38 リーザが魔王を泣かす
「いやー、酷い目に合った!」
離脱で街に戻り、そして先に飛んだ二人に明るく言う。
「……ごめんなさい。私の所為で」
軽い冗談のつもりだったのだが、ジルヴァラが泣きそうな顔をしながら謝罪をする。
ジト目でリーザが俺を睨む。
「ちょっと戦い方考えましょう。一緒に」
ジルヴァラの肩に手を回し、俯いた彼女に視線の高さを合わせながらリーザが優しく言う。
「いいの。もう。迷惑ばかり。
この街でアルバイトを探すわ……」
いやいやいや。
なんでそんなにアルバイト?
そうだ。
良いバイトがある! 俺の三助なんかどうだ?
「じゃ、私の囮役やりなさい」
リーザが、唐突にそう命令した。
◆
「囮役ならそれなりに戦えないと駄目だからまず、武器を決めましょう」
「え、でも」
「魔王の力は強力だけど、いざと言う時の為に取っておいた方がいいわ」
「あの」
「ハルシュさん、どう思います?」
ん?
どうって言っても……。
「セオリーなら魔法で援護かな。でもそれだとMP切れるか」
「そうですよね。逆に近接なら攻撃を避けなくても良いって言う利点がありません?」
「いや、動けないんだろ?」
ジルヴァラを守る霧は走ると消えてしまうらしい。
完全なる固定砲台。
「じゃやっぱり遠距離か。その銃はどうです?」
「これも、MP消費武器なんだよ」
「なるほど。それであの威力なんですね。痛かったなー」
「ごめんなさい」
「えっと、二人とも?」
会話に着いて来れないジルヴァラが俺達の間でキョロキョロしている。
「ジルヴァラ。私達が貴女を一人前にしてみせるわ。安心して」
そう、笑顔で言うリーザ。
昨日負けてたけどな。
そして、俺も頭数に入ってるのな。
ま、良いけど。
なんか、少女に懐かれてるみたいだし。
……あれ?
「泣いてんの?」
「泣いてないわよ!」
ジルヴァラは目を擦りながら答えた。
◆
ウミとも合流し、ジルヴァラの成長方針を話し合う。
今日のウミさんチョイスは、パンの切れ目に色々挟むサンドイッチの店。
いや、美味いんだけど、そろそろ日本食が恋しくなって来たな。
「そりゃ鎌でしょ。鎌」
ベーコンとハムを山盛り挟んだサンドイッチを齧りながらのウミ。
「鎌は、使いづらいだろう。似合いそうだけど」
「だって魔王だよ? 他に選択肢ないじゃん!」
「それは、多分振り回せないわ」
やんわりと否定するジルヴァラ。こちらはローストチキンに野菜多め。
「やっぱり遠距離ですかね。弓とか」
エビのなんとかサンドを頬張るリーザ。
「イメージに合わなく無い? 魔王様よ? 弓の魔王様?」
「和風の弓で袴姿にしたらどうだろう?」
「袴? イメージできないわ。何故?」
俺が見たいから。
「どうせロクでも無い理由でしょ。そう言えば、前、アリアの姉様は何をつかってたの?」
「え? 姉様ですか? 姉様は聖職者でしたので、武器は持っていませんでした」
チーズのタップリはいったサンドをゆっくりと齧る少女。
「ヒーラーか。やっぱ魔法か?」
「そうね。MP消費を抑える杖とかあるみたいだし、一番無難かもね。MP吸収スキルもあるし」
「へー。そんなスキルあるんだ」
「うん。『吸血』。ランク7だけど」
「吸血……モンスターに噛み付くのか?」
「なんか味方でも良いみたいよ」
……想像してみよう。
銀髪の少女が、恥じらいながら上目がちに、俺の首筋にそっと甘噛するところを……。
そっと、甘噛みするところを……。
「アリだな!」
「何が?」
ジト目のウミ。
そして、机の下で誰かが俺の向う脛を蹴る。
位置的に多分リーザ。
「ナシね」
とジルヴァラ。
何でだよ! 皆して!!
「ステータス的にも、魔法が一番無難かしら」
「じゃ、後で一緒に行こう! 私、全属性の魔法取ってるから、簡単な説明なら出来るよ!
それからどうしたら良いか決めれば良い!」
そう、ウミが提案する。
「え、良いの、かしら?」
「良いの良いの。その代わり、後で服を変えさせて欲しいのと、是非、ジルにはその魔王様キャラを貫いて欲しい!」
「何だそれ?」
「たまに素が出てるからね」
「そんな事! ……ないです、わ」
あるな。
それにしても。
「お前、そんな魔法持ってたんだ。属性多いと効率悪いってよ?」
「知ってる。でも良いの! 私は威力じゃなくて種類が欲しいから」
「ふーん」
「あれ? 何その目。疑ってんの? これでもジジイにみっちりしごかれたんだから!」
なるほど。
ここで、あのジジイか。
「そう言う訳だから、次は私も行くよ! アリア、悪いんだけどハルシュの相手してあげてね」
「いや、逆!」
「何かあったらすぐ呼ぶんだよ!」
「はい。姉様、いえ、ジル様、頑張って下さい」
「アリア……大丈夫よ。私にかかれば魔法くらい何て事は無いわ」
「ジル様……」
何でそこで見つめ合ってんの?
後ろに花が見える気がするのは錯覚?
俺の願望?
そんな空気をぶち壊す様で気がひけるが。
「その前に、移動しよう」
◆
〜【アクベンス】 エリア:カンケル〜
横を大きな川が流れる、魚介の豊かな街。
船に乗り、各々ログアウトして行く。
それを見送り、そして、少女を抱き抱え、その船を追い抜いて行く。
この方が早いし、金もかからん。
カス共を恫喝し、俺の力も闘技大会で示された今、最早隠れて行動する意味はあまり無いのだから。
「私も、飛んでみたいです」
長い髪が風に巻き上げられるのを必死に押さえながら俺にしがみついていた少女が、港に着き、そして一休みした後、そう言った。
「それは、出来るのかな?」
そんな事可能なのだろうか?
「今度、教えて下さい」
「うーん、出来るかわかんないけど、それでも良いか?」
「はい」
少女は真剣な眼差しを俺に向ける。
「うん。じゃ今度」
「はい!」
そう、少女と約束をする。
さ、宿を取ってログアウトだ。




