、俺はこの舞踏会の主賓に捕まる。
傍にリーザ。
若草色のドレスが似合っている。
まあ、しかし、この場の主役には敵わないか。
「お初にお目にかかります。エルア姫殿下。
本来はこのような場など縁のない身分故、無礼、無作法があろうかと思いますが、ご寛容くださいますようお願い申し上げます」
そう言って彼女の差し出した右手の甲に口元を近づける。
口を付けてはいけないらしい。
少女に習った。
「気にしません」
そう言って姫は値踏みするように俺を見る。
「獅子王に仕えるですか?」
そして、俺の目を見てそう問いただす。
勝ち気でやや攻撃的な口ぶり。
真珠姫という可愛らしい呼び名は見た目だけの話か。
「そのような恐れ多い事はとても」
「では、我らに仕えなさい」
ハハハハハ。
知らずに人気者になってたな。
「獅子王からは、他の誘いの倍を出すと、言われております」
やんわりと、お断り。
「ならば、その倍を出しましょう」
ほほう。
どこまでも強気ですね。
「身に余る光栄です。
ですが、既に騎士として誓いを立てた主がおります故、拝辞いたしたく思います」
「それは、ジルヴァラの事か?」
それも知ってんのか!
そうか。
リーザと居るから知っていてもおかしくは無いわけで。
ぬかったな。
ここで彼女の名を出して、余計なゴタゴタに発展するのは避けたい。
かと言って正直に少女を出すわけにも行かない。
「いえ。もっと弱き者。世界。そして月です」
咄嗟に、そう口から出た。
「ハハハハ。空を駆るものに月まで引き出されては下がらざるを得ないですな」
助け舟は意外なところから。
いつから聞いていたのか獅子王がそう口を挟む。
「さて、我が友よ。麗しきエルア姫をそろそろお貸し頂きたい。
他にも是非挨拶を、と言う御仁も多いのでな」
誰が友だ。
しかし、まあ、助かった。
こんな衆人環視の中で変なボロを出す前で。
「ふん。ではまたの機会としよう」
姫に一礼。
次は個室で二人とかどうですか?
「エルア様、私は少し、ハルシュ殿とお話が」
「あいわかりました」
リーザが姫に断りを入れ、獅子王に案内されていく姫を見送る。
「少し、夜風にでも当たりますか?」
リーザに果汁の入ったグラスを手渡しながら言う。
「そうですね」
「では、あちらへ」




