37 魔王の力を見る
アルデバランの街を少女と歩く。
石畳の路地に石造りの建物が立ち並ぶ。
時折、俺に気付き手を振るプレイヤーに手を振り返したりしながら。
「ジルヴァラって、そんなに君の知る人に似てるの?」
初めて見た時よりは、少し肉の付いた少女に問いかける。
「いえ。似て、無いです」
似てないのか。
「性格は、ウミさんみたいに明るくて、リーザさんみたいに栗色の髪をしてました」
全然違う。
「でも、姉様と同じ、忌の力。あの黒い衣を纏わせた寂しげな目は、姉様と同じ。それを、ハルシュ様の槍が、姉様を、そしたら、悲しみが止まらなくなりました」
今のハルシュ様って、俺では無く、前の槍の持ち主の方だろうな。ややこしい。
「でも、二人が一緒に戻って来てとても嬉しかったです。それで……」
それで百合百合してたのか。
「そう言えばハルシュの力。なんで隠しているんですか?」
「ん?」
「その寵愛は、前から持ってましたよね? ウミさんとリーザさんには隠してますが」
「あー、深い意味は無いけど、謎が多い方が楽しいだろ?」
性別とか。
そんな事も無いか。
「そうですか?」
軽く首をかしげる少女。
その表情は以前よりもずっと明るい。
「そうだ。これを渡さないと」
取り出したのは、イヤリングと指輪。
「なんですか? これは」
「通信機。何かあったらこれで誰かを呼ぶんだ」
少女はそれらを受け取り、少し観察した後、身に着ける。
「昨日いた三人と俺のデータは入って居るから」
少女は左手の人差し指に、指輪をはめ、そっと上から下に、まるで何かをなぞる様に動かす。
彼女がいた頃から似た様な物はあったのだろうか。
NPCも通信機を使えるのは傭兵のジジイで実験済み。
それを、ウミがアクセサリーに見せかけた。
と言っても、着けていても目立たず、邪魔にならない様に大した飾りも無い物なのだが。
目の前に開かれた仮想ウインドウを見つめ、少し、考えたのち、それに触れる。
俺の視界に、通信を知らせるマーク。
視線を動かし、それを視界の中央に。
マークの色が変わり、アクティブになった事を確認して軽く瞬き。
「はい」
目の前の少女と、そして、通信機能から、二重に声が聞こえる。
『「ハルシュですか?」』
「そうだよ」
『「ありがとうございます。大事にします」』
そう言って、少女はニッコリと笑った。
◆
~【カストル】 エリア:ジェミニ~
隣接するポルックスとよく似た街並みのためしばしば双子都市と呼ばれる。
カストルには港があり、ポルックスには王宮がある。
アルデバランから船に乗り、次の島へ。
同行するのは、賞金が入り晴れてアルバイトを辞めたシルヴィラ。
新しい剣を買いに行くと言うリーザ。
そして、当然の様にウミと少女。
少女に、世界を見て回れば良い、などと偉そうに言った手前、飛んでコル・カロリに帰ろう、とも言い難く。
まぁ、そろそろ他の島に行く時期なのかもしれない。
◆
他にフレンドが居ないと言うジルヴァラを、リーザが、先輩面して狩りに誘い、それに俺も付き合う。
クズ共が本当に手を出さないか少し気になってもいたし。
ウミと少女は観光と言って街に残った。
『歩いて、食べる』である。
このゲーム、基本的に街の周囲にはそれほど強い敵は居ないらしい。
ただ、少し奥に入ったエリアや、洞窟などは島を進むごとに格段に強敵が出現するとの事。
いくら、魔王とは言え、レベルは3。
安全に街の近くで軽く狩りをすることになった。
他のプレイヤーにとっては少々物足りなく、比較的人が少ないと言うのも理由の一つ。
まあ、この二人が居れば俺は回復だけで十分だろう。
それすら必要無いかもしれない。
そんな風に思っていた。
◆
「リーザ、右から三匹!」
「無理ー! 手が回りません!」
「くっそ、当たったらスマン! 星降如く」
魔導銃を上に向け、引き金を引く。
銃口から天に向かい、魔力の弾丸が勢い良く吐き出される。
それは、朝顔の如く、上空に花を咲かせた後、一斉に地に向け降り注ぐ。
「きゃー、当たったー!」
「ゲ、避けろって言っただろ!」
「こっちはこっちで手一杯なんですよ! そんな余裕無いです!」
「それでも避けろよ! 治癒」
巻き添えを食ったリーザに回復魔法を飛ばす。
「ジルヴァラは、平気か?」
「大丈夫よ」
「そうか。良かった」
「ハルシュさん! もっと私の心配をすべきじゃないですか!?」
斧で、取り囲むモンスター共を薙ぎ払いながら不満を口にするリーザ。
いや、君、心配されるほど弱くないじゃん。
◆
街の近く、それほど、モンスターは多くない。
筈なんだが、いつの間にか大量のモンスター共にぐるりと取り囲まれていた。
強さはそれほどでもないが、数が多い。
こんな時こそ魔王の出番!
初っ端にジルヴァラが、黒炎で取り囲むモンスター共の一角を文字通り消滅させた。
ほえー。すげー。
呆気にとられる俺とリーザに、ジルヴァラは少し申し訳無さそうな顔をして言った。
「ごめんなさい。次、十分待たないと撃てないの」
◆
十分に一度、強力な魔法を吐き出す魔王。
動かなければ、その身は黒い霧が守り、並のモンスターなら近づくことすら叶わず跳ね返される。
完全に、固定砲台。
結果、大量のモンスターを相手にする俺とリーザ。
そして、霧の中でちょっと申し訳なさそうに、たまに応援を寄越す魔王。
「そろそろ行けるわ」
二度目の大砲、チャージ完了。
「一面焼け野原に出来るか?」
「私を中心に半径20メートルくらいなら燃やし尽くせると思う」
……とんでもない威力だ。
「じゃ、俺達が離脱したら合図する! リーザ、手を上に!」
「え?」
俺は、リーザに向け一気に飛翔。
そして、戸惑いながら挙げられたリーザの腕を掴み、魔物の群れから引き抜き上空へ。
「ギャー!!!!」
「よし、良いぞ。ジルヴァラ」
念の為、上空から巻き込まれるプレイヤーが居ないことを確認。
『炎。全てを無に』
ジルヴァラを中心に黒炎が竜巻となり立ち上る。
あっという間に消えた、その炎は、周囲の敵を一掃していた。
まるで最初から存在していなかったかの様に。
「良し、さっさと帰ろう!」
『はい。離脱』
ジルヴァラが離脱。
「リーザ。ほら、帰るよ」
「もうちょっと! 丁寧に扱って下さい!!」
腕一本でぶら下がりながら抗議するリーザ。
俺が先に離脱すると、多分彼女は地面に落下する。
「そんな余裕無かったよ」
「じゃ、このままお姫様抱っこにして連れて行って下さい!」
え。
「マジで?」
「……冗談です」
「……リーザなら大丈夫だって信頼してるんだよ」
「取って付けたようなおべんちゃら! せめて、弾が当たらないように気を配って下さい。離脱」
うん。
次から気を付ける。
俺もテンパってたんだ。
それにしても、使い勝手が悪すぎるぞ……。あの固定砲台……。




