39 泡風呂にウミが入ってくる
翌、夜の日。
まだ少女は寝ているだろう。
今の内に、配達の一つでもして来ようか。
その前に、名物らしい泡風呂に入ったものの、何かが気に入らない。
これは、大人数できゃっきゃ、きゃっきゃとやるものじゃ無いのか?
そうだ。
そうに違い無い。
よし!
四人で!
……無理だよな。
泡に浸かりながらそんなバカな事を考えていると通信が入る。
『あれ? インしてる?』
「してるが取り込み中」
『どこ? フィールド?』
「バスタイム」
『……長くなる?』
「なる」
『うーん、そっか……』
「一緒にどう?」
『うーーん……ま、良いか。ロック掛けてる?』
え。
「掛けてる。が、マジで来るの?」
『ちょっと話したい』
「言っとくけど水着不可だからな?」
『だと思った。了解。入室許可お願い』
仮想ウインドウを操作し、貸し切りの大浴場へウミの入退出を許可する。
「今、した」
『どーも』
なんだ、この展開。
あれか?
なんか、魔王と少女がやけに百合百合してるからか?
やがて、背後からバスルームのドアが開く音……。
来た……。
恐る恐る振り返る。
そこには、ピンクの! ピンクの! ピンクのウサギ!
どうせ! そんなことだろうと思ったよ! ちょっとでも期待した俺が馬鹿だった!
何で風呂入るのに気ぐるみなんだよ。
なんか、一回りして違和感無い! 不思議!
「お待たせ」
「死ね」
「ほー泡風呂かー」
「脱げ」
「てかさ、風呂、入りすぎじゃない?」
「お前は食いすぎだ!」
着ぐるみが洗い場で体を流す。
そして、湯船に浸かるためにこちらに向かってくる。
「その格好で湯に浸かるかの!?」
「そうだけど?」
「張り付いて気持ち悪くないのか?」
「水着で外からの見え方を変えてるだけだから、全然平気。ハルシュからは可愛らしいウサギに見えるけど、私からはそう見えないし、感じもしない。すごいっしょ?」
「その技術で、美女全員が全裸に見える薬を作ってくれよ」
「バカじゃないのー」
バカに馬鹿売れするよ。
世の中の男は大抵バカなんだ。
「で、話ってなんだよ」
両手に泡を乗せてはしゃぐウサギに問い掛ける。
「君さ、ハーレムでも作る気?」
「は?」
「何処かからNPC連れて来たと思ったら、今度は魔王、攫って来て」
「どっちも人助けだよ。それにみんな中身は男かもしれないだろ。アイツ以外は」
NPCがネカマです。なんてよくわからない状況には無いはずだ。
「それは無いと思うわ。みんな女の子だよ」
「何で言い切れる?」
「それくらいわかるよ。仕草とかで。女同士なんだもん」
そりゃそうか。
ネカマもよく見りゃ大体わかるしな。
気を付けよう。
「私は、ネカマじゃない!」
「いやいや、もう、それ良いから」
「まあ、言ったように全部成り行きでこうなってるだけで、何か目的が有るわけじゃない」
「そうは見えないけどね。
なんか、いきなりレアアイテム拾ってきたり、賞品を餌に魔王を引き入れたり、思わせぶりな態度で修羅を手篭めにしたり」
「リーザはお前が連れてきたんだろうが。それに、LP回復薬は俺には無用の長物。取引に英雄は十分釣り合うだろ?」
結果的に全然釣り合って無かったけどな!
「その結果、君を中心にランク10が三人。しかも闘技大会上位の三人。最強攻略ギルドでも作るの?」
「そんなつもりはサラサラ無いよ」
そこまでやると流石に敵が多くなりそうだ。
「強いて言うなら、折角色々手に入れたんだから思う存分暴れたいぐらい。ちょっとは派手に」
「なるほどね。そりゃ、そうか」
「その結果、あっさり退場になってもまぁしょうがないよな、ぐらいに思ってるけど」
「は?」
ん?
ウサギが表情を変えずこちらを向く。
「そしたらアリアはどうなるのよ?」
「どうって?」
「放り出すつもり?」
「仕方ないだろ。LP尽きたらそれっきりなんだから。アイツにもそう言ってある」
「だったら、そうならないようにしなよ」
「そんな事言われてもな。
そもそも、このゲームだっていつまで続けるかわかんないし。そんな中でNPCの面倒なんて、最後までは見きれないだろ」
「それは、そうだけど……」
「いや、出来る限りはするさ。無下に捨てたりするつもりは無い。
でも、それだって限度が有る。
生き物のペットは飽きても捨ててはいけません。他の人の迷惑や環境への影響も考えましょう。だから架空世界で飼いましょう、て倫理観。アレと同じだよ」
「あの子が犬猫と同じって言いたいの?」
「いや、言い過ぎた。そう言う意味じゃない。
ただ、この世界の事に必要以上の思い入れはないし、持つつもりもない。そう言いたかっただけ。
だからと言って、アイツが邪魔になったから捨てるとか、消すとかは考えてない」
それをすることは自殺と同じだから。
それに、こっちで悪事を働いた事を引き摺り、後ろ暗い気分で現実に戻るなんて本末転倒だからな。
「私はね、あの子、好きだよ。素直だし、だんだん表情豊かになって行くし」
「そうだな」
「だから、君が何を思ってるのかちゃんと聞いておきたかったの」
「ふーん」
「それこそ、性奴隷にでもするようなら殺してやろうと思ってた。LP尽きるまで」
「そりゃ怖い」
ウサギから僅かに殺気が立ち上る。
「そのつもりは?」
「無い無い。そうしようにもモノが無いしな」
「ふーん」
「それは俺より魔王様を心配した方が良いんじゃ無いか?」
「あっちは、大丈夫、だと、信じたい……」
「え、珍しく歯切れが悪いな……」
「いえ、気の所為か、あの二人の後ろにたまに花が見えるのよね……」
「気の所為だろ……」
「そうよね……」
余程、『姉様』という人が好きだったんだろう。
おそらくは、俺の持つ槍に貫かれ命を落としたという人。
その事実を、少女は知っているのだろうか?
知っているなら、決勝は、姿こそ違え、その二つの力がその場面を再現していたわけだ。
「なあ、人並みの幸せって何だろうか?」
「食って寝る。それが、当たり前にある事」
なるほど。
「お前らしい」
「何の話?」
「アイツの親にさ、言われたんだ。
せめて人並みに幸せにしてやってほしい、って。
そもそも、この世界の人並みがわかんねーしなーと思ってさ」
「それ、嫁入りじゃ無いの? 君が新郎」
「ボケてたのかな。三百年以上生きてた見たいだから」
「そうなの?」
「あれ? 言わなかったっけ?」
「聞いてない。
それでか。あの子の本、今は無い魔法が書かれてるみたい。ジジイがそんな風に言ってた。あ、見せた訳じゃ無いよ。さらっと聞いただけ」
そう言えば、停滞の魔法とか言っていた様な。
「その魔法、アイツも知ってると思う。使えるかはわかんないけど」
「そうか。ちょっと、ちゃんと読み解いて見ようかな。アリアに断って」
「何でそんなに魔法に熱心なの?」
いつの間に、そんな事に。
「……笑うなよ?」
「ん?」
「私はね、リーザと一緒に戦いたいの。いえ、リーザだけじゃ無い。ジルとも、そして君とも」
「戦えばいいじゃん」
「後ろから付いて行くだけの荷物になりたく無いのよ」
「ふーん。でもみんなランク10だからな。必要以上に張り合う事も無いだろ」
「何その言い方。
君はそのランク10を下して、ランク10を手に入れたのよね?
……それとも何か秘密があるの?」
その問いに俺は満面の笑みを返し、否定も肯定もしない。
「何かあるでしょ?」
「一緒に風呂に入るなら教えられる事もあるかもしれない。もちろん、全裸で」
「それ、アリアに同じ事言ったら殺すから」
おお。それは怖い。
ま、そんな事言うつもりはさらさら無いけど。
「じゃ、お前の隠し事教えろよ」
「何の事?」
ウサギが表情を変えず首を傾げる。
「LPやばいって言ってたよな。何でだ?」
「女は一つや二つ、秘密があった方が魅力的でしょ?」
「秘密が一つ、つまびらかになったところでお前の魅力は揺るがないよ」
俺の返しに、一瞬動きが止まるウサギ。
「……スゲェな!」
「何だよ」
「さらっとそんな事言えるのが」
「だろ。俺も驚いてる」
「恥ずかしく無いの?」
「無い」
「言われた私が恥ずいわー」
ははーん。
さてはこれが英雄の能力か?
「隠し事なんか、駄目だよ。僕、お姉ちゃんの事、嫌いになっちゃうよ」
「へへへへーっ」
頭を掻くウサギ。
「すまん。これの方が恥ずかしい」
「今度さ、私好みの服を着てから言ってくれない?」
「嫌だよ。で、言う気は?」
ウサギは、軽く首を傾げ誤魔化した。
◆
ウサギと長時間泡風呂に使ってのぼせたらしい。
結局、配達には出ずログアウトした。




